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36、抱っこ

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食後はランディック夫人からラウンジへ招かれました。

こちらのお屋敷には馬に関する装飾が所狭しと飾ってあります。

もしかしたらと思ってましたが、やはりここでも馬の話題でした。

ランディック辺境伯ご夫妻もご兄弟に負けないほどのなかなかの馬好きです。

今日の晩餐の目的はこれじゃないかしらと思いました。

そしてご兄弟はもうメンタルが回復して馬談義に興奮状態です。

バン様があの時、エスコートをやめて馬車に向かったのはランディック夫人とキース様に馬の事を伝える為だったとか。

馬車へ同乗されたのは、お二人が勝手になさったことですけど、三人の心づもりとして最初からお屋敷へ招くつもりだったと伺いました。

ランディック夫人の愛馬のお話の途中、バン様に、馬の話は飽きたんじゃなかったのかとからかわれ、確かに馬車の中では飽きましたと答えました。

馬を一頭、育てたと申しましても、馬番の世話を手伝っただけなので、大して知識はありません。

二人の知識が深すぎるので、馬車の中のように産地や種類、掛け合わせについてどう思うかと聞かれてても難しいです。

そう説明しますと、それは悪かった、次から言えと仰いました。

「私が黙っていたら分かりませんよね、申し訳ありません。」

教えてもらうのは嬉しいと伝えれば、お二人は楽しそうにあれこれ話してくれました。

それでもお二人の話は難しくて、その度にご夫妻が分かりやすく説明してくださいます。


夜も深まり、無作法にも私はうつらうつらと船を漕いでしまい、皆さんに気遣われました。

「申し訳ありません。」

「疲れていたのに私たちに付き合わせてしまったわね。もうお部屋でお休みなさい。」

「はい。」

まっすぐ背筋を伸ばしているつもりでしたが、視界が揺れるのでフラフラしてると自分で分かります。

知られないように自力で踏ん張って立ち上がると、視界が一層揺れて大きくよろけてしまいました。

床に座り込んでしまうところを、いつの間にか近くに立っていたバン様ががっしりと腕をつかみ支えています。

「も、申し訳ありません。」

恥ずかしくて顔を手で覆いました。

これで目が覚めれば良いのに、まだ眠くて体がフラフラするのです。

バン様が運んでやると仰いましたが、私はお父様の言い付けでダメですと伝えてヨルンガにお願いしました。

「よいよい、私が運ぼう。」

断るより早く、ランディック辺境伯がひょいっと横抱きに抱えて、娘がいたらこういうものだったのかなと嬉しそうな呟きが聞こえました。

私は重い目蓋に抗えず、そのまま眠ってしまいました。

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