鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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72,本性を晒す

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「いらっしゃい」

満面の笑みでロブさん達に出迎えられた。

俺はオマケなんだけど。

みんなで寝転んだドリアドスさんの皮膚を剥いでる。

俺もみんなとまざってやってみた。

オイルを隙間に塗りこみながら優しく剥ぐ。

無理に剥ぐとピリピリして痛いらしい。

「面白い」

でかい皮が剥げると不思議な達成感。

「ぐうぅ」

気持ちよくてドリアドスさんは爆睡してる。

寝てる間に終わってて楽なんだって。

剥げ終わるまでずっとむずむずと体が痒くて、自分で剥くけど、つい爪でかきむしって皮の下の新しい皮膚が柔すぎて怪我するから面倒だって話をしてた。

「ラオ君、水分を取った方がいいよ」

「あ、はい」

部屋はドリアドスさんの体感に合わせてかなり暑い。

みんな、額に汗をかいてる。

でもロブさんとエルドラさんは頬が赤いだけで涼しい顔。

汗もかいてない。

俺は暑くて少しボーッとしてる。

「ラオ君、大丈夫?逆上せてるかな?」

「大丈夫です」

「本当に?フラついるように見えるけど」

顎を持ち上げられてみんなから顔を覗かれた。

「あ、これはだめだ。顔色が悪い」

「大変。耳も、首まで赤いわ。気づかなくてごめんなさい」

エルドラさんも心配してる。

他の人も交代で休んでる。

みんなが休む涼しい部屋に寝かせられた。

冷たいタオルを頭や首に乗せて世話を受けた。

「気分はどう?」

薄暗い静かな部屋でぼやっとしてるとロブさんの声が上から降ってきた。

「大丈夫です。すいません。ご迷惑おかけしました」

目の上の冷たい手拭いを捲ってロブさんを見上げた。

「気にしないで。仕事の手伝いもしてくれたし、熱気のある部屋は慣れてないのに気づかなくてごめんね?」

ドリアドスさんも寝てるから起きるまでここで休むようにと言われた。

そのまま部屋から出たら戻ってきて、首をあげて見ると書類仕事を始めた。

「ここ、仕事部屋ですか?」

「違うよ。急に容態が変わる時があるから側に
いるだけ」

「……あ、すいません」

「ふふ」

そう言うとチラッとこっちを見て笑った。

しばらくするとエルドラさんが飲み物を届けに来てくれた。

柑橘の果汁と塩の混ざった果実水。

脱水症状にいいからと教えてくれて起きるのもロブさんが手を貸している。

大丈夫と言うのに心配だからと困り顔の笑みを見せる。

「本当にすいません」

飲み物を受け取ろうとしたら渡してくれない。

隣に座って器を口許に寄せるから緊張する。

自分で飲むと言うのにダメと笑う。

器を傾けるから大人しく飲んだ。

そうすると満足そう。

「本当に大人しい子だね」

クスッとイタズラっぽく目を細めてからかう。

本当にどういうつもりなんだろ。

バニーみたいな分かりやすい肉欲じゃないし、オルカさんみたいなアピールもない。

だいたいなんでこんな人が俺をこんな構うんだ。

戸惑いすぎて混乱してる。

「おーい、遊びすぎだ」

入り口にドリアドスがひょこっと顔をのぞかせた。

「あれ?ドリアドス、もう起きたの?」

「おう、世話になったわ。そいつを構いすぎんな。チサキがキレっぞ。あいつのだ」

「え?弟だよね?掲示板見たよ」

「建前ね」

「何それ?」

話ながらこしょこしょと顎を触るから咄嗟に後ろへのけぞった。

顔を上げた拍子にふと目が合うとバニー達そっくりの視線とかち合い、ぞわっと背中に痒いのが走る。

肉食の獣だ。

怯えた俺に喜んで、ペロッと口の隙間から舌が出て広角か上がった。

穏やかさが消えた“調教師”の顔つき。

「……うおおっ」

バニーとオルカさんより強い圧の視線が怖くて呻いた。

欲を今まで隠してただけだ。

自分が囲いこまれかけてたんだと悟ったら、急にこの人が怖くなった。

「だめかなぁ。チサキ、怒る?」

