鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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20,種族の違い

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「ドリアドスさん、俺のドラゴンモドキの予想が合ってるか教えてくれません?」

「悪くないってのは教えとく」

じゃあ、やっぱり水辺をうろつく個体がいるわけか。

「ありがとうございます。それで指導員って何するんですか?」

足跡の見方も知らないみたいだし、教えてないのかと疑問だった。

うちの地元はモンスターがそれなりに多いから、外で遊ぶ年齢になると最初に教わる。

それを覚えるまで外遊びは許されない。

田舎や山育ちには普通のことだ。

あの三人はもしかしたら街育ちなのかな。

防具も金かかってるし。

家は金持ちなんだろうなぁ。

「基本は見張りだ。俺が教えるっつっても種族が違うから限度があるんだよね。まず目がお前らと見え方が違うし、聴覚と嗅覚も違う。人型だが、感覚器官はほぼドラゴン」

「マジですか?」

「マジよ?」

「すげぇ。じゃあさっき足跡を見てたのは?」

「ほぼ匂い。俺はドラゴニュートの中でも視力は悪い方だから色も大して分からんのよ」

「俺に教えすぎじゃないですか?」

「知ってる奴は知ってるよ。てか、嗅覚のおかげでドラゴンモドキの場所はずっと分かってるし、音で川の方角も分かる」

「え?!」

最強すぎん?!

「だからお前が人族の成人した男ってのもすぐ分かったし、チサキの」

「おい、名前」

またか、この蜥蜴。

蜥蜴じゃなくて鳥か?

鳥頭か?

「お前の姉ちゃんな。分かったって。初対面でお前があいつの匂いプンプンさせてて、……まあ、悪かったな。色々と突っかかって」

「その節はどうも。怖くて泣きましたね。あ、お詫びにこのパーティーを離脱させてくれたら嬉しいなぁ」

「……お前、マジで良い度胸だな」

「冗談のつもりでしたけど。でもさすがに特級のドリアドスさんに舐めた態度でしたね。すいません」

「ふん。いいよ、慣れた奴以外に久々だし面白いから。てか、あいつらの身内と分かればそのふてぶてしいのも納得するわ」

慣れてんだろ?と笑いかけてくる。

何がだ?と思って首をかしげたら、揉め事と一言。

「気性の荒い鬼人に囲まれて育ったんだ。酒飲んで暴れるわ殴り合いだわ、そんなの日常茶飯事でピヨピヨのあいつらくらいなら可愛いもんだよな」

顎で頭を寄せ合う三人を示した。

「いえ、うちは皆大人しいですよ。ご近所さんとも仲良しだし、地区の行事もよく手伝います。お酒も皆と仲良くおしゃべりです」

地区の祭りに合わせて帰って櫓の組み立てから何からマメに働くし、終わりの酒宴が毎年の楽しみにしてるし、酔い潰した相手を三人は全員を担いで家に送り届ける。

「誰の話だよ?」

「うちの家族ですけど」

「嘘だろ?」

「……うちの家族は外で何やってるんですか?」

聞いたら酔って暴れて店を半壊しただの、目付きが気に食わないと組んだパーティーの全員を半死半生に遇わせただの、録な話がでねぇ。

親父に至っては精力有り余って二軒の娼館の女を全滅させた精豪だとぉ?

ダイネェも娼館は潰してないけどあっちこっちに現地妻的なのがいて、男女を大量に侍らしてる?

マジかぁ。

「……うわぁ、クズだ」

普通の鬼人と違うと思ってたのに。

立派な鬼人をやってるわ。

「だから大人しそうなお前があいつらの身内って聞いてもなぁ。種族も見かけも似てないし、匂いも鬼人の混じりっ気がないから、いまだになぁ」

じろじろと俺を眺めて、よく見れば先端の小さく鼻がスンスンと動いてる。

「……うーん。やっぱり混じった匂いしねぇや」

鬼人の匂いがしないと何度も言う。

かなり人族の血が濃いんだろうなぁ。

「多分、ギルド長も同じこと思ってるぜ。鑑定はかなり深く分かるから。俺の鼻より分かるはずだし」

「……それなら信じられませんよねぇ」

はぁ、と小さくため息。

似てないのは理解してたけどそこまでか。

俺の中で親父の血はどこに行ったんだ。

迷子か、おい。

それにしても親父達のこともビビるわ。

外と中で使い分けてんのかなぁ。

家族の知らない一面にショック。

親父の再婚もダイネェの結婚も遠そうだ。

二人とも下半身有り余ってるのはどうかと思うけど鬼人だし仕方ない。

でも親父は愛したのはお袋だけだっていつも言ってるのに、やっぱりシモと感情は別なのかな。

親父は死ぬほどお袋を愛してた。

俺達がいなきゃあとを追ってたって言うくらい。

家で酒を飲むと女房の忘れ形見だ、愛してるぞってでかい体で俺達三人を抱き締める。

三人も残してくれてありがとうって。

それで、あんないい女いねぇって泣くんだ。

二度とお袋みたいな人と会えないって。

ご近所さんからも仲のいい夫婦だったって聞いてる。

親父が溺愛しすぎて買い物に出るのも毎日付き添って嫌がるのに抱っこしておろさないって。

お袋が恥ずかしがっても転んで怪我をしたらどうするとごねてたんだって。

生きてる間は仕事を減らしてずっと側にいたらしい。

短命種だから片時も離したくなかったと親父が言ってた。

毎年、準備から参加する地区のお祭りはお袋との思い出が沢山あるからって言ってた。

だから今もお祭りは大好きで、毎年終わりの宴会で地元のみんなとお袋の思い出に今も浸るんだ。

欲の多い鬼人が心底好きになるなんてないらしい。

しかも異種間。

顔は俺と瓜二つって言われるお袋がどんな人だったか知りたくて会いたくなった。

無理だと分かってるけど。

……いや、待て。親父の精豪に付き合えたのか、お袋は。

それは怖い。

しかも、ふと違うことも気づいてサァーッと血の気が引いた。

「まさ、か、チィネェ、も?」

「名前」

「本名じゃないっ」

涙目で睨むとへらっと笑ってる。

こっちは答えがほしくて声も出せずに半泣きで見つめてるのに向こうはそんな俺を楽しんでやがる。

ちくしょう。

「本人に聞いてみろよ」

「くっ!」

やり返された!

「ぶはっ!大好きな母ちゃんの男遊びが発覚して泣いてるガキだ!あははは!」

「くそぉっ」

悔しいぃ。

こんなんでショック受けるとかマジかよ。

鬼人の気質が強くて破天荒な親父とダイネェはまだうっすら納得するけど、一番俺の側にいてくれたあのチィネェがと思ったら泣けてきた!

怖くて聞けねぇよぉ!
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