鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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27,ギルドの美人職員

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予定より早く終わって暇。

暇すぎてすぐに窓口へ鍛練所を借りれるか尋ねたら、受付のお姉さんはめんどくさそう。

下を向いたまま受付表の紙を手元に寄せてペンを持った。

「名前は?何を使いたいの?剣の貸し出しも必要?それとも槍?」

「名前はラオシン、弓の練習です」

「ラオ?ラオシン?」

ハイハイ言ってたのに、いきなりパッと顔が上がった。

下を向いてて分からなかったけど華やかな魅力があるアーモンドアイ。

一度見たら忘れないような、人目を引く美人だった。

「あー!昨日の弓の子」

いきなりお姉さんはパァッと笑顔になり、指をさしてそう呟いた。

華やかさが開花して満開って感じ。

「やだぁ、気づかなかった。今日も練習するの?」

「はい」

「えらーい」

最初とはうって変わって愛想が良くなり、鍛練所も道具も好きに使っていいと言うから裏へ回った。

なぜかお姉さんも付き添い。

「弓、上手いのね。昨日、見てて楽しかったわ」

「ありがとうございます」

「ラオシン君って呼んでいい?それともラオ君?」

「好きにどうぞ」

「私、オルカよ。覚えてね?ねえ、ラオ君はいくつ?」

「オルカさんですね。歳は18です」

「私の3つ下かぁ。そっかぁ」

隣に立つと俺より少し高い。

明るい狐色の豪華な巻き毛に緑の瞳。

頬に少しだけそばかす。

チャーミングで気の強そうな大きな目は少しつり目。

それを細めて楽しそうにはしゃいでる。

「なんだっけ?ヒモか布がいるんだよね?」

「あるなら助かります」

「オルカお姉さんが用意したげる。ここをまっすぐ行けばいいから先に行ってて」

俺がお礼を言う前にすぐに館内へ戻ってしまった。

それを見送ってから鍛練所へ歩いた。

剣戟がいくつか聞こえる。

何人か鍛練してるんだ。

見てみると昨日とは打ってかわってすごい人数。

音の割に人が多くてビビった。

鍛練所の半分に人がいて、大半はゆっくり休んでる。

弓の的場はガラガラに空いてるから目立たないようにこそこそとそこへ。

何本か当てて遊んでるといきなり激しい剣戟が増えて自然と視線がそっちに引かれる。

「ラオくーん、持ってきたよー」

パタパタと紐と布を片手にオルカさんが走ってきた。

お礼を言って紐を結んだりかけるばかりに準備してるとオルカさんも手伝ってくれた。

「受付はいいんですか?お仕事忙しいでしょ?」

「いいのよ。新入りさんのお世話をするのも仕事だから」

そういうものなのかなと思い、ふぅんと鼻を鳴らしてお礼を伝えた。

「お礼ならまた練習見せて?あんなすごいの初めて見たからまた見たかったのよね」

すごいのとは何のことかと首をかしげた。

「何か目を惹くものがありましたか?」

飽きるでしょうにと込めてそう言うとむうっと頬を膨らませた。

「ラオ君は分かってないなぁ。もういいから練習見せてよ」

怒ってたのに笑顔がイタズラな猫みたいににしゃっと変わる。

コロコロした人だなぁってぼんやりその顔を見つめた。

「ねえ、これでいい?」

「いいですよ。別に外れてもまたつければいいし、変わった動きするならそれも練習になります」

「真面目ぇ、すごいねぇ」

向かい合ってしゃがむ俺の顔にぐいぐいと顔を寄せてずっと話しかけてる。

「はあ、そうですか?」

小道具の下拵えが出来たから、うつ向いていた顔をあげてぎょっとした。

視線、視線、視線。

視線の集中砲火。

巨体の男達に恨み深く睨まれててめっちゃこえぇ。

こんなに睨まれてるのに気づかないなんて、話をしてて気が抜けてた。

「ねえ、ラオ君。これってどこにかける?」

「的と奥の壁です」

原因はこの人だな。

ギルドのアイドルだったのね。

うちの地元にもいるわ。

系統違うけど。

地元は黒髪の色っぽいしっとり系。

ギルド長の末っ子。

ちなみに既婚者。

それでも皆メロメロ。

俺もそれなりに仲良し。

月いちで主婦仲間の皆に料理教室の先生してくれるから。

この人は大きな丸いつり目をしてて気まぐれな猫みたいだ。

悪い人ではないけど、回りの恨みの溜まった空気はめんどい。

何でもいい、関わらんでおこう、そう思いながら手甲に挟んでる鉄製の尖った棒で的や壁にロープや布を縫い止める。

「面白い仕込みをつけてるのね」

見たがるので渡すと目を輝かせて喜んでる。

「あげましょうか?」

「え?」

「髪留めになります」

「えー?!」

どうやってと聞くのでオルカさんの下ろした巻き毛をハーフアップに丸めて刺した。

尖った尖端には革のホルダーをハメてあげた。

「古くて尖端が丸い奴ですけど怪我には気をつけて。それか金物屋で先端を潰してもらってください」

「格好いい。すごーい。ありがとう」

強くなった気分とはしゃいで楽しそう。

こんなんで良ければどうぞ。

使い古しだし。先端が欠けてきた奴だから、どうせ研ぎ直しか処分する予定だったし。

的場の位置に着くとオルカさんは後ろに座って練習を眺めてた。

うるさそうと思ったけど始めると静かにしてくれるからありがたい。

そのうち飽きてどこか行くだろう。

中休みの鐘が鳴るまでを目標に、集中して矢を放ち続けた。
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