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49,悪意と善意
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目を薄く開けると真っ暗。
瞼の軽い重みに手をやると濡らした手拭いが乗せてあった。
それとボソボソと話し声。
「グラナラ、そのまま無理だ。俺でも知ってる」
「……はい」
「根性でどうにかしようとするな」
「……はい。……ぐすん」
ふらふらの頭で起きて回りを見るとどこかの広い公園。
俺は芝生に転がされてる。
隣で芝生に座って三人がドリアドスさんを中心に反省会をしていた。
ぼーっとやり取りを見ていたらドリアドスさんと目が合った。
「起きたか」
めっちゃ嫌そうな顔。
でもほっとしてる。
三人も俺を見て安堵から笑っていた。
「……すいません。気ぃ失ってたみたいで。もう行きますよね」
討伐へ行くと思って立ち上がろうとすると渋い顔でドリアドスさんが手を振った。
「いい。今日はなしだ」
「え?」
「グラナラの魔力が足らないんだ。今日は行けない」
不思議に思っていたらマミヤが答えた。
「……まさか俺の回復のせいで?すいませんでしたっ!」
ポカッた。
パーティーに迷惑かけた。
強制じゃなくて自主土下座。
頭を上げろと回りに言われて上げるとグラナラさんをマミヤ達が慰めて、ドリアドスさんは不機嫌というよりへこんでる。
「お前が謝るな。血ぃ出すほどひっぱたいて悪かった。そんなつもりはなかったけど。今回のもとは俺だよ」
まだ怒ってるのかと思ったらそうではなく、自分の手で生徒を流血させたのは初めだとぼやいてしょぼくれてる。
恨む気になれない。
軽く振った手が当たったくらいで鼻血出して気ぃ失った。
自分の軟弱さに悔しくなった。
「……自分のせいです。打たれ弱くてすいません」
「お前、他人と体使って喧嘩したことないんだろ?」
あのくらいであんなに血ぃ出すとは思わなかったとため息をこぼす。
俺もあのくらいでとは思う。
ドリアドスさんは追い払おうと軽く手を振っただけだったのに。
「喧嘩もないし、叩かれたことないです。……脱臼や骨折ならそれなりに経験あるんですけど。……家族から。ちょっとした時に」
主にダイネェ。
荒いから俺を構おうとしてちょっと引っ張ったり抱き締めるだけで簡単に怪我した。
「え?!」
ブルクスが青ざめて俺を見る。
「仲が良いんじゃないのか?!」
「ま、まさか暴力を?」
三人とも真っ青。
誤解だ。
「違います。仲はいいですよ。種族の違いのせいです。豪腕の鬼人とひょろい俺だからどうしても。……子供でしたし」
説明すると納得して頷いている。
「まあ、そうだよなぁ。鬼人と暮らしてりゃあ怪我くらい。……力の差がでかいし。……弓の腕はあるけどその体格じゃあなぁ」
ドリアドスさんの眼差しに頭を下げた。
「軟弱ですいません。今回のポカは自分のせいです。パーティーにも迷惑かけてしまいました」
「違いますっ。ラオさんのせいじゃありません」
涙声のグラナラさん。
次に自分のせいだとポロポロ泣き出した。
いきなりで意味が分からないし、ぽかんとその姿を眺めてしまった。
「……これ」
ドリアドスさんが渋い顔で紐で束ねられた枯れ草の一束を見せる。
「……魔力回復の薬草、ですね」
昨日見たやつ。
手元にあるということは返品しなかったのかな。
それか少し残したのか。
「へえ、お前は見ただけで分かるのか」
「ええ、まあ。呼ばれた仕事先で物を見たことはありますし、梱包の紐に目印がついています」
ドリアドスさんの感心にちょっと顔が緩んだけど調子に乗らないように淡々と答えた。
魔法素材の品と分かりやすいようにだいたいは赤い縞模様の紐が使われる。
ギルドや個人商店でもそうしてる。
それに見た目が分かりやすい。
尖った長い葉が三つ折りに畳まれて、茶色く変色した茎が特徴的。
「使い方も知ってるか?」
「食べ物に混ぜると聞いています。その薬草単体だとすごく不味いらしいですね」
魔力回復の薬草はこれだけじゃない。
そのまま生で食べられる種類もあるし、俺に今見せている物の他にも回復の薬草はある。
でも乾燥させた薬草は基本的に苦くて不味い。
普通、粉にして食べ物に混ぜるかお茶みたいに煮出す。
普通の乾燥させた薬草と同じ扱い。
目の前の薬草は食べ物に混ぜるタイプ。
煮出しても糞みたいに不味いらしい。
「そのくらいしか知りません。俺は使うことないので」
そこまで言うとドリアドスさんはジロッと泣いているグラナラさんを見つめ、側の項垂れた二人にも視線を向ける。
「お前らは今後もパーティーを続けたいならお互いの職の専門知識を勉強しろ。俺の同行はそれからだ」
三人とも萎れて返事をして、ドリアドスさんは不機嫌に顔をしかめている。
「……どういうことですか?」
つまりしばらくドリアドスさんの同行はないってこと?
