鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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77,蔦の檻

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俺はいきなりの動作に間に合わず無防備な腹に肩が食い込んでむせた。

「ぐえっ」

「どういうつもり?」

チイネェのいらだった声。

「もうすぐ来るのよ。それまで足止め」

一気に回りの草木が伸びて俺達を囲う。

うねる草木があっという間に俺とチイネェを分断した。

チイネェは体にまとわりつく草木をブチブチ千切って俺に手を伸ばした。

さすが剛力。

俺は無理だった。

千切ることも出来ずあっという間に引きずられてローラさんの頭上に宙吊り。

「ローラ!そいつを返しな!」

「ギルドから逮捕状が出たのよ」

「はぁ?」

「罪状は誘拐と暴行。ロクロとシーダもよ。あんた達何したの?」

「お前がペラペラしゃべんな」

「うわっ」

ローラさんの影から黒いローブが飛び出した。

フードの中の顔が見えない。

てか、ない。

モヤが浮いてる。

声もおかしい。

響いて男か女なのかも分からない。

「おひさー、チサキ。前回はパーティーの壊滅以来だから4年ぶり?」

「それは姉さん。私じゃない」

「あれ?チサキじゃなかった?」

「バカ。チサキはマジの無違反。前科持ちはシーダよ」

ずずっともう一人影からが出てきた。

こっちは女。

黒光りの肌と丸く巻いた角。

きついウェーブの髪が地面まで垂れてる。

「あったじゃん。貴族の半殺し」

「正当防衛が認められたから前科にはならないのよ」

「んん?……あは、そうだったね。思い出した。変わった趣味の男だったね。鬼女を囲いたいなんてさぁ」

「ドーム、あんたこそ無駄口やめて早く捕縛してよ」

「おう。チサキ、じっとしとけよ」

抵抗したら怪我と罪状を増やすからなと二人が脅してる。

「……分かった。……でもそいつに怪我させないで」

軽く両手を上げて抵抗をしないと態度を示す。

「おー、これね」

くるっと俺を向いて中のモヤが動きに合わせてふよふよ漂うから気持ち悪い。

真ん中に赤い玉がぐるんぐるん回ってたのに俺を見つめててゾッとした。

「な、なんだよ。あんたら」

「下級だっけ?なら知らないか。上級専門の取り締まり部隊。規定を破ったら俺らの出番だ」

横に手を払うと袖が伸びてチイネェを包む。

「何も破ってない」

じわじわと小さくなる黒い球体からチイネェの不満そうな声だけ聞こえた。

「訴えがあったんよ。子供を返せってね。調査がすむまで身柄は預りね?」

「…チッ」

ビー玉くらいのサイズになってそこから舌打ち。

「チイネェ!チイネェ!んぐ!」

「うるさいわねぇ」

思ったよりデカイ女の手に口を塞がれた。

飛んでる?

俺はまだ宙吊りなのに。

驚いて黒い女の足元を見たら下半身が蛇。

地面からデカイ蛇の体が押し上げてる。

蛇の半獣人か?

「ローラ、この子で合ってる?」

「人相描きがあるでしょ」

「んー、訴えた男と似てないのよねぇ。人相描きとは一致してるけど。短命種は顔立ちの変化が激しいから分かりづらいわ」

「うう!ううー!」

髪の毛と首の隙間から蛇が何匹も出てきて俺に巻き付くから慌てて暴れた。

「暴れないで」

「ふぐっ!」

ばちんとデコピン。

いってぇ!

「初めて見る奴はびびるっしょー」

「げぇ、何よこいつ。弱すぎ」

「ん?あー、ウルグドのバカ。血ぃ出てるじゃん。怪我させんな。そいつは保護対象だ」

「わざとじゃないわ。こいつが弱いせいよ。ローラ、お願い」

何のことかと思ったらデコピン一発で流血した。

ローラさんが額に回復をかけてる。

質問がいくつも頭に浮かぶのに口が動かない。

女が俺の唇を指で一瞬撫でたと思ったらそれから開かなくなった。

「ロクロは?」

「ここ」

ローラさんの問にすんなりフードのモヤモヤ野郎が黒いビー玉を見せた。

「ロクロ、あんたの子に付き添うから今度デートお願いね」

んちゅーっとキスしてささやいた。

お疲れ、親父。

「ローラ、あんたは呼ばれてないわよ」

「保護者の代わりよ」

「未成年ならだけどそいつは成人でしょ。いらないわ」

「一般人扱い」

「枠に当てはまらない」

「まだ中級の承認が降りていない下級よ。本部の登録は終わってないわ」

「ああ、そういうこと。それなら構わないわね」

「ローラ、転移よろ」

チャラいモヤのフードがローラさんへ気軽に話しかけてる。

「影渡り使って。見られてるから」

「ケチ」

「遮断使えばいいじゃん。まとめて行こうよ。もう魔力キツいんだよ。シーダのせいで」

「シーダの?ああ、暴れたのね。なら仕方ない」

ローラさんの視線の先にマミヤ達三人。

いつからいたのか、何か叫んでるみたいだけど聞こえない。

ホッパーが見えない壁に得物のトンファーで何度も殴ってる。

ブルクスはデカイ盾で、マミヤは剣でそれぞれ。

女がパチッと指を弾くと三人の怒鳴り声が聞こえてきた。

「てめぇら!そいつを下ろせ!」

近づけないらしく、がごん、がごんと繰り返す音は変わらない。

「ギルドの部隊よ。ドリアドスにドームとウルグドが来たと言えば分かるから。それ以上はあんた達の階級には口出しの権利はないの。分かったら留守番よろしくね」

「ローラさん!ふざけんな!それだけで何を分かれってんだよ!」

「分からなきゃいけないのよ?あんたら下級なんだから。ギルド本部の私達からは下の下。最下層は上のことにとやかく言わないの」

うるせぇと三人ががなりたてるとウルグドと呼ばれた女が舌打ちした。

「うわ、最悪。頭悪そう。ローラ、こいつら伝言板になるの?」

「この子達だってそのくらいなら出来るわよぉ」

言い返そうとした三人を尻目に指をならし、草がドーム状に俺達を包んで真っ暗になった。

それから急に脳みそがぐるんと回る感覚が走って気持ち悪い。

拳を強く握りしめてぐっと堪えた。

「あら意外。魔力酔いはなさそうね」

「方向感覚の異常だけかな?」

明るくなったと思ったら黒い女とモヤの顔に覗かれて気持ち悪い。

女の目はよく見たら縦長の赤い瞳孔。

人種が分からん。

蛇の半獣人かと思ったけど、それなら力のみだ。

魔力も使えるから他の混ざりもの。

俺達がいるのはどこかの大きな広場の中央。

周囲はいくつもデカイ塔が建ってる。

先がとんがったの、四角いの、丸いドーム状。

統一してるのは白い石だ。

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