鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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60,時の人

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注文の品を待つ間にチイネェと同ランクで有名人のドリアドスさんは声をかけられる。

ファンらしき人以外に仲が良さそうな冒険者にも。

次の遠征や予定の空きについて。

ついでにマミヤ達の紹介をして、連れていけそうなのは連れていけと売り込んでる。

タンクなら欲しい、剣士なら借りよう、回復と探知が使えるならありがたいとそれぞれソロで。

他にも受け持ちのパーティーを紹介して好きに使えと勧めていた。

「パーティーじゃなくてもいいんですね」

「ひよっこだから出来る依頼が少ない。実力のあるパーティーで経験を積んだ方がいい」

ブルクスとマミヤがよそのパーティーと話を着けている。

「この子も新人だろ?魔法使い?斥候?何が出来るんだ?」

一人から声をかけられた。

「こいつは俺が判断する。簡単に貸出せねぇ」

「へぇ、そうなんだ。得物は?」

「弓」

「ふーん、……あー!もしかして話題の奴か?」

またチイネェとの噂かとイラついて顔が歪む。

「期待の新人だろ。黒の弓使い。髪と目が黒。女顔の低身長だし、こいつだよな?」

「えー?掲示板に張り出してあった奴か?そいつ?マジで?見たい見たい。チョー可愛いって書いてあった。顔見してよ」

「鬼人族の秘蔵っ子って話だな」

「街の端から端まで狙えるってマジ?ギルドの認定が出てるならマジなんだろうけどさ」

わらわらとでかいのに囲まれて騒ぎになった。

顔を見せろと手が出て来たから焦った。

昼間の二の舞な気がして嫌だった。

「なんで、急に?」

ビビってドリアドスさんを盾に隠れる。

「シャイなの?そいつ」

「聞いた話と違うなぁ。20人相手に立ち回ったって聞いたけど」

そんなのしてないと思ったけど、昼間の親衛隊相手に揉めたのを思い出した。

20人もいなかった。

10人ちょい。

話が誇張されてるんだ。

「こいつは鬼人からの預かりだ。借りてぇなら保護者の許可取ってこい」

「チサキに聞けってことか」

「うーん、うちは伝がねぇや。ランクの差で交渉は無理だし。ギルドに依頼を通してみっか」

「こいつの腕を見たいなら鍛練所に来ればいい」

暇になるとすぐに的当てしてると教えていた。

「そうだな、まず見てからだな。名前はラオ?だっけ?鍛練所にいつ行くん?」

「明日は鍛練所に置いとくわ」

「え?!なんで勝手に?」

「どーせ予定がないんだからいいだろ?そこで他の面倒を見てるパーティーと顔合わせさせるから」

マミヤ達の予定が変わって確かに暇だけど。

聞いたら他のパーティーも心配だから明日は全員まとめて座学を受けさせるって。

ブルクスも再テストが残ってるらしいし。

待つ間はマミヤ達と鍛練所にいろって言われた。

「じゃあ明日、他のパーティーも見れるのね。気に入ったのがいたら借りてくよ」

「おう、好きに交渉しろ。もう行くわ」

話の区切りでちょうど注文の品を受け取る。

「まとめて紹介した方が楽だな。今まで一人一人に紹介してやってたけど、今度からそうしよう」

「商売人みたいなこと言ってますね」

「そうか?」

「それであの人達、なんで俺のこと知ってるんですか?」

ペット以外の話題は初めてだ。

「んー?明日、ギルドの掲示板を見ろよ。今月の期待の新人って張り出してある」

「え、何それ」

「娯楽だよ。ここのギルドは面白い奴がいると掲示板に張り出すんだ。新人の宣伝を兼ねて紹介が載る」

「そういうのあるんですね」

マミヤ達も見たらしい。

「ラオ、分かってないだろ?ソロで載るのはすごいんだよ」

そう言われてもピンと来ない。

地元のギルドではそういう系統の記事はなかった。

討伐モンスターの相場とか大きな事件とかが多かった。

「普通、成績のいいパーティーしか載らないのに」

「俺達も載ったけどこのくらいの枠だったよ。紹介文だけ」

ブルクスが指で四角い枠を小さく作る。

次に手振りで大きく枠を作って見せた。

