鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

文字の大きさ
上 下
28 / 105

28,猫と魔女

しおりを挟む
「すごーい」

矢が尽きて弓を下ろすとパチパチと拍手が聞こえて振り返った。

「まだいいんですか?戻らなくて」

いたんかい。

ちょっとびっくりした。

ここのも借りて200本くらい射ってたのに。

「いいのよ」

「……さすがにいいのかなぁ」

眉を寄せて首をかしげるとクスクスと笑ってる。

目を細めると本当に猫だ。

体つきや勿体ぶった感じで肩をすくめる動きも猫。

矢の回収に行くとついてくる。

「戻ったらどうですか?」

「えー?私、邪魔だった?悲しいなぁ」

「いえ、そういうことはありませんけど」

「じゃあいいよね?」

「仕事に戻ってくださいよ」

「これも仕事なのよ」

「新入りの世話ですか?」

喋りながら矢の回収。

だめな奴も出るから点検。

大きくヒビが入ってるのは諦めてよけた。

弓を引いた時に割れるから。

また作らないとなぁ。

それとも手間だから練習用のを買いそろえようか。

「私がここにいるだけでいいのよ」

「え?」

何が?

「ほら、皆やる気になる」

耳にこそっと話しかけて視線で周囲を見ろと示す。

言われて見るとさっきまで壁に寄りかかって休んでた人いない。

皆、オルカさんに見えるようにブンブン剣を振って槍を回してる。

「あー、なるほど」

「一人だと囲まれて大変。でも君がいて助かったわ。ありがとう」

俺が大変じゃん。

迷惑。

「俺を壁に選ばないでくださいよ」

少し高いオルカさんを下から拗ねて睨むとまたにしゃっと笑う。

「だって私にも好みがあるのよ?大きくて偉そうなのより君みたいに話しやすくて可愛い子が好きなの」

「よくこの仕事を選びましたね」

筋肉達磨がゴロゴロじゃん。

「ギルド長に頼まれたのよ。親戚だからね」

娘?姪?

疑問の浮いた顔をにやーっと楽しそうに見返してくる。

「孫よ」

「え、マジですか?」

娘くらいの感じなのに。

「魔法使いの家系だから」

「なるほど」

魔法使いなら見た目年齢と寿命がバラバラ。

魔法で見た目を変えたり長命になったり出来る。

「でもギルドの秘密でしょ?俺に言わないでください」

「チサキの縁者だからいいのよ。それにあなたもすぐに知る立場のランカーになるわよ。私の占いでそう出てたから」

「へぇ、そうなったら嬉しいですけど」

「一族の中で私の占いはすごい当たるのよ?だからギルド長は君の獲得に躍起になったの。分かった?」

ツンツンとおでこをつついてくるから後ろへ下がった。

「そうなんですね。励みになります」

矢を揃えてまた位置に着くと今度は後ろに座らず隣へ立つ。

「ねえ、恋人はいないのよね?占いに出てたけど」

「……はい」

いたこともないっす。

占いでなんでも暴露されそうでやだなぁ。

「ラオ君、私はどうかな?年上だけど悪くないと思うんだよね。結構モテるんだよ?私の顔とか可愛くない?ラオ君の好みに合う?」

「……はい?」

「よかったぁ、ラオ君も良いと思ってくれてるんだぁ。嬉しい」

「いやいや、聞き返しただけですって。ちょっと待て、待ってください」

「なぁに?」

「からかってます?」

「何がぁ?」

にしゃっと笑って余裕ぶっこいてる。

新入りで遊んでるわ、この人は。

「ギルドのアイドルが新入りで遊ばないでください」

「えー、ガード固ぁい。遊ぼうよ?」

「嫌ですよ」

「オルカお姉さんじゃ嫌?」

「オモチャにされるのが嫌ですね」

「私のことはいいのね?オモチャが嫌なだけ。ふふ、恋人いないならお姉さんと付き合わない?どうかなぁ?」

グイグイ来るからさすがに顔が赤くなってきた。

さすが魔法使い。

初物食い。

童貞と処女が好きだもんな。

「し、新入りいじり、勘弁です」

「ラオ君、可愛いぃ」

顔を赤くしてどもったから余計、目をキラキラさせて迫ってくる。

弓を前にかざして後ずさってたら壁に背中が当たって逃げられない。

「ま、毎回、新入りに、こういうことしてるんですか?ちょっと、マジ、やめ、人前だし」

視線が痛いぃぃ!

「はじめてよぉ?本当はダメだしぃ。でもラオ君のこと気に入っちゃったから」

「な、なんで俺ですか、他にたくさんいるでしょ」

「いるわよ、臭くてゴツいの。しかも俺様で図々しい。私は筋肉太すぎるの嫌いなのに」

「え、エルフとか」

「嫌よ、エルフも。魔法使いを馬鹿にするし、ツンケンして可愛くない」

「そんなことないでしょ?」

「知らないの?あいつら、魔法使いの私達より魔法に特化してるからすぐ馬鹿にするのよ」

「そうかなぁ、エルフの知り合いは一人しかいないからあれなんですけど。グラナラさんはそんなことするようには見えません」

あのお人好しがそんなことすると思えない。

「グラナラ?ああ、あの新人。あの子は特別ね。街育ちのハーフだし。……ラオ君、あの子がタイプなの?」

「あ?いえ?タイプとか考えたことないです」

いきなり睨まれた。

でも話の流れが変わってホッとする。

「タイプがまだないの?なら私と、」

「いやいや、遠慮しますよ。ギルドのアイドルですから。回りに殺されます。俺じゃ無理ですよ。お世辞でもそう言われて感謝です。ありがとうございました」

「はぁ?お世辞じゃないわよ?」

遊び半分、本気半分でしょ。

「こっちが命がけになるのは分かるでしょ?ほら、向こう」

「……ああ、……これね」

オルカさんが後ろを振り向いて男らの嫉妬と威圧感混じりの視線を理解した。

「そう言うわけで、ギルドのアイドルに構われただけでもすごいので、ありが、」

そこまで言って、いきなり空気がドンッと重くなった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

うちの妻は可愛い~白豚と戦乙女~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:117

エリカの花嫁

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:90

伯爵令嬢、溺愛されるまで~婚約後~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:153

溺愛された伯爵令嬢のその後

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:202

処理中です...