四人の沈黙に耐えかねて尋ねた。
「……グラナラはこれをそのまま食べるつもりだった」
「ああ、そう聞きました。ベジタリアンのエルフなら出来るんですか?」
美少女なグラナラさんが干し草をモシャモシャ食べる絵面は想像するだけ破壊力ある。
「んなわけあるか。アホ」
エルフだって干し草は食えねぇよと付け足した。
「え、……マジ?」
「マジ」
「え、てことは」
二日間、魔力の補給なしでの活動だったんかい。
それなのにホイホイ使う気だったのか。
空っぽにしたら後がない状態だと気づかず。
もし四人だけの活動なら。
ドリアドスさんとの同行がなければ。
タラレバで考えて思わずぞわっと背中に薄ら寒いものが走る。
グラナラさんの逆サバでパーティーが危険だったってことじゃん。
「……あぶねぇ」
やっぱりこの子、こえぇ。
マミヤとブルクスは人任せで楽観的すぎる。
今回は俺もだ。
緩く考えていた。
マジであぶねぇ。
「……すいません、反省します。聞いていたのに迂闊でした」
判断を保留にしていた自分の非だ。
とっととドリアドスさんに尋ねるべきだった。
「よく分かってるじゃん。単体専門のお前は特に気を付けろ。パーティーの招待が多くなるはずだから」
「気を引き締めます」
綱渡りの状況に顔が青ざめてる。
やっぱりまだ不勉強だ。
俺の知識は本業の修理と商売、モンスターの生態が主だ。
冒険者の職業についての知識は浅い。
悪意の嘘ばかりに怯えてたけど、まさか善意の嘘があるなんて思わなかった。
瞼の軽い重みに手をやると濡らした手拭いが乗せてあった。
それとボソボソと話し声。
「グラナラ、そのまま無理だ。俺でも知ってる」
「……はい」
「根性でどうにかしようとするな」
「……はい。……ぐすん」
ふらふらの頭で起きて回りを見るとどこかの広い公園。
俺は芝生に転がされてる。
隣で芝生に座って三人がドリアドスさんを中心に反省会をしていた。
ぼーっとやり取りを見ていたらドリアドスさんと目が合った。
「起きたか」
めっちゃ嫌そうな顔。
でもほっとしてる。
三人も俺を見て安堵から笑っていた。
「……すいません。気ぃ失ってたみたいで。もう行きますよね」
討伐へ行くと思って立ち上がろうとすると渋い顔でドリアドスさんが手を振った。
「いい。今日はなしだ」
「え?」
「グラナラの魔力が足らないんだ。今日は行けない」
不思議に思っていたらマミヤが答えた。
「……まさか俺の回復のせいで?すいませんでしたっ!」
ポカッた。
パーティーに迷惑かけた。
強制じゃなくて自主土下座。
頭を上げろと回りに言われて上げるとグラナラさんをマミヤ達が慰めて、ドリアドスさんは不機嫌というよりへこんでる。
「お前が謝るな。血ぃ出すほどひっぱたいて悪かった。そんなつもりはなかったけど。今回のもとは俺だよ」
まだ怒ってるのかと思ったらそうではなく、自分の手で生徒を流血させたのは初めだとぼやいてしょぼくれてる。
恨む気になれない。
軽く振った手が当たったくらいで鼻血出して気ぃ失った。
自分の軟弱さに悔しくなった。
「……自分のせいです。打たれ弱くてすいません」
「お前、他人と体使って喧嘩したことないんだろ?」
あのくらいであんなに血ぃ出すとは思わなかったとため息をこぼす。
俺もあのくらいでとは思う。
ドリアドスさんは追い払おうと軽く手を振っただけだったのに。
「喧嘩もないし、叩かれたことないです。……脱臼や骨折ならそれなりに経験あるんですけど。……家族から。ちょっとした時に」
主にダイネェ。
荒いから俺を構おうとしてちょっと引っ張ったり抱き締めるだけで簡単に怪我した。
「え?!」
ブルクスが青ざめて俺を見る。
「仲が良いんじゃないのか?!」
「ま、まさか暴力を?」
三人とも真っ青。
誤解だ。
「違います。仲はいいですよ。種族の違いのせいです。豪腕の鬼人とひょろい俺だからどうしても。……子供でしたし」
