鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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38,妥当な過保護

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そうやってるうちに泣き止んで、おしゃべりが落ち着いた頃にマミヤが迎えにきた。

「遅いから迎えに来たよ」

「ありがとうございます」

グラナラさんがお礼と微笑みを向けるとマミヤは少し眉を下げて苦笑いをした。

「笑い声が聞こえるから何かと思った」

「グラナラさんが泣き虫で見栄っ張りの自慢しい、」

「ラオさん!」

ひどい!と怒るけど笑ってしまった。

「ごめんごめん。でもペラペラとうちのことを話した仕返しです。特に強制土下座のこと」

ちょっとくらいいいでしょ?と聞いたらむぅっと口を突き出して拗ねていた。

ペラペラ話すなと釘を刺して魔道具の話をしながらブルクス達と合流。

川辺ではブルクスがドラゴンモドキの解体をしていた。

戦闘でだめな部位や素材が出たから、使えるところと依頼の部分だけにする。

「遅かったなぁ」

「話に花が咲きまして」

「へぇ」

グラナラさんは周囲の探知に集中し、解体を三人で行う。

ついでにもうチイネェと俺のことを他に話すのはやめてくれと二人に頼んだ。

有名ランカーの家族を目当ての人間に囲まれるのも困るし、仕返しや妬みで襲われるのも勘弁だから。

親父とダイネェはあっちこっちのパーティーで揉めたらしいから用心したい。

「弟って知らせないとペット扱いで困りますけど」

いや、見かけから信じてもらえない。

口止めしても意味ないかも。

「そっちで有名だもんなぁ」

その一言で不機嫌にブルクスを睨んだ。

「そんなに有名ですか?」

「そうだよ?知らない?」

「ここに親しい人はいません。初めて来ましたし」

むすくれたまま、黙々と手を動かす。

「鬼人は依頼のパーティーしか組まないのが普通だし。チサキさんもそうだったのに、いきなりお前を連れて回るから街の皆は興味津々」

「だよなぁ。見たことないくらい可愛がってるってすごい騒ぎだよ。ペットか恋人かって、賭けも頻繁だし。二人がいつまで続くとか」

「マミヤはどっちに賭けた?」

「賭なんて金の無駄だよ」

お前は賭けたのかとマミヤが呆れてる。

「興味はあったけどカツカツだから無理」

でももう答えが分かったから身内枠に賭けようとホクホクしてた。

「マミヤ、残りの金を賭けようぜ」

「金欠なんだからやめろよ」

「だって大穴。これで一攫千金。うはうはだよ?」

「やめといた方がいいですよ。どうせ胴元が儲かる仕組みだし、答えの証明しようにも証明する宛がないからいつ換金出来るか分かりませんよ」

「あー、そうかぁ」

ついでに恋人が賭の一番人気だと勝手に教えてきた。

アホか。

俺は弟だ。

全員アホと心の中で罵る。

解体が済んだら昨日の流れで解体屋に肉と素材を預けて受取書をギルドへ届ける。

今日はちゃんと皆で印も報酬も分配。

「……ボーナスは出なかったなぁ」

ブルクスが残念そうだった。

「昨日のは予定より上質な肉と素材が多かったからだよ。頭以外、無傷の個体だから。そうそうボーナスは出ないって」

「ラオならよく出すんじゃね?」

「そうですね。それなりに」

「うおお、余裕の回答だ」

「でも非力で運べないので自分で運べる小物だけですよ」

「あ、そうなんだ」

一人ならね。

実際はチイネェが運ぶから大物もいけるけど。

俺は裏で鍛練すると言うと三人もついてきた。

受付にはオルカさんはいなかった。

まだギルド長の貝に閉じ込められてるのかも。

オルカさんが不在のおかげで鍛練場には人がいない。

マミヤとブルクスはさっさと二人で槍と剣で組み手を始めた。

グラナラさんは側にちょこんと座って見学するから何かやらないのかと尋ねた。

「でも私は何したらいいでしょうか」

「錫杖を振るといいと思います」

いざとなったらそれで身を守るんだろう?

大事な錫杖の代わりに同じ長さの棒を持たせて振ればいいと言って俺は投棒と弓の練習。

ふと見るともう休んでいた。

体力ないのかなと思って見てたら、どうやらそうではなくマミヤ達が休めと邪魔をしてる。

グラナラさんはやりたそうに見えるんだけど。

今日は森を歩いて疲れてるし怪我するいけないからだめだって。

そのやり取りが俺と家族の過保護と被って笑ってしまった。

「グラナラさんも体力作りした方がいいんじゃないですか?」

「でも、明日もあるのに」

森に1日通っただけで寝込んだことがあるとマミヤは言い張り、グラナラさんは緊張していたせいだし最初だけだと言い返す。

「前より体力はあります!」

でも、だってとマミヤがごねる。

「最初出来なかったから今も出来ないと決めつけられて嫌でしょうね。待たされて暇ですし」

グラナラさんへ助け船。

過保護で苦しいのは分かるからなぁ。

「何か少しずつチャレンジしてみればいいと思いますよ」

「ラオさん!」

味方になったことでグラナラさんはパアッと明るくなる。

けど、この子は逆サバの見栄張り。

味方になった責任は取りたくない。

「本人が勝手に無茶して、マミヤが止めるはめになってるのは想像つきますけど」

「ラオ!分かってくれるか!?」

今度はマミヤの顔が明るくなった。

手間がかかってるんだろうなぁ。

薬草のこともそうだし。

案の定、疲れても意地を張って言わないし結局動けなくなるまで我慢するんだって。

「やっぱりグラナラさんは逆サバの見栄張りじゃないですか」

「ち、違うもん!」

子供っぽく抗議するけど俺達三人は心当たりしかない。

呆れるし、それを笑ってからかった。
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