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16,転居計画と変態
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朝起きて宿の飯を食ったらロビーでドリアドスさんを待った。
チィネェもいる。
俺がドリアドスさんといる間、先にギルドへ行って不動産の問い合わせするって。
返答を待つ間は昨日の続きでワイルドボアの納品もこなすと話している。
「どんな台所がいい?」
「うちのと似てればいいけど。せめて半分くらいの大きさは欲しい。あ、でもでかすぎると困るよ。水場も近くないと」
自炊のために部屋を借りるんだ。
寝るだけの部屋じゃ困る。
俺の希望をうんうんと頭を揺らして聞いてる。
「店も近くないと買い物が不便だよなぁ。短期だから配達は頼まないだろ?」
「そうだね。食材の専門店街の方の近くがいいね」
「あ、リエブレさん家の近くは?ミニウサギご夫婦の。あそこら辺の市場は良かったよ」
「あの辺ね」
知り合いもいた方が安心だとチィネェは納得した。
「台所はそんな感じで、他はどうする?」
「寝れればいいけど、でも狭いベッドは嫌」
足のはみ出たチィネェを想像して笑った。
寝返り打てないのだけは困るって。
「こういうのは風呂屋の近くがいいの?」
「あー、風呂も考えなきゃ。どうしよっか」
二人であれがいい、これがいいと騒いでいたら、笑ってたチィネェの視線がふと俺の後ろへ動いて顔を真顔になった。
「おはよ」
「……よお、チサキ」
「おはようございます」
落ち込んだドリアドスさんに頭を下げた。
「……よお、えと、……ラオ?……タオ?」
覚えてないんかい。
「ラオシンです。今日からよろしくお願いします」
「わりぃ、よろしく。ラオシンだったな。ラオでいいか?」
「はい」
「こいつをよろしく、ドリアドス。ラオシン、楽しみにしてて」
台所付きのいい部屋を探すと張り切ってる。
「楽しみなのはチィネェだろ」
「うん、楽しみ」
満面の笑み。
口でドリアドスさんに声をかけるだけでチィネェは俺の頭を撫でて機嫌よくロビーを出てった。
腹減ってるんだろうなぁ。
ぐーぐーと腹は鳴ってたし、朝飯も少し摘まんだだけで残してたから。
カウンターに盆を下げに行ったら、宿の料理人さんが食い残しを見て、チィネェは食にこだわりが強くて難しいって落ち込んでた。
ここで完食したことないらしい。
残されたドリアドスさんはチィネェの背中を見送ったあと俺へ困った顔を見せながら視線を合わせる。
「部屋借りるのか?」
「チィネェはそのつもりです」
「そうか。台所って、チサキが料理すんの?」
「いえ、俺がします」
チィネェは細かい作業は下手くそです。
鍋に手でちぎった野菜と肉の塊と塩を入れて煮込むだけ。
「お前が?上手いの?」
「普通です」
チィネェの嫌いなものを入れないだけ。
匂いや味が強いもの、舌触り。
料理はご近所さん達と好き嫌いの多いチィネェ向けのメニューを山ほど作った。
「チサキ、偏食がひどいもんな」
そう言って足が動き出したので俺も小走りで追いかけた。
歩幅が違うから大変。
「普段、仕事先でチィネェは何食べてるんですか?」
この間の護衛もどうしてたのか気になる。
「夜営は味付けなしで焼いた肉しか食わねぇ。あと持ってきた保存食」
部位の好き嫌いもあるから残す。
無駄に殺して肉を残すのが嫌でそれも食べないって。
うわぁ、ひどすぎ。
なんでも食べろよ。
「……もう少しなんでも食べれるようにさせないとなぁ」
前より色々食うと喜んでたけど外じゃだめか。
「お前はあいつの母ちゃんか」
「向こうが俺の母親ですよ」
「何?どういうことよ?」
「赤ん坊の頃から親代わりで俺の面倒見てます」
「へぇ、そう。シーダもか?」
「いえ、ダイネェはチィネェより子守りに向きませんでした」
チィネェより荒くてやんちゃなダイネェの子守りはご近所さん達が止めた。
死なせると思ったからって。
首が座ってないのに、高い高いで屋根より高く放り投げるとか風呂のつもりで冬の川につけたとか。
チィネェも焦ったって言ってた。
子守りが出来ないことに拗ねたけど親父と仕事に精を出して金を稼いでくれて、俺が小さいうちは遠出せずに二人とも毎日帰ってきてた。
5、6才になったらもとの気質が押さえられなくて二人揃って俺達に、ごめん!って言いながら遠征を増やして今はたまに帰ってくるくらい。
チィネェも。
でも俺をご近所さん達に預けて毎日、日が暮れる前には迎えに来てくれてた。
ほぼ俺の母ちゃんだ。
「へぇー。お前、完全にチサキの子供だな」
「そうですよ」
ずっと小走りで追いかけてるから汗かいてきた。
話しながらはキツイ。
「そっか、そっか。へへ」
少し前を歩くドリアドスさんはニヤニヤしてるっぽい。
キモ。
「兄ちゃんって呼んでいいぞ?ラオ、お前なら許す」
「遠慮します」
お前にならそう呼ばれたいと言い出した。
しつこいしキモいって。
「遠慮すんなって、可愛がるから」
振り返ってにんまり笑うけど気持ち悪いくらい鼻の下が伸びてて、一気にぞわっと背筋に寒気が走ったから足を止めた。
