鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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29,女の戦い

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まとわりつく粘る圧が全身に絡んで首を絞められたような圧迫と気持ち悪さ。

吐きそうなくらい。

冷や汗がぶわああっと出る。

「……あんたたち、私のお気に入りに手を出したら呪うわよ?」

ざざざっと青ざめた男達が走る勢いで後ずさった。

俺も後ずさりたいのに背中はもう壁だよ、おい。

「さあ、これでいいわ。もう大丈夫よ!私が守ってあげるからね?」

俺に振り向くと笑顔で手を広げてもう捕まる寸前。

「だっ、だから、なんで俺なんですかぁぁ!」

こんな怖い人嫌だぁぁぁ!

「だって、ラオ君可愛いもーん」

「うわぁぁぁ!ストップ!ストップゥゥ!」

だあああ!捕まったぁぁ!

柔らかい体でぎゅうぎゅうに抱き締められて顔にキスされるけど半泣き。

いや、泣いた。

怖すぎ。

「ラーオ君、手ぇどけてぇ?」

まさぐらないで!

怖いぃ!

口もヤられそうで手を被せて目をぎゅってつぶって身を固まった。

「オルカ、やめて」

俺からべりっと剥がれて目の前にオルカさんが浮いてる。

「やーん!誰よ?あら、チサキ」

「泣かさないで」

「ごめん、でも可愛くて」

「やめて。怒るよ」

はーいと大人しく返事したら、チィネェは脇を抱えて持ち上げてたオルカさんを下ろした。

「チ、チィネェェエ!助かったぁぁ!」

腹に体当たりしてありがとう!と叫んでた。

「そんなに泣かなくてもいいのにぃ。ラオくーん?」

「怖いです!怖いです!あんな、強い圧を持ってるなんて!」

顔を覗きこまれてブンブン頭を振った。

チィネェ並みじゃねぇか。

「普段は出さないわよぉ?ラオ君はお気に入りだからそんなことしないしぃ。ねぇ、お付き合いしよーよ?お姉さん優しいよ?気持ち良くしたげるぅ」

さっきより猫っぽいしなやかなな動きと濃い色気を漂わせて、にやーっと弧を描く目がゾッとするくらいギラついてる。

「いい!いいです!遠慮します!」

「残念だなぁ。断るなんて生意気でムカつくしぃ。でもチューしたら許してあげる」

顔が近づいて来て、ヒエエッと叫ぶと今度は俺が宙に浮いた。

「オルカ、やめてってば」

「もうっ、いいじゃん。ちょっとくらい」

ぷぅっと頬を膨らませて視線はこっちを見上げてる。

呆然としてたけど目の高さと腹の圧迫でチィネェに抱っこされてるとやっと分かった。

「ちょっとって何?オモチャにする気なの?くそビッチ、殺すよ?」

ざわっと今度はチィネェからの殺気と怒気。

チィネェの髪の毛までぶわぁっと浮いてる。

「ひええ、ち、チィネェ」

「は?ビッチですって。てか、遊びって決めつけないでよ?チサキでも怒るわよ?男嫌いの未使用ババァ、口喧しい小姑、シスコン、欲求不満のヒステリー」

こっちもかい!

さっきの圧が戻ってきた!

どちらも静かに話すけど魔力混じりの圧と鬼人の怒気に吐きそうだよ!

親父!ダイネェ!助けて!

「オルカ!」

「げ、おじいちゃん」

ギルド長が来て拳骨。

「檻に入れる」

青筋たてて脅してる。

「げ!ごめんなさっ」

ドバァァァッと地面から大きな貝が現れてオルカさんをばっくり食べた!

おじいちゃん!ごめんんん!と中から叫び声だけ響いて貝はモコモコと地面に潜ってしまった。

脅しじゃないのね。

檻ってこういうのなんだ。

すげぇ。

「申し訳ありません」

「い、いえ、いいです」

「ギルド長、そろそろ怒るよ」

俺はなかったことにしたかったけど、チィネェは怒ってるからだめだった。

「あれが大変失礼なことを、」

「どうでもいい。それよりこいつをビッチのオモチャにしないで」

「躾直します」

「そうして。出来なきゃここを更地にするよ」

「肝に命じます」

チィネェが俺を抱えたまま踵を返したから待ってくれと頼んだ。

「何?」

「矢と投棒、鉄の」

「分かった」

「下ろしてよ」

「だめ」

俺を片手に抱っこしたまま矢を矢筒に仕舞い、見物料代わりに鉄の投棒を持ってこいと側の男らに命令して取りに行かせた。

「下ろしてください。お願いします」

視線が痛いです。

「嫌」

チィネェはギルド長や男らに落ちた布やロープの片付けを指示するから申し訳ないし、結局宿に戻るまで下ろしてもらえなかった。

というか、すぐに風呂に漬け込まれた。

「う、ぷ」

頭からザバザバ湯をかけて洗髪用の石鹸でごしごし洗われる。

唐突なことで何か分からないけど、久々にチィネェの無言が怖いし。

俺のことを子供扱いをして気晴らししたいのかな。

でもさすがに恥ずかしいから手拭いを足の間に挟んで小さく足を丸めた。

今日は大型人種向けのでかい個室。

昨日のよりでかい。

湯を半分溜めたバスタブに入ると俺は腹の上まで水位が来るし、寝転んで余る広さ。

ドリアドスさんが入って余裕ありそうなくらいでかい。

「部屋、どうだった?」

「明日から」

「良いところあった?」

「うん、ちょうどいい台所と大きなベッド。水場と市場の近く」

ミニウサギご夫婦の近くだって。
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