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44,義兄候補
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戻ると鎧を中途半端に着たチイネェが待ってた。
足甲と手甲がまだだ。
「もういいの?」
「うん、今度マミヤ達を誘うよ」
一人じゃ無理だからとさっきの話を伝えると眉間にビシッとシワが寄ってハンマー担いで出ていこうとしたから腰にしがみついて止めた。
「待てってば!」
「どいて」
「やめて!しかもそんな格好で!」
俺は慌ててるのにロブさんとエルドラさん達はいってらっしゃいと手を振っている。
「どうしてですか?!とめてくださいよ!」
「冒険者同士はこんなもんだよ?手を出したらやり返す。最低限、僕らみたいな一般人に手を出さないだけかな。それも限度があるけど」
それは知ってるけどさ!
でもさ!だってさ!
「ハンマーは困りますわ。設備が壊れますもの」
「分かった」
「とめてよぉぉ!」
俺がだめだって騒ぐのに皆でチイネェの見支度を手伝うし、支度が整うとハンマーじゃなくてキセルを片手に掴んで、ロブさんに俺を押し付けて出ていってしまった。
「お茶でも飲んで待ってよう。それともお酒?」
チイネェが飲んでたらしい残りの酒を見せてきたけど首を横に振った。
「下戸なんで、いいです」
「そう?割りもののジュースもあるけどどうかな?」
「……いただきます」
「ふふ、君はお行儀がいいね」
ふわっと顔をほころばせて顔に浮かんだ柔らかい微笑みに気恥ずかしくなった。
品のいい人だと思ってたけど、顔立ちも上品で綺麗。
それなのに俺みたいな女っぽいところはなくて顔も体つきも男らしい精悍さが混じってる。
自分の垂れ目の女顔と細い体つきが悲しくなる。
「君は甘いのと少し酸味があるのはどっちが好き?混ぜて飲んでもおいしいよ」
知らない果物の名前だったので飲んだことがないと答えると、僕のお勧めで混ぜていい?飲んでみて、と優しく接してくれる。
ジュースの支度をするロブさんに見とれて、手が綺麗だなとか横顔も鼻の形がスッと延びてるんだとか、いいなと思うところばかり目につく。
見てると胸がざわつくし、じわって目頭が熱くなってきゅって唇を噛んでしまった。
どういう関係なんだろ。
チイネェはこの人が好きなのかな?
ああいうことを許すくらい好きなのか?
「どうかした?もしかして絡まれて怖かった?」
「いえ」
「チサキが折檻してくれるよ。もう手を出すようなことはないから安心して」
はい、と頷くと目を細めて微笑む。
「いい子だね、君は。チサキが可愛がるのも分かるよ」
そう言って俺の肩をポンと叩いた。
優しげな物言いと甘やかす空気でこの人ならお兄さんと呼んでもいいかなと思えた。
しばらくロブさんと一緒に過ごした。
話し声や表情、気遣い。今まで会った人の中でもダントツで居心地のいい人だった。
こんな人がいるんだなぁって感動するくらい。
「帰るよ」
「はい」
キセルと拳に血をつけたチイネェのお迎えにビビった。
男湯に乱入してバニーを取っ捕まえたらしい。
何をしたかは聞かない。
殴ったのは確実だから。
エルドラさんがキセルを受け取って血を拭ってから手渡した。
意外と肝が座ってる。
俺は怖いと思ったのに。
こういう客相手の仕事だからかな。
それからエルドラさんや他のはお見送りの女性達がチイネェを頬に別れのキスをして抱き締めてた。
「またお越しくださいね」
「ご無事で」
「お祈りしてます」
チイネェも手を皆の肩にポンポンと添えて返事をしてた。
「あなたもよ?」
「またね」
「無事に帰ってきてね」
俺も同じようにキスされた。
最後にロブさん。
「またおいでね?ラオ君」
女の人みたいな柔らかい唇が頬に当たって、エルドラさん達にされるより恥ずかしかった。
「チサキも」
「またね」
チイネェにも。
チュッと頬から音が聞こえた。
ロブさんは俺より背が高くて、顔の位置はチイネェとの方が近い。
少し背伸びのロブさんと軽くうつむいて顔を寄せたチイネェ。
目が会うと小さく頷き合って大人な空気。
頭上で見える二人の雰囲気をなんだか羨ましい気持ちで眺めた。
