鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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73,モンスターのような姉

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「……モンスターでも紛れ込んだか?」

「え?」

帰り支度の途中、鎧を着付けていたらドリアドスさんの動きが止まってそう呟いた。

「すげぇ轟音。まただ」

何も聞こえない。

着替えを手伝っていたロブさん達も首をかしげた。

「避難した方がいい?」

「ああ、かなり音がでかい。まだ続いてる。支度しとけ。おかしいと思ったらギルドの鐘が鳴る前に出ろ」

「方向は?」

皆の動きが早まる。

すぐにドリアドスさんと俺の支度を終えた。

「こっから東に行け。西がヤバイ」

「西?そっちは、」

「聞くなよ。俺も分からんから」

街の中心。

ここからギルドの方向だ。

「行くぞ」

「はいっ、うおおっ!」

肩に担ぐのかよ!

確かにそっちが早いけど!

首の後ろのたてがみと鎧にしがみついて振り落とされないように必死だった。

本気のドリアドスさん、速ぇわ!

「なんだ?一体、」

ギルドに近づくほど轟音が聞こえてきた。

しかもギルド全体に膜が覆ってる。

見たことある。

「あれって、ギルド長の守護」

あれのでかい奴。

「……どっかのアホが暴れてるのか」

「あれって、そういう意味の奴ですか?」

「ああ、考えなしにデカイ魔法をぶっぱなす奴とかアホな腕力持ちの大暴れとか、そう、いう、対策の。……あー、ラオ?」

「あの、俺。……二人、思い浮かぶんですけど」

「俺も」

「急ぎましょう」

「行きたくねえ。チサキとオルカの喧嘩だろぉ。……怖いんだけど?」

「俺もです」

ブルってます。

でも轟音と地響きは続いてるから行くしかねえわ。

外の門扉から塀に蓋をするように膜が出来てる。

ドリアドスさんは門扉まで行かずに高いレンガの塀に指をめり込ませながら登った。

「よ、と。あいつら、どこで暴れてるんだ?」

塀の天辺から辺りを見回すけど、砂煙と火炎の匂いで分からないとぼやいた。

俺も煙でよく見えない。

「あ、いた!」

一ヶ所、煙の中からチイネェが飛び出したのを見つけた。

「どこよ?」

「あれ?なんで?」

「何?」

その肩にオルカさん。

なぜかチイネェの肩に担がれてしがみつくオルカさんがいる。
「……オルカさんを連れて、二人で逃げてます」

「んん~?……そうだなぁ。そう見える。俺の薄い目でも分かるわ」

オルカさんがチイネェの肩に担がれたまま火炎をいくつか後ろに投げてる。

顔までははっきり見えないけどここから見える二人はかなり必死。

「あいつら、誰と戦ってんの?マジでヤバいモンスターでも入ったか」

「あの二人が苦戦するようなモンスターですか?しかも街で最も安全なギルドで?」

んー、としばらく唸ってビシッと固まった。

「……誰か分かったわぁ。うわ、こえぇ」

「誰ですか?」

「声が聞こえた。あいつだ。ヤバイ。逃げるぞ」

「え?」

「……狙いはお前か。逆にお前を会わせたら解決か?」

「俺?」

何の話だ。

「あ、バレた。こっち来るぞ」

「え?」

誰が?

煙の中からデカイ体の影が見える。

「ラオシーン!いたぁ!見っけたぁ!やったー!」

チイネェより大きい。

二メートルの長身に太い骨格は分厚い筋肉をまとってる。

親父そっくりの角と見かけ、耳にかけるのが邪魔だからとサイドを刈り上げた長髪のみつあみ。

デカイ身長より長い赤銅色に鈍く光る棒を振り回しながら走ってきた。

「……ダイネェ」

この大暴れは身内が原因かよ。

「……シーダが来たぞ。お前の姉ちゃん」

煙をかき分けてまっすぐこっちに来てる。

大喜びで大興奮。

「感動の再会か?」

「……やば、」

いつもの奴だ。

「ドリアドス!ラオシン連れて逃げろ!走れ!」

チイネェの怒鳴り声。

「何でだ?」

そう言いながらもドリアドスさんの反応は早い。

すぐに俺を担いだまま塀を飛び降りて走った。

「……骨を折られるからです。俺が」

「ああん?」

「ダイネェ、興奮すると抱きつくんですよ。ついでに俺の骨を折る」

またかぁ、と遠い目をしながら答えた。

「そういうことか。あいつらしいわ」

地元のギルドの回復に何度お世話になったか。

「おおい!ドリアドスーッ!何逃げてやがんだ
ぁ!ぶっ殺すぞぉってめえ!うちのラオシンをどこに連れてく気だぁ!返せよ!ごらぁ!止まれや!このクソ蜥蜴!鱗むしって皮剥ぐぞ!てめえ!」

