鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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9,豪腕と反省

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いきなりドンッと大きな音に真っ二つになった大型のトレントが目の前に飛んで来た。

飛びかかりかけたコカトリスが下敷きだ。

「うおおっ」

すぐに死んでるのは分かったけどいきなりはビビる。

投げ込まれた方向から怒濤の勢いでチイネェとドリアドスさんが飛び込んで大剣とハンマーであっという間に追っ払ってくれた。

マジで二人ともモンスターより怖かった。

残ったのは三種のモンスターの死屍累々。

「ラオシン」

「え?何?うおぅ、」

終わるとチイネェが俺に怪我がないか手足を引っ張って確認してる。

無傷と分かると両肩をぽんぽんと叩いて満足した。

「帰ろっか」

「ちょい待ち」

帰ろうじゃねぇよ。

まだ三人の安否は確認してないって。

グラナラさんは狼に引きずられて怪我してた。

二人もそれなりに怪我してるはず。

そっちを向くとドリアドスさんが三人の側で手当てしながら話を聞いていた。

グラナラさんは助かった安堵と死にかけた恐怖でわんわん泣いてた。

近寄って俺も手当ての手伝いをする。

チイネェは周囲の警戒に辺りを見回りに行った。

怪我をしたことなくて手当てのやり方を知らないから。

思ったより男二人の怪我がひどい。

剣士は腕を噛み砕かれて骨折、タンクは毒で動けない。

朝からずっとモンスター狩りをやってたらしく、遅効性の毒を食らってたのに気づかないまま半日過ごしてたようだ。

多分、あっちこっちと狩りをしてそれぞれの巣穴をつつきすぎたんだとドリアドスさんがため息混じりで呟いた。

モンスターは好戦的だから、種や単体によっては縄張りを荒らすと殺すまで追いかけてくる。

あまり多くを狙わない方がいいし、するならコツがいるって聞いたことはあるけど、チイネェと二人行動の俺は指示に従うだけだ。

初めて見たことに驚いて、こんなに広くモンスターから狙われるのかとぞっとした。

死亡一択じゃん。

ドリアドスさんとチイネェが怪我人をそれぞれ担ぐことになった。

俺は一番小柄なグランガさん。

二人に比べて軽傷で済んだけど膝や頬がすりきれて血が出てる。

パニックが収まらない。

回復をかけてほしいけど、今は無理そうってことで、落ち着いてから頼むことにした。

背中でずっと泣いてて、もう大丈夫だよと優しく慰め続けた。

街に着くと少し騒ぎになった。

新人パーティーの大怪我は久々らしいし、有名ランカーの二人が居合わせて助けたってのも目立つ理由だった。

担架に三人を預けていたら、多少落ち着いたグラナラさんは涙を流しながら俺の手を握って感謝を繰り返した。

「ラオシンさん、ありがとうございます。助けてくれて」

「礼はドリアドスさんとチイネェに。俺じゃ最後までもたなかったから」

潤んだ眼差しに胸がつまる。

睫毛に涙が絡んでキラキラだ。

吃りながら二人のおかげだと言って手を引っ込めた。

エルフってマジできれい。

涙も宝石で出来てるんじゃねぇかって思った。

緊張した。

あとはチイネェとドリアドスさんの後ろをついて回る。

ギルドで場所と状況報告をして他のパーティーにあそこに残したモンスターの素材回収の依頼、回収後の売上の契約、助けたことの報償金や手続き。

ドリアドスさんのやり取りをチイネェは眺めて、同じでいいと答えた。

俺も参加したと二人が伝えてくれたおかげで、すぐに報償金の手続きをすることになったから俺も忙しい。

初めてということで口頭の説明は義務らしく、せっせと長い話を聞いて書類に名前を書く。

慣れたドリアドスさんとチイネェは書類を見て二、三質問を投げ掛けたらすぐに手続きを終えた。

「君、ラッキーだったね」

書いてる途中、優しげな職員さんに話しかけられて顔をあげた。

「助けに入って命があったこともだし、二人の証言で手続きが当日になったから。普通なら調査後だよ」

「腕がいいね」

その隣でにこやかに誉めるのは、昨日会った丸眼鏡の職員さん。

ギルド長だって。

二人が来るまで持ちこたえたことをすごいと言ってくれて嬉しくて顔がもにょもにょする。

それを隣で聞いていたチイネェは俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「そうだね。でも前に飛び出すのはだめ」

低い声で少し怒ってるのが分かった。

ついでに頭を鷲掴みにしてゆっくり圧がかかる。

痛くないけど反抗すればまた強制土下座の気配。

「……はい」

ぐうの音も出ません。

口答えする勇気はないし、二人が来なかったらヤバかった。

チイネェに頭を掴まれたまま隣のドリアドスさんにお礼を伝えたら睨まれて、またざらざらと鱗を鳴らしながら威嚇して怖い。

ビビってたらチイネェに肩を叩かれる。

「早く終わらせて」

「はい」

大人しく返事を返してチイネェは俺の肩に腕を乗せて待っていた。

たまに暇に耐えかねて頭を撫でて肩を肘掛け代わりにもたれてる。

「邪魔。鬱陶しいよ」

「早く終わらせて」

「はい」

必死だよ。

ドリアドスさんから鱗の波立つ音が聞こえるし目の前のギルド長達の視線は痛い。

今まで好きにさせてたけど、この街じゃからかわれる。

やめてほしい。
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