鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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37,後衛のコンプレックス

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討伐は危なげなく前衛二人の攻防だけで完了した。

やっぱりマミヤとブルクスはモンスターと真正面から対峙が得意で強い。

羨ましいと胸がチリチリと焼けた。

遠くからこっそり仕留める俺とは違う。

前衛が人気職なのは分かる。

そっちの方が格好いいもん。

グラナラさんが逆サバの見栄を張るのも分かるわ。

「二人とも強いですね。俺達の出番がなくて良かったけど、ふぅ、」

自分の声に覇気がなくてグラナラさんが目を丸めてこっちを向いた。

バレたかなと苦笑いを返す。

「……そうですね。二人ともとても強くて、私はあまりお役に立てたことありません。探知ばかりで回復は全然。いつも二人の後ろを着いていくだけ」

「回復は出来るだけ取っておきたいんでしょう」

「……探知もそんなに精度が良くありません。個体の気配が分かるだけでモンスターの種類は分かりませんし、意味なんかありません」

そんなことないと言いたいが意固地になっている雰囲気なので、何を言っても受け入れそうにない。

仕方ないから何も答えずにただ話を聞くことにした。

項垂れてしばらく黙っていたと思ったらぽそっと、私なんかが一緒に組むような人達じゃないんですと呟く。

「すいません。良くしてくれるんですけど。分かってるんですけど、あの二人と比べていじけてしまって」

「……ですよねぇ。俺もそういう気分に良くなります。後衛専門にはよくある悩みなのかもしれませんね」

頷くグラナラさんに、木から降りましょうかと声をかけた。

やっぱり本人が思ってたより降りるのが難しくて、首にしがみついてもらってゆっくり足取りを教えながら降りた。

「こうやって登り降りするんですね」

「たまに練習しとくといいですよ。木に登れないモンスターなら有効です」

「色々教えてくれてありがとうございます。あの、これも」

手もとを見せるので視線を向けると昨日の手拭い。

洗ったらしくて、シワもなく畳んである。

「お返ししようと思って、昨日もありがとうございます」

「いえ、気にしないでください」

手拭いを握ると、グラナラさんはパッと俺の手を掴んだ。

「……グラナラさん?」

「どうやったら、ラオさんみたいに強くなれますか?私、嘘つきで、弱い。ラオは私と違って何でも出来て、ドリアドスさんとも対等にお話して、すごい、羨ましい、です」

「生意気なだけですし、弓がなきゃ弱いですよ。弓もまだまだ未熟だと思います。比べたらきりがないから、今は諦めてるんです。もう皆のところに行きましょ、う」

グラナラさんの顔がくしゃくしゃ。

鼻の音や小さくえずいて、うるうると涙ぐむのに気づいた。

俺が思ってるよりすっごい気にしてるんだ。

さっきも、乱暴に逆サバを指摘して傷つけた反省をした。

「もう少し、ここで時間つぶしましょうか。遅ければ向こうが迎えに来ますけど」

「その前に、泣き止み、ます。ごめんなさい」

「……転んだことにしません?二人とも、俺が泣かせたと勘違いしそうです。マミヤとブルクスはお人好しの単純だし、グラナラさんを大事にしてますから殺されそうです」

「ふふ、そんなことしませんよ。でも二人とも、大事にしてくれて、申し訳ないくらいです」

「引け目を感じるのも嬉しいのも分かります。複雑ですよねぇ。これ、どうぞ」

「お返ししましたのに」

受け取った手拭いをグラナラさんへ向けた。

「へこませたお詫びです。使ってください」

「え?」

「逆サバです。あんな言い方してすいません」

言葉の説明を足すと、理解して頭を揺らす。

「逆サバって言うんですね。初めて知りました」

「俺は初めて見ました。お互い様ですね」

「すいません、困らせてしまって」

からかいを混ぜてそう言うとグラナラさんも苦笑いで笑った。

手拭いで目元に寄せて拭いてやった。

「自分でしますね」

「はい、それがいいですよ」

宝石みたいに反射する涙が手拭いに吸い込まれる。

俺はグラナラさんが涙を拭くのを黙って待った。

じろじろ見る気にもならず目は伏せる。

「守られてばかりで、不甲斐なくて。でもラオさんもそうだと言ってくれてほっとしました。私だけじゃないんですね」

「鬼人のお供ですからねぇ。今の俺は何の役にも立ちません。まだまだです」

「目標が高くて、私じゃラオさんの足元にも及びませんね」

「回復と探知を出来ますし、まだ延びしろがあるでしょう?魔法の才の方が羨ましいです。そのうち魔道具を何か揃えようと思ってるので相談に乗ってください」

「……私なんかが役に立ちますか?ラオさんは何でも知ってますし」

「さすがに魔道具は分かりません。相場は分かりますけど、一般的な品物だけですし」

戦闘に専門に特化したような、特別な魔道具は詳しくないし、魔道具の修理は才能がある魔力持ちしか扱えない。

俺にはないし、外観の修繕をするだけ。

話すとそれを意外そうにするグラナラさん。

初めて優位な立場を理解して嬉しそうに目が輝いてる。

「大丈夫ですか?俺より詳しくないと困りますよ?」

「私の専門ですよ?作ってあげましょうか?」

「作れるんですか?」

「簡単な付与なら」

弓を貸してほしいと言われて渡すと手を添えて詠唱を唱える。

「耐久が2割増しになります。普通より数値が低いし、それだけですけど」

恥ずかしそうに呟く。

俺に弓を返したからそれを点検。

しなりが強くなって弦の音がいい。

新品みたいだ。

「すごいですね」

傷ついて悲しそうだった表情は和らいで少しは笑顔に変わったから、俺も顔が緩む。

「やっと元気になりましたね。自分より出来ない人を見ると慰められるでしょう?落ち込んだら、また才能なしの俺に魔法を見せびらかしてください」

グラナラさんは見栄張りの自慢しいですからねとからかった。

「え?えー?!ひどい、ラオさん!そんなことないですもん!私の性格が悪いみたいじゃないですか!」

真っ赤な顔でぽかぽかと肩を叩くからおかしい。

「あは、ごめん」

「ラオさんったら!もう!」

俺が笑うとグラナラさんも結局つられて笑ってた。
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