「逆鱗で間違えねぇよ。下手したら親父さんとシーダも来るし、やめとけ」

「この顔立ちと、烏羽の黒髪、真珠みたいな肌。僕のコレクションに欲しいんだけど」

さわさわと頬をなぞる手の動き。

身動きひとつ出来ずにいると、すっとドリアドスさんの手がロブさんの手を静かに払う。

そのまま俺の頭をでかい手で隠した。

片手で俺の顔を覆ってる。

「残念だったな」

不機嫌な声とざわざわと鱗がこすれてる音。

ピリピリした空気になんでこうなったと頭の中で悶えてた。

「あぁ、本当に残念だよ」

「エルドラ達で我慢しとけよ。コレクションならな?」

「エルドラ達は同類。弟子兼仲間だね。僕のコレクションとは違う。チサキも好きだなぁ。赤褐色の肌がよくなめした革みたいで手触りがいい。ずっと全身を触っていられる。毎回の手入れが楽しみでしょうがない」

「へえ、そう」

「君には嫌な話だった?チサキは君のお気に入りだし」

「別にぃ」

じっとドリアドスさんを見つめてそれから、クスッと笑った。

「玉砕?」

「ご明察。爬虫類は無理だとよ」

「残念だったね」

「しゃーねぇわ。人型は異形の爬虫類を敬遠しやすい。なのにうちの一族は大陸の人型にハマりやすいってんだから最悪だわ」

「だからラオ君もお気に入りなのかな?大陸特有の黒髪と黒目を気に入ったの?」

ドリアドスさんのかざした手をロブさんが触れて下にさげた。

流れでその手が俺に触れようとしたけど、またドリアドスさんの手が丁寧に避ける。

「こいつの匂いを気に入ってるが、女型の方がもっといい匂いがする。てか、お前らが互いの見目を言うけど俺には見えん」

「こんなに綺麗なのに見えないのか。寂しいね?」

「お前らもこの匂いが分からないのは可哀想だわ。損してるね」

「ふふ、そうか。ならお互い残念だね」

「そうだなぁ」

にやりと二人が笑う。

俺を間に妙な空気でやり取りすんのやめて。

「わ、うぷ、」

急にドリアドスさんの手が俺の頭を混ぜた。

「お前がこんなガキ相手にするとは思わんかったわ。人型のお前らから見て外見は未成熟だろ」

「自分でも意外。でも気に入った。何も知らないって顔で泣きながらすぐ溶ける」

「あん?もう手ぇ出したの?」

「違うよ?チサキが僕らの目の前で苛めてた」

「はぁー?アホか、あいつ」

「手入れの時にね。ほら、触るから普通に反応しちゃうでしょ?慣れないから敏感に反応しちゃって、抜いてあげようと思ったのにチサキがダメって。あの時は我慢させられて可哀想だったなぁ」

「はは、思い出してお前が興奮すんなよ」

「ふふ。エルドラ達も喜んで熱が入っちゃった」

「も、もうやめてください」

顔が熱い。

消えそうな声で抗議した。

なのに止めてくれない。 

ロブさんは俺が恥ずかしがると分かりやすく喜んでた。

ドリアドスさんがへー、そう、と適当な相づちなのに饒舌。

縮こまって話が終わるのを待ったけど耐えらんねぇ。

曲げた膝に顔を埋めて丸まった。

「ごめんね?久々に初々しい子に会えて嬉しくて。次は手入れ以外もしてあげたいなぁ。特別なメニュー。気に入ってる客にしか出さない特別。ラオ君ならいいなぁ」

いらん、いらん!

ねっとりと囁くな!

顔を隠したまま首を振ったら、頭上から含み笑いが聞こえた。

「してくださいって言うまで可愛がるのも良いね。チサキなら無理にでも連れてきてくれるはずだ。この繊細な肌を荒らすのは嫌がりそうだからね。この業界で僕より腕の良い職人はいないし、薬もうちの店でしか作れない特製。ロクロさんとシーダも僕を指名だし、他に任せるとは思えないなぁ。ああ、次回が楽しみだなぁ」

マジかよ。

「くは、お前のドSにビビってるわ」

「優しく囲い込もうと思ったんだけどね。手に入らないなら回りくどいことはやめて、適当にからかって遊ぶよ。チサキが怒らない程度にね?ふふ」

海千山千は冒険者だけじゃねえわ。

ギルドもこの人も、関わる人全てだと実感した。

田舎の顔見知り相手に商売してただけの俺がやってけるかマジで不安……

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