鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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19,討伐の内容

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「久々にいい緊張感だ。助かったぜ。あいつら、俺がついてるって気が大きくなっててさ」

「……そうですか」

行く前から疲れた。

身内としか動かないから他の奴らの感覚なんか気にしたことなかった。

軽すぎるわ。

なんなの、あの死なない自信は。

あのガサツで頑丈なうちの家族でさえもっと用心深いぞ。

「不満そうと思ったけどガツンとやったなぁ」

目の前を三人でぞろぞろ歩くのを眺めながらドリアドスさんが笑いを混ぜて、こそっと俺に伝えてくる。

身長さで腰を屈めてんのがムカつく。

どうせチビだよぉぉ!

「緊張感がどうのって言うけど俺のせいでパーティーの空気が最悪ですよ。いいんですか?」

男二人は俺と目も合わさないし、グラナラさんも二人に追随して申し訳なさそうに俺を離れたところから見るだけ。

「パーティーは馴れ合いばっかりじゃないよ。特にお前みたいな単体はな」

「ドリアドスさんも基本はソロですよね」

「ああ、ドラゴニュートは鬼人と一緒」

チィネェ達も依頼がない限りソロ専門。

「毎回、こうやって揉めるんですか?」

「あー、それなりに。気にいらないことははっきり言うに限る。ヤバい勘は当たるからな」

「脳ミソがピリピリするくらいヤバいって思ってます」

「へえ、良い勘してるな」

「教え子が可愛くないんですか?」

危険はてめぇで教えろよ。

「可愛いぞ」

うおっ!

ぞわっとする!

「……またそっちか」

「は?!ちが、またお前は!」

「うるさいですよ。そっちで勝手にしてください」

二人ともあんたを慕ってるしちょうど良いんじゃね?

俺は知らん。

関わりたくない。

先を歩く三人を目視してから足元にしゃがんで地面の小さな窪地を触った。

溜まった枯れ葉を指でよけてぬかるみを確認する。

森に入ってから何度も繰り返すその行動を後ろからドリアドスさんが見つめる。

さっきより長く、カサカサと葉を避けていたら上から覗き込んで、ふぅんと小さく鼻を鳴らした。

「教えてやるか?」

「仕事ですから」

先を歩く三人へ声かけた。

グラナラさんとマミヤはすんなり振り返って寄ってくるが、ブルクスは嫌そうに間を置いて振り返り視線だけ向けた。

「目当てが近くにいますよ」

今回の目的はドラゴンモドキ。

1メートルから2メートル。

トカゲとドラゴンの特徴を持つ。

肉も素材採取もついでの研修。

初級の真ん中辺りのパーティーなら軽く討伐しなきゃいけないらしい。

でも好戦的なモンスターの中で珍しく臆病。

隠れるのが上手くて探すのが大変。

しかも対峙すれば迷わず襲ってくるモンスター。

少し手間だけど基本は臆病なおかげで行動範囲が狭い。

とりあえず足跡の近くに巣がある。

「本当に?」

「足跡見つけました。ここに、」

森の中で四つ足のドラゴンの足跡はドラゴンモドキの特徴。

かなりの大物が混じってる。

2メートル越え。

腹をこするから枯れ葉の道も出来ている。

そう説明して足の方向や予想できる大きさを伝えた。

「多分、5、6頭の群れです。足跡の方向はこの向きだと思います。気付かれたらすぐにバラけて引っ越しをするので手早くしましょう」

「ラオさん、スゴいですね」

グラナラさんが驚いていた。

別にすごくない。

全て身内からの受け売りだから。

「正確な位置は探知をお願いします。俺は出来ませんから」

「はい!任せてください!」

目をつぶって教えた方向にぶつぶつと詠唱を唱えて錫杖がぼうっと光った。

二度、三度と繰り返して申し訳なさそうに俺を見つめた。

「……すいません、それらしき個体が見つかりません」

考えて空を見上げた。

「……今日は日差しが強いから。……この時間なら巣を出て水辺で日を浴びてるかも。岩が多い水辺は近くに、」

「間違いなんじゃないの?それとも見栄張ったのか?」

ブルクスが二の腕を組んで呟く。

「グラナラの探知は正確だし、ドラゴンモドキが水辺を好むなんて聞いたことない。体を冷やすから水を嫌うし、巣穴に閉じ籠ってネズミとか虫を食べる。知らないのか?」

「そうですね、普通は。でも水辺の近くだと行動範囲を広げて魚や岩の隙間の蟹を食べますし、冷えたら岩場で日光浴をします」

「本当かよ。聞いたことないし信じらんないなぁ」

顎をしゃくって見下してくるから俺は努めて無表情に真っ直ぐ見つめ返した。

「俺はそっちの方が安定して餌を食べられるからと聞きました。でもうちの地元の話なので、ここは違うかもしれません。俺も自信がないし、皆も信用出来ないならこれで捜索はやめましょう。他のを探せば良いと思います」

別に俺はどうでもいい。

馬鹿丁寧に敬語を使ってしれっと答えた。

「……いやーな態度だな。さっきの威勢はどうした?」

「所詮、飛び入りですし。そちらの多数決でしょ?俺が何を言っても三対一。そっちの好きに決めてください。話し合い、待っとくんで」

手振りでどうぞと促すとブルクスは忌々しそうに顔を背けてマミヤとグラナラさんを引き寄せた。

「言うねぇ」

「腹割るんでしょ?」

「良い度胸だ。さすがチサキの息子」

「名前出すんじゃねぇ。あいつらに知られるのは面倒だ」

こそっと言い返す。

敬語の頻度が下がってきた。

「俺にまでふてぇ態度だなぁ」

「すいません。気を付けます。とりあえず、あいつらには少し前に食事処で絡まれたんですよ。チィネェは手で払うのに勘違いして、強引な相席です。男二人はスゲェにぶちん。グラナラさんはすぐに二人に流されるし。下手に色々教えたくないんでお願いします」

「へぇ、了解」

「お世話になります」

「そこは分かったから、今度チサキにさ」

「名前出すんじゃねぇっつったろうが。ふざけんなよ、こののぞき魔の暴力やろう」

「わりぃ、お前の姉ちゃん」

「いえ、無印の俺が言葉使いが悪くてすいません。で、姉がなんですか?」

「部屋借りたら遊び行っていいか聞いてくんね?てかお前から頼んでくれよ」

「本人に聞いてください」

「だめって言いそうじゃね?」

「知りませんよ、なんて言うかなんて」

「頼むよぉ」

「俺を使わないでください。姉の友達なんでしょ?」

「まあ、それなりに親しい」

「ならだめとは言わないんじゃないですか?暇があればウサギのリエブレさん達はうちに誘いたいって言ってたし」

「え、マジか?」

「暇があればですよ」

予定は1週間だから。

家は4日くらいで帰るつもりだったから食材なんかの物が残ってる。

食い物を腐らすのもなんだし、本業のお得意さんへの挨拶もしたい。

裏庭の菜園や空き家にする間の家の手入れをご近所さんに頼むとか。

とりあえず一度帰らないと。

それまでこのパーティーの研修に混ざるだけ予定。

あーでも、もうめげそう。
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