「お前はこのくらい。一枚丸々。この間の救出劇とソロ討伐のこととか、親父さんのコメントも載ってた。秘蔵っ子だって」

「親父の?なんで、いつの間に?あ、周知させるってこのことか!」

ギルド長の合いの手。

どうやんのかと思ったら、こうやんのね。

「え?何?」

説明したらマミヤとブルクスが納得。

「別に俺の実力じゃないですよ」

見事な親の七光りだ。

「ラオってそういうところが本当に卑屈だよなぁ。親父さんの関わりがなくても話題性はあるよ」

ブルクスは本当にポジティブだなぁ。

「多分、来月のネタを急いで張り出したんだろ。今日の話で用意が良すぎる」

「やっぱりぃ?ですよねぇ」

四人でてくてく歩いてると向かいからも数人に声をかけられる。

行きより人の往来が増えた。

だいたいはドリアドスさん目当て。

そんな中、ひとり俺に手を振って近づいてきた。

袖の長いローブと長身。見覚えのある男の人。

「ラオ君、やあ」

「ロブさん、こんばんは」

ドリアドスさんにも声をかけてにこやか。

「もうこいつと知り合い?」

「昨日、手入れを担当させてもらったから。ね、ラオ君」

「あ、はい。き、昨日はお世話になりました」

思い出して恥ずかしくなった。

一気に下腹がぞわっとするし、頭を下げて熱くなった顔を隠した。

話しかけられても下を向いて受け答えするからロブさんがくすくす笑っている。

「ふふ、慣れてないと恥ずかしいよね」

「……はい」

「でも次も嫌がらずにおいでね?整骨と整体も得意だから。エルドラ達も待ってるよ。またいいことを教えてあげるって」

「はい、学んだことも忘れないように復習します」

「やっぱりいい子」

ふわっと頭を撫でられた。

身長さはでかい。

手より頭の方が近いからすぐこうやって撫でていく。

「ドリアドスもその様子だと今週末くらいじゃない?うち来る?」

「分かる?少しむずむずしてるからそろそろなんだよね。次の脱皮も頼むわ」

「早朝ならいつ来てもいいよ」

「助かるわ。時間外の請求も乗せとけ」

「脱皮の皮をくれるならお代は良いのに」

「うー、薬になるって言われても自分の皮を使われるのはちょっとなぁ」

「皮膚炎に効くから欲しいんだよね」

困ってる人がいるからと頼んでいる。

若い一般の女性だからきれいに治してあげたいって。

それを聞いたドリアドスさんも考え込んでる。

「人助けと思って協力してくれない?これ、あげるよ。ラオ君と食べてね?」

ちらっと見ると抱えていた袋から果物を取り出してドリアドスさんに手渡していた。

「またね」

おっとり笑って手を振って行っちゃった。

「ほれ、お前にだ」

「え、」

「俺は基本的に肉食だ。こういうのは好きじゃないし、あいつも知ってる。お前にって意味だよ」

「そうですか」

クンクンと果物を匂うとジュースにした奴だと分かった。

食べたことないって話してた奴。

すげぇ気遣い上手。

あの人、人たらしだ。

ドリアドスさんは人のためにってのに弱いし、俺もこういう遠回しな構われ方は嫌な気がしない。

「ここで酒も買ってくるからちょっと待ってろ」

入り口の狭い酒屋へ。

他の客もいるし、俺達は外で待った。

「何?さっきの人。いいことって何?」

興味津々のブルクス。

大きい湯屋に勤める手入れ専門の人だと教えると驚いてた。

「えー?あの店のロブさん?あの人がそうなのか。腕が良すぎてあんまり客を取らないんだ。いいなぁ」

それこそ姉の伝だ。

羨ましがられても気が引ける。

見せてと言われて腕を引かれた。

「へー、こうなるんだ」

捲られた腕を見て感心してる。

「やっぱりプロに頼む方がいいね。普通カミソリ負けしてざらざらになるんだ。自分でしたけど俺は湿疹が出来て最悪だよ。で、どうだった?してもらったら他の人に頼めなくなるって評判なんだけど」

「え、と」

気持ちよかったしかない。

すぐに、他を試したことがないから分からないと濁しといた。

貰った果物の握る手が強くなる。

細かい施術を聞かれるけど絶対言いたくない。

チイネェのこととか俺がされたこととか。

支払い中のドリアドスさんの所に逃げた。

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