鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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57,本気ならいいのか

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相変わらずやる気いっぱい。

でも近い。

待って。

下半身はそこまで治まってない。

焦って前屈みで隠した。

「グラナラ!だめだよ、危ない!」

マミヤが慌てて止めに入る。

「だめ!守らないと!ラオさんが困ってるんですよ!マミヤさんだってお世話になったのに!」

ぎゅっと肩に抱きついてる。

「そ、そうだけど。ラオ、立てるか?」

差し出された手をすぐに掴んだ。

グラナラさんから逃げられるからほっとした。

マミヤの手を借りて立ち上がり、唾液でぬめる口許をごしごしと擦る。

「さっきからしつこいわね。やっぱりあんたまで争奪戦に入るわけぇ?別に私達と張れもしないくせに」

「違いますっ。ラオさんが困ってるのを見過ごせないんです」

グラナラさんがもう一度俺を抱き締めてきた。

距離感近い。

「……お前はなんで鼻血出してんだよ」

女同士の睨み合いの側でブルクスが静かだと思ったら、こいつ興奮してる。

「だってエロいぃ。最高ぅ」

花街でもこんな美形同士の絡みは見られねぇだとよ。

「ファンになりそう。てか、ハマったかも。すげぇっす、オルカさん」

「あらぁ、ありがとう?」

「美人でエロい。最高です。俺も美人な年上お姉さんにエロいことされたい。ああ、いいなぁ。ラオは。あ、ラオもエロかったよ。エロエロ。有りだよ、有り、いや!ごめん!悪かった!俺の間違い!」

自然とブルクスに矢を向けてどこを狙うかぼんやり考えていた。

「どこがいい?目ん玉?眉間?」

「死ぬから!」

「じゃぁ、片耳。回復かけてもらえばいいよ」

「ごめんって!」

「次は射つからな」

睨むと肩をすくめた。

ブルクスのやり取りで股間が治まったわ。

「ギルド長に報告します」

「えー?どうして?気持ち良くしてあげたのに」

「迷惑です」

「うふ、言ってもいいけど魅了はかけてないもの。何も罰はないわ。好きだから態度で示してるだけ。ウィッチには当然のことよ?」

「……じゃあ、あなたは俺の好みじゃありませんね。強引すぎて苦手です。特に恥じらいがないのは嫌ですね」

人前で平気なのも相手の気持ちを無視して押し倒すのも嫌だね。

色んな誘惑に負け続けたけど内心にムカつきは溜まってる。

自分にも相手にも。

女性不信になりそう。

「えー?そうなの?」

「そうです」

しばしの沈黙。

「……そっかぁ。……ラオ君は気難しいなぁ」

しょぼっと項垂れて、気を付けると一言。

意外とすんなり聞き入れて驚いた。

じろじろ見ていたら、むうっと口を突きだして拗ねてる。

「少しは本気だって信じてくれる?本当にラオ君のこと好きなの。それに黒の魔女だからって誰とでも遊んでるんじゃないのよ?私は好きな人とだけなんだから。それは信じて」

思ったより真剣な眼差しに何も言えなくなった。

「……分かりました」

この人なりに本気なんだと理解して反省した。

でもなんで俺なんだと思うし、やり方は強引でバニーと変わらないのが嫌だけど。

「じゃあ、私と!」

「話が分かっただけです!仕事あるでしょ!俺はもう帰ります!」

「ラオくーんっ」

飛びかかりそうで思わずグラナラさんを盾にした。

驚いてたけど真面目に守ってくれてる。

「オルカさん!ラオさんに乱暴はだめです!」

「もー!邪魔よ!」

「今からマミヤ達の再テストするんでしょうが!ちゃんと仕事してください!」

「グラナラ!もうやめろって!怒らせるな!ラオも落ち着け!」

「すげぇな、ラオ。モテていいなぁ。お色気ムンムンの年上お姉さん最高だー!オルカさん!俺はだめですか?!俺は尽くすタイプです!」

「ブルクス!お前まで混ざるな!グラナラを止めろよ!」

「うるさい!でかいのは嫌いなの!細くて可愛い子が好きなの!」

ぎゃあぎゃあ騒いでたら他の職員が覗きに来てギルド長召喚。

また拳骨食らってた。

でも檻には入れないって。

ウィッチの口約束は言霊って言う効力があって、オルカさんが結婚を望むと言葉にしたのならそれは。

「……つまり、本気?」

「そう、本気です。チサキさんの告げたような遊びではありませんので約束の範囲外。なので、どうぞ孫をよろしく」

「よろしくぅ、ラオ君」

「なんでだよ!」

ギルド長とオルカさんの猫みたいな笑みが腹立つ。

笑うとそっくりだな!お宅ら!

ギルド職員と冒険者同士のいさかいの予防のために恋愛禁止。

オルカさんは今日付けで退職。

同業の冒険者になる。

講座は委託で請け負うと決まった。

遠い目をする俺の目の前でどんどん話が決まっていく。

どうして俺がここで巻き込まれてる。

「さあー!これでチサキと同等よ!」

「孫と仲良くしてくださいね。チサキさんにもよろしく」

「……揉めても知りませんからね」

過保護と鬼人の性欲で馬鹿になってるんだ。

何するか俺にも分からん。

「私、上級よ。負けるわけないの。チサキの苦手分野なんだから」

「へぇ」

強いとは思ったけどそうなんだ。

物理の鬼人と魔法ならチイネェの分が悪いわ。

ランクの違いがあっても妙に対等なのは納得。

「だからチサキより私と組まない?オルカお姉さんが守ってあげる」

チイネェ達の階級と違って初級から上級までのランクなら自由にパーティーが組めるけど、この人はお断り。

「もう俺は帰ります。チイネェ待たせてるし」

仕事しろよ。

マミヤ達の再テスト残ってんだろ。

三人が置物じゃねぇか。

いや、マミヤ以外は元気だ。

ブルクスはオルカさんに猛アピールしてるし、グラナラさんは俺を襲うってギルド長に直談判してる。

それをマミヤが青ざめておろおろ。

ギルド長と上級のウィッチの機嫌を損ねるのを恐れてる。

全員シカトして椅子から立ち上がった。

「私も、」

「仕事サボる人は嫌いです。好みじゃない。最後までちゃんとしてください」

「う、」

大人しくなった。

魔法の言葉だなぁ、おい。

またあとでねとしつこかったけど、明日の間違えでしょって適当に返事を返した。

鍛練所に行くとチイネェが久々に剣を振ってた。

縦に上から下と丹念に動作を繰り返してる。

それだけなのにぶぉぉんって空気を切る音。

他の人より遠くまで聞こえる。

すげぇなと思い背中を眺めたら、すぐに視線に気づいて振り返った。

俺を見たら納めた剣を片手にハンマーを担いで側に寄ってすごい睨まれた。

「……なんでエルフとビッチ臭いの?」

「え、」

それは抱きつかれたりゴニョゴニョがあったから。

……やべぇ。

お互い無言。

「……帰ったら風呂」

「……はい」
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