うちの妻は可愛い~白豚と戦乙女~

うめまつ

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第五章:王都

5※マックス

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今日は王宮主催のパーティーだ。

ジネウラ様は忙しいのにとぷりぷりしながら支度をされる。

部屋を追い出された旦那様と廊下でお話しする。

「旦那様、今日もやりすぎのようですね。」

「そのようだ。」

そう言いつつ、喜色満面の笑みだ。

「でもジネウラの支度は俺も手伝いたい。」

困った顔にちょっと手伝いたい気持ちになる。

「うまくいくか分かりませんが。ちょっとそこにしゃがんでください。…頭を下げて、そうそう。ちょっとお待ちください。」

扉を叩いてメイドが隙間を開ける。

「ジネウラ様、廊下で旦那様が落ち込んでらっしゃいますよ。」

メイドも旦那様を見つけ驚いて中に戻る。

しばらくすると、ガウンを羽織ったジネウラ様が扉に顔を出して、しゃがむ旦那様に目を見開く。

「だ、旦那様。私、怒ってません。落ち込まないで。入っていいから。」

隙間から手を出して袖を引く

「困って拗ねただけです。もう側にいて。」

「いていいのか?」

旦那様が顔をあげて見つめると、困った顔でこくこくと頷く。

「支度、見てていいから。そんなに見たかったんですか。」

「ありがとう。ジニー。可愛いジニーが綺麗になるのを見るのが好きなんだ。」

「も、もう入って。ジジ。」

入る際、俺に手を振ってにぎにぎと手の動きを見せる。

とりあえず感謝されたのだろう。

あとは旦那様が口を滑らせなければいい。

ついでに俺まで叱られる。

いや、そうでもないか。

仲直りのきっかけだ。

またベッドに連れ込まない限りは。

姉もいるし。

大丈夫なはず。

時間がたつと心配になり様子を見に行く。

部屋の中でメイド達と旦那様の喜ぶ話し声が聞こえた。

全員で可愛い、綺麗だとはしゃいでる。

仲良さそうでよかった。

俺達も支度がある。

着替えて3人でお互いの姿を確認する。

ビスはムスタファの民族衣装の色違いを着ている。

大きな袖とゆったりと流れる裾だ。

足元の裾をひっくり返す。

「すけべ。ムスタファ、助けて。」

ムスタファも察して手伝って覗きに来る。

「これ外せ。」

太ももやふくらはぎにベルトで巻いた暗器をどんどんほどく。

「ビス、暗器の持ち込みはやめてください。」

袖をひっくり返して体を触ってひとつずつ取り上げる。

「せっかく着たのに崩れる。やめてよ。」

「直してやる。安心しろ。」

「ズボンを腰ひもで止めて、あとは上から羽織るか被るタイプじゃないですか。動きやすくて戦闘向きな感じですね、て、…この人、服にも仕込んでますよ。ムスタファ、細かく見てください。」

「めんどくせぇなぁ。」
 
縦のラインに仕込んである針や縫い目の隙間の金物類を見つける。

「これなら。」

指輪を見せて仕込みの刃が飛び出す。

「やめとけ。見つかると面倒だ。すべて置いていけ。どうせお前の体が凶器だ。」
  
大人しくビスも外し始めた。

テーブルにガチャンガチャンと見つけた金物を置く。

「ムスタファもマックスも同じだよ。全身凶器じゃん。」

「軍や正規兵仕込みと違う。お前の体術はかなり曲者だ。初見で勝てる奴はいねーよ。」

「分からないでしょ。暗器がないと不安。」

「なくてもその辺のもの使うんだろ。」

「まあね。この、髪の飾り紐から何もかも。でも、愛用品とは違うよ。」

「戦いに行くんじゃないんですからいりませんよ。」

「戦いでしょ。」

「女のだな。刃物は役に立たんぞ。口だ。」

「怖いなぁ。どうやって守るんだよ。」

肩をすくめる。

確かに恐ろしい。

目に見えない、慣れない攻撃が出てくるのだ。

拳や武器の方が分かりやすい。

「ジネウラ様が仰ったろ。男には不利だって。とにかく女の愛でられ勝負だ。旦那様だけじゃないところをしっかりアピールするぞ。」

「大旦那様も会場で待ってらっしゃいます。事情は伝えてるのでご存じです。会場で来賓の対応が忙しくあまりご一緒出来ないそうですが、顔を出すそうです。リトグリ公爵家1番の宝物を見せびらかしてやりましょう。」

