鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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「外してあげるけど暴れちゃだめよ」

「面倒見るから大丈夫よ」

女が忠告したら体にきつく巻き付いていた蛇がボタボタと落ちた。

自由になった俺はとっさに見構えようとしたけど肩をローラさんが掴んで動けなくなる。

「……何ですか、これ」

さっきと違って口は動かせる。

でも首から指先、全身が動かない。

辺りを見ることが出来ず視線は足元。

段差のないつるつるの石畳だけが視界にはいってる。

「反抗しちゃだめよ?ここは本部だからお行儀良くしなさいね」

「王都ですか?」

「そう」

「……この人達は?」

「本部の職員。犯罪を犯した上級以上のランカーを捕まえるのが仕事なのよ」

「ロクロとチサキはいいけどシーダは単細胞だからなぁ。骨が折れたわ」

「ローラ、そいつはサイクロプスのところ」

「ロクロ達は?」

「しばらくこのまま拘束」

無理やり視線を向けるとチロチロと蛇特有の細長い舌を覗かせた。

俺の視線に気づいて見せびらかしながらチャリチャリと手の中のビー玉を転がして女がぺろっと3つの玉を飲み込んだ。

「な、」

びびって固まってると女はにやーっと俺を見て笑った。

「あんたも丸のみにしてやろうか?」

「出せよ!吐き出せ!」

咄嗟に飛びかかったけどすぐに首根っこをねじられて後ろに引き倒された。

「ううっ、ぐっ」

さっきよりひどく体が動かない。

指先も何もかも。

「ちょっとお、ローラ。ちゃんと捕まえてなさいよ」

「意外と魔力耐性があるわね。術から抜け出したわ」 

「ローラがぬるかっただけじゃないの?」

「手加減の方が苦手。本人よ。かなりかかりにくいらしいわ」

「へぇ、マジかぁ。気を付けとこう」

もういいからサイクロプスのところ連れていこうって急かしてる。

さっきから名前が出るけど誰だよそいつ。

なんで。

くそ。

親父達がこの蛇女に飲まれた。

睨むとチロチロと赤い舌を覗かせてバカにした目付きでニヤニヤ。

嫌な女だ。

「ロ、……ラさ、ん」

「大丈夫。ウグルドのお腹はこの国で一番安全。出し入れも自由なの」

「下級に知らせても」

「だなぁ。終われば記憶操作するし」

ふふんと笑って見下してる。

上級ランクだけの規定と情報か。

「影で連れてくわ。それが早いし。ウグルド、こいつらを包め」

「えー?従魔を出せないの?」

「キツいんだって。マジであほ。シーダのせいだ。今も中で暴れてるわ」

「げ、お腹破らないわよね?」

「あいつは解除魔法を使えないからへーき、へーき」

「護符持ってるじゃん」

「ムリムリ、あいつの所有でそんな効力はないって。ガチの魔力特化にしか破れねぇよ」

「そうね。私でも無理よ」

エルフのローラさんも破れないってことか。

「でも嫌よ!怖いし。シーダだけ出しておく」

「ダメだって。奪われたら困るっつーのに」

ドームが止めるのも聞かずにべっと口から吐いて黒いビー玉を一つ取り出した。

よく見ると時々ピカ、ピカと妙に光ってる。

「うわぁ、暴れてるー」

「懲りねぇなぁ、こいつ」

分からなくて見つめているとモヤモヤ野郎がこっちを見た。

「中で暴れるとこうやって光るんだ。あーそうだ。お前、こいつなだめてよ」

「そうね、やってみてよ」

「……どうしてですか?」

挑戦的な二人に尋ねた。

「仕事よ、仕事。こいつらの安全も守んなきゃなの。捕まえて終わりじゃないわけ。分かる?高位ランカーよ?他国に奪われるわけにも命盗られる訳にもいかねえの。てか、ロクロからシーダが言うこと聞かない時はお前に頼めって言われたのー」

「早くしてよ」

ピカピカ光るビー玉を押し付けられて、さっきローラさんがしたように両手に包んで話しかけた。

「ダイネェ、俺だけど分かる?ラオシン」

そう言うとピカピカが激しくなった。

「ちょっとじっとしてよ」

するとピタッと止む。

でも催促するように小さく光る。

中身は確かにダイネェみたいだ。

「……俺はこれからサイクロプスって人のところに行くって。どうなるか分からないけど。色々聞いたけど何かの間違いだと思う。ちゃんと話をしてくるから。……ローラさんも、いるし、俺を待っててよ」

小さくピカッと光ってそれから静かになった。

「よーし、ご苦労」

ぱっと取り上げて受け取った蛇女がまた、ぺろんと飲み込んだ。

「シーダの扱い上手いじゃん。最初にあんたを拾えば良かった」

「本当だよ。腕もがれかけてヤバかったわー」

「私は生皮剥いで蛇の串焼きにするって言われたのよ!髪を捕まれて振り回されたわ。毎回、ロクロに手伝わせるのに今回はそういう訳にはいかないから大変よぉ」

「次からこいつ使おうぜ。便利だし」

「賛成」

「……こわ、」

うちの姉ちゃん、こわ。

「そーよ、怖いのよ?あいつ違反の常連で毎回私らの担当よ。最悪でしょ。ぶっちゃけ若い鬼人なんてこんなもんだけどさー。あいつが特別バカで強すぎなのよね。バカなくせに護符の扱いは上手いしさー。さてと、おしゃべり終わり。行くわよ」

「え、わっ」

蛇女が俺たちに向けて両腕を広げたら女の影が大きく伸びて踏ん張っていたはずの地面が急に消えた。

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