鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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2,庶民の湯あみ

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たらいの水に熱湯を混ぜてやるとその中へチイネェが入ってうつ伏せにくつろいだ。

すぐに黙ってたらいの縁に頭を下げるからワシワシと石鹸を泡立てて洗ってやる。

湯を注いでもういいよと言うとありがとうと言ったら空の桶を持ってさっさと上がる。

びしゃびしゃで部屋を彷徨くなと何度も言ってるのに全く聞かねぇ。

モップで足取りを拭いて片付けたら、チイネェは短パンと胸元を短く覆う肌着だけの格好でリビングの椅子に腰かけて、袋からキセルを出してるところだった。

楽しそうにうっすら笑みを浮かべてキセルにタバコを詰め始めた。

「寝なよ」

「一服したら寝る」

火起こしの粉を人差し指に塗ってパチンと指を弾いてタバコに火を着けると、すぅっと深く飲み込み口から煙をもわもわ出して遊んでる。

ぽん、ぽんと舌を鳴らして煙の輪っかをひとつ、ふたつと作る。

俺はその間にチイネェの後ろに立って手拭いで水の滴る髪を包む。

丁寧に拭って水気をとって櫛を通した。

「ラオシン、そろそろ切りたい」

このくらい、と首の辺りを指でトントンと叩く。

「だめ」

「めんどーい」

「俺が洗ってやってるのに」

やっと女らしいの長さになったのに切るとか冗談やめてよ。

それでも腰まで届いてなくて普通より短い。

あのボーズ頭の短髪から半年以上かかったっつーのに。

手入れなんかしないチイネェに代わって、たてがみみたいに膨らんで絡みまくってた赤と黒の混じる髪をここまでストンと落ちるようにしたのに。

世話のひとつもしないから愛着ねぇな。

がっかりしていると、じゃぁいいやと軽く言ってまたキセルを吹かしながらまったりしてる。

「ねぇ、今度の護衛ついてくる?」

「いいの?」

「いいよ。後方に一人ほしいし」

今度のパーティーは前衛ばかりで困っているらしい。

二人でのモンスター討伐はあるけどパーティーの参加は初めてだ。

緊張する。

「俺が増えて取り分は困らない?」

「私の都合で呼ぶから私と折半ね」

「半々は多すぎ。働いた分だけでいいよ」

「別にいいよ。姉弟だし。うちのお金ってことで」

「ならチイネェの総取りでいいよ」

「えー?やるっつってんのに」

「いいじゃん、別に。家族の稼ぎってことだろ?」

「はいはい。でも上手く働いたら交渉するよ。ケチな奴らじゃないから」

「了解」

本当は俺を連れていくのは好きじゃない。

鬼人族に比べれば体力は雑魚だし、人族の男としても小柄な非力。

でもチイネェの過保護に反発して小さい頃から繰り返し練習した弓だけはかなり上達した。

おかげで気が向けば単体の討伐には誘われるようになったし、モンスター狩りは二人でよく行く。

今はパーティーにも参加していいくらいに認められたのは本当に嬉しい。

「詳細はそこの中」

指をさしたのはモンスター狩りに持ち歩く手荷物。

「了解」

櫛を通し終えて最後に水気を念入りに絞る。

「おやすみ。あんたも寝とき」

「あ、うん。おやすみ」

終わった気配を察してすぐに、カンッとキセルを灰皿に叩いて袋に仕舞うと寝室へ向かった。

残った俺はチイネェの荷物から詳細の乗った依頼書を引っ張り出して目を通す。

日付と道程、内容を確認したらもとに戻した。

出立は明後日。

往復で三日。 

でも少し離れた地区だから明日の昼には出る。

弓の手入れと食料の準備は明日の朝でいい。

いつでもいいように普段からやってるから。

俺ももうひとつの寝室へ行ってすぐに寝た。
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