これでもかと溺愛してやると皆が意気込んでいる。

屋敷のメイド達に可愛がられまくって輝くジネウラ様は旦那様と姉をつれて馬車に。

俺達は馬に乗って王宮へ向かう。

「ジネウラ様が綺麗だったね。」

「ムスタファ以外にもそう思うんですか。」

ムスタファがビスのツボなのではないのか。

「ジネウラ様はムスタファと似てるよ。生きるエネルギーが濃い。それがすごく濃厚で綺麗。」

よくわからない。

ビスには何が見えているんだ。

「それ、分かる人いるんですか?」

「旦那様は納得していたよ。」

「…分かるのか。似てるからか。」

「ムスタファも分からないですよね。俺もです。」

会場前では大旦那様が待っていた。

「お父様、お仕事を抜けてらしたのね。ご心配おかけします。」

「ジニー、ジネウラ。私の娘。愛する妻の形見。」

手を握り、こめかみにキスをされた。

「リトグリ公爵、申し訳ありません。あの場で私は役立たずでした。」

「お父様、旦那様は、」

「よい。お前の大事な婿殿だ。父親の私は悲しませてばかりだった。」

領地での相思相愛ぶりは大旦那様の耳に入っている。

今回の王都の屋敷もわざわざ二人で過ごすようにと他の屋敷へ移られた。

二人の時間を奪いたくないと。

大旦那様と大奥様のご夫婦として過ごしたお時間は、2年ほどだったと聞く。

今も大奥様の絵が大旦那様の寝室に飾られてるそうだ。

「二人仲良く。時間は足らないからな。」

「もっとお母様と過ごしたかった?」

「もちろん。最後はお前を託された。私は幸せ者だよ。ジネウラ、婿殿と幸せにおなり。」

「私はお父様にも愛されてますのね。」

「そうだよ。可愛い娘。今日は一段と輝いてる。キスをさせておくれ。」

ジネウラ様が顔を寄せると額、頬に。

お返しにジネウラ様も頬に返した。
 
「お父様、大好き。私、子供で何も分かってなかった。」

「私が不出来な父親だからだよ。さあ、婿殿のもとへ。」

大旦那様は旦那様へ、愛娘を託す。

紹介の声とともに入場し、お二人は会場の視線を一身に浴びる。

リトグリ公爵家の宝物。

お二人のお姿は会場に波紋を広げ徐々に静けさを増す。

遠くからも集まる視線の熱が太く大きくなる。

大旦那様も私達もその引き立て役。

お二人の後ろに付き従い、ムスタファもビスも悠々と尊大に見えそうな優雅さで振る舞う。

俺達の心には我らがお仕えする公爵家の対の宝物への思いが溢れてる。

入場の階段を降りて、お二人のまわりには周囲がおののくように下がり自然と頭を垂れる者までいる。

音楽は鳴り響き、喧騒の静まった会場では息の飲む音まで聞こえてくる。

旦那様にエスコートされ中央を遮るもののいない道が開き、奥へと進む。

背後から聞こえる次の来賓の入場で少しずつ場の空気が戻り始めた。

「掴みは良さそうだが。」

「旦那様の変身も一役買ってますね。」

「ああ、そうだな。」 

ムスタファと小声で会話をする。

俺達は別邸にいたので本邸で過ごしていた当初の旦那様を詳しく知らない。

遠目からも分かる白く背が高く太ましかった印象しかない。

大男に見慣れた俺でもあの外見に驚いた。

1度、ジネウラ様に初見で驚かなかったかと尋ねたら、大きいくせに背中や肩を丸めて小さくなろうとするのが可愛いかったそうだ。

最終的に外見よりも気遣いが出来たから良しと思ったらしい。

ジネウラ様の回りにいないタイプが新鮮だったのだろう。

若いのは筋肉だるまの俺様ばかりだから。

それに、大人しい様子は先代に似てる。

ババ様にわーわー言われても、いつも笑顔で穏やかにわかったと答える人柄だった。

俺も姉やジネウラ様の前では大人しいが、ネズミに会えば多少は本性を出す。

本性は尊大なタイプだ。

まさか、旦那様があそこまで豹変するタイプとは思わなかったが。

大人しい大きいだけの牛か羊に見えたのに、あれはヒグマか虎だ。

並外れた回復力、大食らいで性欲まで強い。

王家の血筋だ。

詳しく王家の歴史を調べてみたら、祖先のエピソードと合致する。

戦いの神とされる王家の祖。

歴戦の戦いで一夜にして矢傷が治っただの毒が効かなかったとか、武勇を武器に領土を広げただの子沢山だとか。

代々、そういう者が歴史にあらわれる。

そういう家系なのだろう。

ジネウラ様も、子沢山の恩恵で特異体質のお子様に溢れるかもと思うとあの二人の融合だ。

どんな子供が産まれるやら。

絶対、女性だけの手に終えない。

俺達に子守りが回ってくる。

それも楽しみだ。
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