鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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6,新人とベテラン

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ケロスさんとガルーダさんが取りなすけど機嫌は治らない。

いつまでもネチネチ言うから段々チイネェの目付きが悪くなる。

「文句あるなら私らは抜けるよ。代わりにその子がいるし、人数は問題ない。私はキャンセル料を払えばいいし」

「え!わ、私?!」

グラナラさんが慌ててる。

「は?それはだめだろ」

「ああ、当日は迷惑だ。やめろ」

ケロスさんとガルーダさんも眉をひそめた。

「悪いね。背中を預ける気にならない」

「新人のエルフとお前じゃ釣り合わない。俺はこのメンバーと組むから了承したんだ。そういう勝手をするならギルドに報告するぞ、てめぇ」

ケロスさんがチイネェを睨みながら静かに吐き捨てる。

「文句ならドリアドスに言って。勝手に怒りだした」

目を細めて苛立ってるけど、キセルの先をドリアドスさんに向けてゆっとりと答えるチイネェ。

勝手に抜けるなと怒る三人と睨み合うからグラナラさんと俺がびくびく。

「チ、チイネェ、俺が抜ける。仕事の反故はだめだ」

信用にかかわる。

「ああ、もとはこの坊主が予定にないんだ。抜けさせろ」

ケロスさんの言葉にそうしてくれと俺からも頼んだ。

チイネェが眉をひそめて俺を睨み、ため息をつく。

「家まで送る」

じゃなきゃ嫌と答えた。

そんな暇あるかよとガルーダさんが怒鳴ってて、俺もそれは同意した。

「昨日の宿で待っとくよ」

「じゃあ、宿に送る」

「ガキじゃないんだ。ひとりで大丈夫だよ」

「ガキだよ」

キセルを吹かせながら目の前に立つといきなり頭を掴んで乱暴に土下座の勢いで地面に潰された。

横から聞こえた小さな女の子らしい悲鳴は多分、グラナラさん。

他の三人も驚いて小さく声をあげてた。

「うぐおっ」

顎を地面にぶつけていてぇ。

「この辺りは私くらいのがうようよしてんだから偉そうにしないの。分かった?」

八つ当たりだぁ、これ。

すぐに追い付くとガルーダさん達に言うと痛くてじっとする俺を脇に抱えて宿へ運ばれた。

昨日と違う宿に連れていかれ、ウサギの獣人夫婦の宿に預けられた。

宿というより小型種族向けの小さな普通の家。

短期の間借り。

「こいつを一人でチョロチョロさせないで。ご飯もよろしく」

過保護すぎん?

前払いで金を置いて仕事に行ってしまった。

「怪我してるわねぇ」

赤く腫れた顎を下から覗かれる。

ウサギ顔だ。

俺より小さいこの夫婦はミニラビットの種族らしい。

「姉に叱られました」

強制土下座。

「あら、姉妹なの?チサキに妹さんがいたのね」

「俺、弟です」

性別さえ間違えられるのかよ。

種族が違うと性差が分かりづらいのは知ってるけど。

あらそう、とウサギの奥さんは間違えたことを気にすることなくピクピクとピンクの鼻を動かして微笑む。

大人しく3日待った。

ただ待つだけも暇だから家の修理をしたり、料理を習ったり。

一回だけ商店街へ買い出しに付き添わせてもらったり色々して過ごした。

辛いのが菜食主義のウサギらしくご飯は全て緑。

肉が食べたい。

「ラオ君、お迎えだよ」

「あ、ども」

夕方、庭で柵の修理をしていたらウサギの旦那さんから呼ばれた。

「おかえ、り」

「ただいま」

チイネェは分かるけど、見覚えのある後ろのでかいドラゴニュートは何?

何でドリアドスさんもいんの?

思わず声がつまっちまった。

「お仕事お疲れ様です」

挨拶するのに不機嫌そうに俺を睨む。

まだ気に食わないらしい。

チイネェとウサギの奥さんは玄関先の丸太に座っておしゃべりしてる。

部屋は狭いからチイネェもドリアドスさんも入らない。

俺でギリギリだもん。

「帰るよ」

「うん」

俺が柵の修理が終わるまで待っててくれた。

チイネェと連れだって行こうとしたらドリアドスさんもついてくる。

「……チイネェ、あの人なんでついてくるの?」

「放ってていいよ。私があんたと組むのが気に食わないんだ」

「なんで?」

「ドラゴニュートは強い奴と組みたがる」

ドリアドスさんはチイネェと専属で組みたいのか?

でも鬼人もドラゴニュートも依頼がない限りソロ専門。

俺とチイネェのバランスが悪くて気に食わないってことか?

「ギルドに寄ろうよ。明日、狩り場行くから」

「疲れてるだろ?」

「護衛が暇だった」

暇人だった俺に気ぃ使ってる。

チイネェの防具には吹き拭き残しの血がついてる。

それなりに戦闘はあっただろうに。

まだ閉まる前だから間に合うと二の腕を引っ張られてギルド内の掲示板に来た。

「この辺、うちの地区と違うね。モンスターの素材依頼が多いし」

農業の盛んなうちの地区は畑を荒らすモンスターの退治依頼が多い。

ここは工業系だから素材依頼の方が多い。

「私には向かない」

そう言われて背中のハンマーに目が向いた。

「他の得物を使えば?」

剣も斧も得意じゃん。

「どうせ潰すよ」

力業で叩き潰すくせは分かる。

「チサキさん、どうも」

ギルド職員の腕章つけた丸眼鏡の年配にチイネェは声をかけられて二人でお辞儀をした。

「珍しいですね、お連れがいるのは。……もしかして新人教育ですか?」

いかにも新人臭のする俺を見てそう尋ねる。

少し考えてチイネェは頷いた。

「そんな感じ、です」

その答えに珍しいと目を見開いていくつか新人の弓使い向けの案件を指さして教えてくれた。

今日の受付は終わってるし、また明日来ると言って、掲示板を見るだけであとは宿へ向かった。

三日前の宿で同じように同室。

カウンターで手続きをしてたら着いてきてたドリアドスさんがなんでって叫んでる。

「……なんでここまで一緒に来るんですか?」

そっちの方がおかしいだろうが。

チイネェに無言で手を払われたから先に部屋に行った。

暇潰しに武具の手入れをして待ってると帰ってきた。

「お帰り」

「ただいま」

飯に行こうと言われてついていく。

行った先の店でグランガさんとばったり会った。

パーティーのメンバーと三人で飯らしい。
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