帰りも手を握るって言われて素直に握り返した。
チイネェは嬉しそう。
俺はこういうやり取りがもうすぐ最後になるって気持ちになったから手を握った。
俺ならペットか子供にしか見えないけど、ロブさんなら恋人同士に見えるし、お似合いだと思った。
ガキみたいに手を繋がれてる。
恥ずかしいけど握り返す。
大きな手は俺のだから。
知らない道を通って住宅街を進む。
広場から近くギルドも近く治安のいい場所だって。
先にウサギご夫妻に挨拶はしたらしい。
明日は俺も行く。
チイネェの予定も聞きながら夕暮れを過ぎて暗くなった街を歩いた。
一つ驚いたのは新しく借りた部屋は部屋じゃないこと。
一軒家だった。
「でか、」
「部屋数は少ないよ」
「へえ」
家はでかいけど大型人種向けで三部屋。
台所は少し大きい。
ギリギリ、俺の身長でも使えそうな高さ。
ギリギリ……、本当にギリギリだ。
最初に台所を点検する俺を見てチイネェがしょんぼりした声で、ごめんと言う。
「少し大きかったね」
「このくらいなら大丈夫だよ」
低すぎる方が作業しづらい。
ミニウサギご夫婦の小さな家で大変だった。
「戸棚は手が届かないや」
背伸びしても伸ばした手はスカスカと空中を触るだけだ。
「私が取ればいいよ」
「台を使えばいけるって」
「え?届くの?」
そんなにチビとからかいたいのか、こらぁ。
どうせ短期だしあんまり使うこともないっつーの。
「身長は放っておけ。それより火ぃ起こしてよ」
「うん」
チイネェが買ってきた食材の下拵え。
ナイフを片手に野菜を切っていると火種を育てていたチイネェがくふくふと笑っている。
「飯、楽しみ?」
「うん」
今日はチイネェの好きなものばかり作る予定だ。
嫌いな食材を入れてやると怒ったけど買ってないし。
ここに来てずっとあんまり食べてなかったからお腹すいてるはず。
鍋にスープ。
煮込んだ芋は潰してサラダ。
肉もチイネェの好む香辛料でブレンドしてから好みの焼き加減で焼いた。
あと固めに煮込んだ米。
なぜかうちでは柔らかく煮込んだリゾットよりモチモチの粒々した米を好む。
足甲と手甲がまだだ。
「もういいの?」
「うん、今度マミヤ達を誘うよ」
一人じゃ無理だからとさっきの話を伝えると眉間にビシッとシワが寄ってハンマー担いで出ていこうとしたから腰にしがみついて止めた。
「待てってば!」
「どいて」
「やめて!しかもそんな格好で!」
俺は慌ててるのにロブさんとエルドラさん達はいってらっしゃいと手を振っている。
「どうしてですか?!とめてくださいよ!」
「冒険者同士はこんなもんだよ?手を出したらやり返す。最低限、僕らみたいな一般人に手を出さないだけかな。それも限度があるけど」
それは知ってるけどさ!
でもさ!だってさ!
「ハンマーは困りますわ。設備が壊れますもの」
「分かった」
「とめてよぉぉ!」
俺がだめだって騒ぐのに皆でチイネェの見支度を手伝うし、支度が整うとハンマーじゃなくてキセルを片手に掴んで、ロブさんに俺を押し付けて出ていってしまった。
「お茶でも飲んで待ってよう。それともお酒?」
チイネェが飲んでたらしい残りの酒を見せてきたけど首を横に振った。
「下戸なんで、いいです」
「そう?割りもののジュースもあるけどどうかな?」
「……いただきます」
「ふふ、君はお行儀がいいね」
ふわっと顔をほころばせて顔に浮かんだ柔らかい微笑みに気恥ずかしくなった。
品のいい人だと思ってたけど、顔立ちも上品で綺麗。
それなのに俺みたいな女っぽいところはなくて顔も体つきも男らしい精悍さが混じってる。
自分の垂れ目の女顔と細い体つきが悲しくなる。
「君は甘いのと少し酸味があるのはどっちが好き?混ぜて飲んでもおいしいよ」
知らない果物の名前だったので飲んだことがないと答えると、僕のお勧めで混ぜていい?飲んでみて、と優しく接してくれる。
ジュースの支度をするロブさんに見とれて、手が綺麗だなとか横顔も鼻の形がスッと延びてるんだとか、いいなと思うところばかり目につく。
見てると胸がざわつくし、じわって目頭が熱くなってきゅって唇を噛んでしまった。
どういう関係なんだろ。
チイネェはこの人が好きなのかな?
