鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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四半刻後、ドリアドスさんの迎えが来た。

「上出来」

脳天に大量の矢の集中砲火を受けたドラゴンモドキを見て笑って、素材も肉もキレイに残ってると喜んでる。

大物は狙わなかった。

選んだのは小振りな奴。

万が一、矢が刺さらないと困るから。

鉄の矢も持ってきてるけど足らなくなったらヤバイし。

迎えが来るまで木の上で非常食を摘まんで待っていた。

「運ぶのはお願いしていいですか?」

俺は無理。

いつもチィネェに頼んでたし。

「構わねぇよ。矢は抜かないのか?」

「血が出ますから」

運んでもらうのに汚れると困るだろう。

「気を使ったわけね。マメじゃん」

俺とドリアドスさんのやり取りにマミヤとブルクスは真っ青になりながら見とれてる。

グラナラさんは興奮して顔を真っ赤にしてる。

耳もピコピコ。

ドリアドスさんが肩に担いで歩き出したから俺も後ろを従う。

立ち尽くす三人をドリアドスさんが誘って先へ進む。

「すごいんですね、ラオさんは」

「いえ、こういうモンスターは近所によく出ますから。多すぎて自分達で退治するんです」

こいつらじゃないけど、うちの地元ではこのサイズの単体が大量に畑を荒らす。

いい加減、馴れたものでギルドにいちいち頼まない。

冒険者じゃないご近所さんは集団で退治する。

女の人達も集団の統率がとれてて、このくらいサイズは追っ払うくらい強いし、普段から俺も参加してマメに狩ってる。

なんたって、うちの地区は愛玩モンスターや使役モンスターの餌を専門に作ってるからな。

野良モンスターに食い荒らされる。

でもさすがに群れで狩るタイプのモンスターやこれ以上大きい狂暴な個体はギルドに頼むかチィネェがいないと無理。

今回はドラゴンモドキみたいに群れながらも、殺られた仲間を餌に逃げるタイプだからソロで狩れた。

単体モンスターと変わらないし。

ついでに木登りが下手だから上にいれば射ち放題。

「おい、ラオ。な、なんで無印なんだ?」

ブルクスがあわあわしてる。

「ずっと自分には冒険者は向かないと思ってたし、本業が別にあったんで印稼ぎをしてませんでした。今回は縁があって、ここに来たんで。よろしくお願いします」

説明めんどい。

「……お前はすぐに俺らを越すよ。よろしくお願いしますはこっちの方だ」

マミヤの落ち込みに視線を向けた。

「俺なんかまだまだです。ドラゴンモドキの討伐は知識でカバー出来ただけですし。二人とも体格が恵まれて剣技が上手いですから。グラナラさんのような才能もありません」

もっと動けないと。

チィネェ達は基本的に大物狙い。

でかいのを丸々倒すのが好きだ。

それだと俺の矢は刺さらないし致命傷にならない。

皆についていくなら足らないと頭の中はそう言っていた。

グラナラさんの回復魔法があれば怪我を治せるし、ドリアドスさんや二人みたいな体格なら隣で戦っていざとなれば背負って逃げられる。

やっぱり羨ましい。

「……無い物ねだりは分かってるけど三人の全てが羨ましいです。俺は弓を上達させて知識で深めるするしかありませんから」

細かいことが得意な自分の細い指を見た。

手のひらの真ん中だけでかいタコがある。

弓の練習で出来た。

今まで好きでやってたけど今は違う。

頑張ろうって、家族を思い浮かべながらそれを握りしめた。

「くそ!気を使うな。ラオ単体で俺達パーティーより能力が高いのに、そんなことを言われたら惨めだ」

ブルクスの呟きが聞こえてそっちを向くと半泣き。

悔しさで涙ぐんでた。

「気は使ってませんよ。いざとなれば仲間を背負えるその体格は本当に羨ましいんです。二人ならお互いを背負えるでしょ?そこにグラナラさんを足しても平気そうですし」

チビの俺には無理だと言うとブルクスは鼻をすすりながら、そうかと答えた。

始終無言のマミヤも目を擦ってるところを見ると泣いてるんだろうな。

知らんふりして放っておいた。

そんな二人をグラナラさんは耳を下げて心配そうに見つめる。

呑気にスゴいとはしゃいでいたのは静かになった。

前を向くとこっちを探るドリアドスさんの横顔がチラッと見えた。

口許が緩んでる。

根性の入れ直しに俺が役立ったと思ってるんだろうなぁ。

意外と分かりやすいオッサンだと思った。
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