「怖いんだけど!あいつの方が足早いんだけど!追い付かれる!」

「……追い付かれたら俺をダイネェに放り投げて逃げてください。あ、でもチイネェとオルカさんが足止めしてます。親父も来た」

奥から親父も走ってきた。

ギルド長が呼び出したんだろ。

助かった。

骨を折られる覚悟だったわ。

「チイばっかりズルい!」

この騒動を謝る前にいきなり。

親父達、総出で捕まえられて今は大型モンスター用の縄で手足を拘束されてる。

親父もチイネェもぐったりだ。

怪我をさせないように気を付けながら必死で取り押さえた。

オルカさんは魔力枯渇を起こして医務室送り。

グラナラさん達、多くの職員や同業者は先に避難。

今日はギルドがまともに機能しないって。

あの図太いギルド長も真っ青になってる。

こんなに迷惑かけたのにチイネェばかりズルい、えこひいきだとしつこく怒って、チイネェの話は無視するし、親父が叱るのに何を言っても、ふんっとそっぽを向いて拗ねる。

そのせいで親父とチイネェは頭を抱えていた。

「ダイネェ、何がズルいの?」

散々わめき散らしたタイミングで声をかけた。

「なんでチイとばっかりなの?私とは?ズルいじゃん。意地悪だ。私に冷たいのが悪い。お父さんもチイのことばっかり。ムカつく」

「まだ仕方ないんだよ?階級が低いんだから。チイネェとも組めないって言われてるし、聞き分けしてよ。えこひいきなんか親父も俺もしないよ」

「嘘」

「怒ってるのは分かったから。階級上げるまでの辛抱だから。上級になれたら少しは組めるよ。がんばるから待ってて」

こんこんと話を聞かせて諭すとふて腐れた顔でようやく頷いた。

「じゃあ、分かったなら皆にも謝んなよ。オルカさんなんか寝込んじゃったし、」

「……オルカぁ?だれよ?……あぁ、あんたを欲しいって言った奴?……あいつは嫌い。……誰がラオシンをやるかっての」

「へ?」

「よぉい、しょっと!」

ぐっと腕を左右に広げていきなり手首の縄をぶちんっと引きちぎった。

当然って態度ですぐに足の拘束も千切ってる。

俺が唖然としてると満面の笑みで俺に飛び付いた。

「ラオシ~ン、やーん、ちいさーい」

「小さい言うなよ」

縫いぐるみ扱い。

もう少し手加減して。

痛い。

「……だよなぁ」

「……お父さんも、私でも出来るし。……姉さんなら、そうだよねぇ」

親父やドリアドスさん達は驚かない。

ギルド長は渋面。
縄と壊した建物の修理費を弁償すると親父が頭を下げて、オルカさんのことも含めて丁寧に謝ると少し表情が和らいだ。

あっちこっちぼこぼこに壊れてるし、大型モンスター用の高価な捕縛縄を千切って、ギルド長の大事な孫娘を寝込ませた。

「シーダ、お前もあやま、」

「ラオシン、ご飯行く?どっか行こう!何かして遊ぼう!」

「いぃてぇっ」

喜んで抱えるけど締める力が強い。

「姉さんっ、痛がってるからやめてっ」  

「やだ。このくらい大丈夫だもん」

「大丈夫じゃないよっ、痛いって!」

痛い痛い!

「姉さん!」

「やめろっ、シーダ!」

「またチイばっかり!」

「そうじゃない!お前は加減が下手なんだ!」

「下手じゃない!ラオシンのお世話くらい出来るし」

「いだだ!せ、世話される歳じゃねぇよ!18だ!一人暮らしもしてるだろうが!」

「だって小さい。赤ちゃんサイズ」

「どこが?!他にも俺くらいの奴がいるだろ!」

「えー?いないよ。いるわけないじゃん?なんでもいい。こうしたいの」

ダイネェのまわりは巨漢ばかりか。

「ダイネェ!締めてる!あだだだっ!いだいぃ!」

背骨がめきめき。

挟まった腕もいてぇ。

「お父さん!どうにかしてよ!」

「チサキ!そっちからシーダを押さえてろ!ドリアドスも手伝え!」

「マジかよ。恨むなよ、シーダ」

「ちょっと!やめてよ!抱っこしてるだけなのに!なんでよ!」

やだやだとごねるのを三人で押さえて俺はドリアドスさんに放り投げられた。

「うおお!」

「おお、と」

受け取って壁際に下がる。

「あー、外に走った方がいいかな?どうすっか、これ。親父さんっ、どうしますか?!」

ドリアドスさんが怒鳴るけど聞こえてないみたい。

ダイネェを後ろから羽交い締め。

「ギルド長!俺ごと転送しろ!行き先はどっちでもいい!本部へすぐ乱闘の報告もだ!私用の転送許可を停止させる!」

「なんでよ!」

「お前の転送は仕事以外禁止だ!本部に申請したる!」

「ええ、ぜひお願い致します。全てこちらで手続きしておきますので、本部へのお声かけだけお願いします」

ギルド長はキレてる。

「はぁー?!ふざけ、」

背中しか見えないギルド長が何か二人にかざして次の瞬間、揉み合ってた親父とダイネェがシュンッと消えた。

残ったのは光の粒子だけ。

「初めて見た。転送」

ぼんやり呟くと全員、だーっと脱力してため息。
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