ああいうことを許すくらい好きなのか?
「どうかした?もしかして絡まれて怖かった?」
「いえ」
「チサキが折檻してくれるよ。もう手を出すようなことはないから安心して」
はい、と頷くと目を細めて微笑む。
「いい子だね、君は。チサキが可愛がるのも分かるよ」
そう言って俺の肩をポンと叩いた。
優しげな物言いと甘やかす空気でこの人ならお兄さんと呼んでもいいかなと思えた。
しばらくロブさんと一緒に過ごした。
話し声や表情、気遣い。今まで会った人の中でもダントツで居心地のいい人だった。
こんな人がいるんだなぁって感動するくらい。
「帰るよ」
「はい」
キセルと拳に血をつけたチイネェのお迎えにビビった。
男湯に乱入してバニーを取っ捕まえたらしい。
何をしたかは聞かない。
殴ったのは確実だから。
エルドラさんがキセルを受け取って血を拭ってから手渡した。
意外と肝が座ってる。
俺は怖いと思ったのに。
こういう客相手の仕事だからかな。
それからエルドラさんや他のはお見送りの女性達がチイネェを頬に別れのキスをして抱き締めてた。
「またお越しくださいね」
「ご無事で」
「お祈りしてます」
チイネェも手を皆の肩にポンポンと添えて返事をしてた。
「あなたもよ?」
「またね」
「無事に帰ってきてね」
俺も同じようにキスされた。
最後にロブさん。
「またおいでね?ラオ君」
女の人みたいな柔らかい唇が頬に当たって、エルドラさん達にされるより恥ずかしかった。
「チサキも」
「またね」
チイネェにも。
チュッと頬から音が聞こえた。
ロブさんは俺より背が高くて、顔の位置はチイネェとの方が近い。
少し背伸びのロブさんと軽くうつむいて顔を寄せたチイネェ。
目が会うと小さく頷き合って大人な空気。
頭上で見える二人の雰囲気をなんだか羨ましい気持ちで眺めた。
帰りも手を握るって言われて素直に握り返した。
チイネェは嬉しそう。
俺はこういうやり取りがもうすぐ最後になるって気持ちになったから手を握った。
俺ならペットか子供にしか見えないけど、ロブさんなら恋人同士に見えるし、お似合いだと思った。
ガキみたいに手を繋がれてる。
恥ずかしいけど握り返す。
大きな手は俺のだから。
知らない道を通って住宅街を進む。
広場から近くギルドも近く治安のいい場所だって。
先にウサギご夫妻に挨拶はしたらしい。
明日は俺も行く。
チイネェの予定も聞きながら夕暮れを過ぎて暗くなった街を歩いた。
一つ驚いたのは新しく借りた部屋は部屋じゃないこと。
一軒家だった。
「でか、」
「部屋数は少ないよ」
「へえ」
家はでかいけど大型人種向けで三部屋。
台所は少し大きい。
ギリギリ、俺の身長でも使えそうな高さ。
ギリギリ……、本当にギリギリだ。
最初に台所を点検する俺を見てチイネェがしょんぼりした声で、ごめんと言う。
「少し大きかったね」
「このくらいなら大丈夫だよ」
低すぎる方が作業しづらい。
ミニウサギご夫婦の小さな家で大変だった。
「戸棚は手が届かないや」
背伸びしても伸ばした手はスカスカと空中を触るだけだ。
「私が取ればいいよ」
「台を使えばいけるって」
「え?届くの?」
そんなにチビとからかいたいのか、こらぁ。
どうせ短期だしあんまり使うこともないっつーの。
「身長は放っておけ。それより火ぃ起こしてよ」
「うん」
チイネェが買ってきた食材の下拵え。
ナイフを片手に野菜を切っていると火種を育てていたチイネェがくふくふと笑っている。
「飯、楽しみ?」
「うん」
今日はチイネェの好きなものばかり作る予定だ。
嫌いな食材を入れてやると怒ったけど買ってないし。
ここに来てずっとあんまり食べてなかったからお腹すいてるはず。
鍋にスープ。
煮込んだ芋は潰してサラダ。
肉もチイネェの好む香辛料でブレンドしてから好みの焼き加減で焼いた。
あと固めに煮込んだ米。
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