説明すると納得して頷いている。
「まあ、そうだよなぁ。鬼人と暮らしてりゃあ怪我くらい。……力の差がでかいし。……弓の腕はあるけどその体格じゃあなぁ」
ドリアドスさんの眼差しに頭を下げた。
「軟弱ですいません。今回のポカは自分のせいです。パーティーにも迷惑かけてしまいました」
「違いますっ。ラオさんのせいじゃありません」
涙声のグラナラさん。
次に自分のせいだとポロポロ泣き出した。
いきなりで意味が分からないし、ぽかんとその姿を眺めてしまった。
「……これ」
ドリアドスさんが渋い顔で紐で束ねられた枯れ草の一束を見せる。
「……魔力回復の薬草、ですね」
昨日見たやつ。
手元にあるということは返品しなかったのかな。
それか少し残したのか。
「へえ、お前は見ただけで分かるのか」
「ええ、まあ。呼ばれた仕事先で物を見たことはありますし、梱包の紐に目印がついています」
ドリアドスさんの感心にちょっと顔が緩んだけど調子に乗らないように淡々と答えた。
魔法素材の品と分かりやすいようにだいたいは赤い縞模様の紐が使われる。
ギルドや個人商店でもそうしてる。
それに見た目が分かりやすい。
尖った長い葉が三つ折りに畳まれて、茶色く変色した茎が特徴的。
「使い方も知ってるか?」
「食べ物に混ぜると聞いています。その薬草単体だとすごく不味いらしいですね」
魔力回復の薬草はこれだけじゃない。
そのまま生で食べられる種類もあるし、俺に今見せている物の他にも回復の薬草はある。
でも乾燥させた薬草は基本的に苦くて不味い。
普通、粉にして食べ物に混ぜるかお茶みたいに煮出す。
普通の乾燥させた薬草と同じ扱い。
目の前の薬草は食べ物に混ぜるタイプ。
煮出しても糞みたいに不味いらしい。
「そのくらいしか知りません。俺は使うことないので」
そこまで言うとドリアドスさんはジロッと泣いているグラナラさんを見つめ、側の項垂れた二人にも視線を向ける。
「お前らは今後もパーティーを続けたいならお互いの職の専門知識を勉強しろ。俺の同行はそれからだ」
三人とも萎れて返事をして、ドリアドスさんは不機嫌に顔をしかめている。
「……どういうことですか?」
つまりしばらくドリアドスさんの同行はないってこと?
四人の沈黙に耐えかねて尋ねた。
「……グラナラはこれをそのまま食べるつもりだった」
「ああ、そう聞きました。ベジタリアンのエルフなら出来るんですか?」
美少女なグラナラさんが干し草をモシャモシャ食べる絵面は想像するだけ破壊力ある。
「んなわけあるか。アホ」
エルフだって干し草は食えねぇよと付け足した。
「え、……マジ?」
「マジ」
「え、てことは」
二日間、魔力の補給なしでの活動だったんかい。
それなのにホイホイ使う気だったのか。
空っぽにしたら後がない状態だと気づかず。
もし四人だけの活動なら。
ドリアドスさんとの同行がなければ。
タラレバで考えて思わずぞわっと背中に薄ら寒いものが走る。
グラナラさんの逆サバでパーティーが危険だったってことじゃん。
「……あぶねぇ」
やっぱりこの子、こえぇ。
マミヤとブルクスは人任せで楽観的すぎる。
今回は俺もだ。
緩く考えていた。
マジであぶねぇ。
「……すいません、反省します。聞いていたのに迂闊でした」
判断を保留にしていた自分の非だ。
とっととドリアドスさんに尋ねるべきだった。
「よく分かってるじゃん。単体専門のお前は特に気を付けろ。パーティーの招待が多くなるはずだから」
「気を引き締めます」
綱渡りの状況に顔が青ざめてる。
やっぱりまだ不勉強だ。
俺の知識は本業の修理と商売、モンスターの生態が主だ。
冒険者の職業についての知識は浅い。
悪意の嘘ばかりに怯えてたけど、まさか善意の嘘があるなんて思わなかった。
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