「……あんた、そういう趣味か」
「へ?」
チィネェもいる。
俺がドリアドスさんといる間、先にギルドへ行って不動産の問い合わせするって。
返答を待つ間は昨日の続きでワイルドボアの納品もこなすと話している。
「どんな台所がいい?」
「うちのと似てればいいけど。せめて半分くらいの大きさは欲しい。あ、でもでかすぎると困るよ。水場も近くないと」
自炊のために部屋を借りるんだ。
寝るだけの部屋じゃ困る。
俺の希望をうんうんと頭を揺らして聞いてる。
「店も近くないと買い物が不便だよなぁ。短期だから配達は頼まないだろ?」
「そうだね。食材の専門店街の方の近くがいいね」
「あ、リエブレさん家の近くは?ミニウサギご夫婦の。あそこら辺の市場は良かったよ」
「あの辺ね」
知り合いもいた方が安心だとチィネェは納得した。
「台所はそんな感じで、他はどうする?」
「寝れればいいけど、でも狭いベッドは嫌」
足のはみ出たチィネェを想像して笑った。
寝返り打てないのだけは困るって。
「こういうのは風呂屋の近くがいいの?」
「あー、風呂も考えなきゃ。どうしよっか」
二人であれがいい、これがいいと騒いでいたら、笑ってたチィネェの視線がふと俺の後ろへ動いて顔を真顔になった。
「おはよ」
「……よお、チサキ」
「おはようございます」
落ち込んだドリアドスさんに頭を下げた。
「……よお、えと、……ラオ?……タオ?」
覚えてないんかい。
「ラオシンです。今日からよろしくお願いします」
「わりぃ、よろしく。ラオシンだったな。ラオでいいか?」
「はい」
「こいつをよろしく、ドリアドス。ラオシン、楽しみにしてて」
台所付きのいい部屋を探すと張り切ってる。
「楽しみなのはチィネェだろ」
「うん、楽しみ」
満面の笑み。
口でドリアドスさんに声をかけるだけでチィネェは俺の頭を撫でて機嫌よくロビーを出てった。
腹減ってるんだろうなぁ。
ぐーぐーと腹は鳴ってたし、朝飯も少し摘まんだだけで残してたから。
カウンターに盆を下げに行ったら、宿の料理人さんが食い残しを見て、チィネェは食にこだわりが強くて難しいって落ち込んでた。
ここで完食したことないらしい。
残されたドリアドスさんはチィネェの背中を見送ったあと俺へ困った顔を見せながら視線を合わせる。
「部屋借りるのか?」
「チィネェはそのつもりです」
「そうか。台所って、チサキが料理すんの?」
「いえ、俺がします」
チィネェは細かい作業は下手くそです。
鍋に手でちぎった野菜と肉の塊と塩を入れて煮込むだけ。
「お前が?上手いの?」
「普通です」
チィネェの嫌いなものを入れないだけ。
匂いや味が強いもの、舌触り。
料理はご近所さん達と好き嫌いの多いチィネェ向けのメニューを山ほど作った。
「チサキ、偏食がひどいもんな」
そう言って足が動き出したので俺も小走りで追いかけた。
歩幅が違うから大変。
「普段、仕事先でチィネェは何食べてるんですか?」
この間の護衛もどうしてたのか気になる。
「夜営は味付けなしで焼いた肉しか食わねぇ。あと持ってきた保存食」
部位の好き嫌いもあるから残す。
無駄に殺して肉を残すのが嫌でそれも食べないって。
うわぁ、ひどすぎ。
なんでも食べろよ。
「……もう少しなんでも食べれるようにさせないとなぁ」
前より色々食うと喜んでたけど外じゃだめか。
「お前はあいつの母ちゃんか」
「向こうが俺の母親ですよ」
「何?どういうことよ?」
「赤ん坊の頃から親代わりで俺の面倒見てます」
「へぇ、そう。シーダもか?」
「いえ、ダイネェはチィネェより子守りに向きませんでした」
チィネェより荒くてやんちゃなダイネェの子守りはご近所さん達が止めた。
死なせると思ったからって。
首が座ってないのに、高い高いで屋根より高く放り投げるとか風呂のつもりで冬の川につけたとか。
チィネェも焦ったって言ってた。
子守りが出来ないことに拗ねたけど親父と仕事に精を出して金を稼いでくれて、俺が小さいうちは遠出せずに二人とも毎日帰ってきてた。
5、6才になったらもとの気質が押さえられなくて二人揃って俺達に、ごめん!って言いながら遠征を増やして今はたまに帰ってくるくらい。
チィネェも。
でも俺をご近所さん達に預けて毎日、日が暮れる前には迎えに来てくれてた。
ほぼ俺の母ちゃんだ。
「へぇー。お前、完全にチサキの子供だな」
「そうですよ」
ずっと小走りで追いかけてるから汗かいてきた。
話しながらはキツイ。
「そっか、そっか。へへ」
少し前を歩くドリアドスさんはニヤニヤしてるっぽい。
キモ。
「兄ちゃんって呼んでいいぞ?ラオ、お前なら許す」
「遠慮します」
お前にならそう呼ばれたいと言い出した。
しつこいしキモいって。
「遠慮すんなって、可愛がるから」
振り返ってにんまり笑うけど気持ち悪いくらい鼻の下が伸びてて、一気にぞわっと背筋に寒気が走ったから足を止めた。
「……あんた、そういう趣味か」
「へ?」
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