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第四章:おまけ
1※ジョルジェ
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「お前達、強いんだな。」
驚く俺に皆が笑う。
「領内を回るのに危険が伴いますから。」
マックスが穏やかに答えた。
ジネウラ直属の医療班。
五人の医者達。
若い順にマックス、ビス、ムスタファ、ドル、パウルス。
ドルとパウルスは50を越える年齢だ。
二人は護衛を兼ねて侍従を連れているが、筋肉で膨らんだ体をしてる。
敷地の原っぱで腕ならしと、マックスとムスタファがドル達の侍従相手に拳闘していた。
もと軍医とはいえ、軍人として働いていたムスタファ。
それとは別として、マックスもなかなかいい動きをしている。
「マックスも強いな。」
「はい、かなりの腕前ですが、マックスは不意討ちに弱くてあまり外には出せません。急に襲われたらあっという間にやられます。」
別邸の留守番が多いそうだ。
「その点、ムスタファとビスは警戒心が強く容赦ないから大概は撃退できますので、秘境や山奥の農村を回ってくれます。」
「ビスがか。」
ひょろっとした優男だか、あの仕置きのやり方を見れば納得する。
「ドルとパウルスも、腕に覚えがあるのだろう?」
「ですが、もう歳なので。あまり街道から外れての行動はできません。昔は先代のお供をして野盗を蹴散らしながら領内の至るところを周回をしておりました。」
小柄な老人のパウルスが懐かしそうに話す。
昔を知らないが、今でも筋肉だるまだ。
現役で蹴散らしていそうだがな。
どすっと鈍い音がしたので後ろを振り返ると、ジネウラの放った矢が的に当たったところだった。
2本目の矢をつがえ、ギリギリと弦を引き狙いを定めて当てる。
もともとここに来たのはジネウラの希望だ。
何をするのかと思ったら弓矢の練習で驚いた。
「ネバの教育の賜物ですね。素晴らしい。」
パウルスが拍手を送って誉める。
「…あれも習ったのか。ネバは一体どういう人物なんだ。」
俺も感心し、パウルスに倣って手を叩く。
「先代が女の身で危険だから来るなと申しても聞かなくて、男の格好をして弓とダガー片手に参加しておりました。」
「ネバの話だけで夜が明けそうだ。」
ドルの言葉に呟く。
「足らんでしょ。まあ、ネバがついてきたおかげで病気や怪我を言い出せない女性達の手当てを出来ました。女性特有の病気の研究も進みましたし、彼女の功績ですね。」
ドルが話す間に、どすっと3本目の矢が的の俵に刺さった。
「ネバはジネウラの尊敬する師なのかな。」
「そうですね。私どもにとっても尊敬する同志です。」
「俺も彼女には恩がある。」
ジネウラを待ってる間にドルに剣を習う。
昔習った程度で成人してからは離れていた。
体力もつくし、健康的になればジネウラが喜ぶ。
素振りに専念し、ドルとパウルスも暇になると二人で剣を振り回して戦っていた。
「すごいなぁ。」
年を取った筋肉だるま同士の戦いだ。
隣ではムスタファとマックス。
こちらも若い筋肉だるま同士のかぶりつきだ。
「すごいですよねぇ。」
ニコニコとビスが話しかけてきた。
「お前だってあの連中に認められた腕なんだろう?」
「私の獲物は道具が専門ですから。肉弾戦は苦手です。」
手に持つのは鞭と長い針だ。
「鞭は遠距離、こちらは急所にぷすっとですね。いかがですか?旦那様にもお教えいたしましょうか?」
怯んだがせっかくなので学んだ。
人体の急所を教えられ、ジネウラに狙われたことを思い出す。
「鞭だと森や林の狭い場所でどうするだ?」
「そんな狭いところでは使いませんよ。私は身軽なのでだいたい上に逃げます。それから一人ずつやります。ほら、身長もあって手も長いから登りやすい。」
腕を広げ、その体格にあった長い手足を見せた。
「あと、これですね。」
ローブの袖から棒をとりだしひと振りすると、かちかちと音を立てながら、細長い両刃が飛び出した。
「大概、これらで対処してます。」
「色々仕込んでるんだな。ムスタファもだが、侍従を雇わないのか?」
「…人質に取られたら手間ですので。」
「置いて逃げるわけにもいかんしな。」
その一言に無言でにっこり笑って、こいつは置いていく気だと察した。
「逃げられるなら充分です。捕まえるのが仕事ではないですから。」
「そうだな。…ジネウラにも教えてるのか?」
「聞かれれば答えます。反対されますか?」
「いや、そのおかげで助かっただろうし。習うのはいいが、荒事に巻き込まれないように気を配りたい。」
多少、俺も強くなるべきだろう。
ネバに妻の肉壁になれと言われたんだ。
悪漢二人にやられてジネウラを押さえ込まれたのを思い出して守れるくらいになりたいと思う。
「強くなるならご自分の性格や体格に合う術を身に付けられるのがよろしいですね。旦那様は大柄な体格なので、いずれマックス達のように立ち回れますよ。」
「そうか、目標になる。では、まずは筋肉をつけなければな。」
「ええ、ぜひ。」
体力作りに熱心な理由はもうひとつ。
ジネウラとやりたい体位があるんだ。
入れたまま持ち上げたい。
野望に燃える。
「マックス!旦那様の打ち合いの相手を。」
「あ、はい。」
ちょうど二人の休憩だったようでしゃがんでたマックスが走ってくる。
「マックスは公爵家の正規兵士から訓練を受けているので旦那様が学んでいた剣筋と似ています。打ち合いやすいと思いますよ。私は暗噐が専門ですし、ムスタファも剣より素手です。」
「なるほど。」
「よろしくお願いいたします。旦那様。」
俺達が打ち合いをしている横でムスタファとビスが2、3言葉を交わしていた。
ムスタファの嫌そうな顔が見えた。
「あの二人、仲はどう、なんだ?」
「ああ、悪いですよ。ムスタファがビスを嫌ってます。ビスは気に入って構ってますけど。」
俺が息を上がらせて振り回す剣を受け流し、涼しげに答える。
「へえ。ムスタファにも、苦手がある、のか。はあ、はあ。」
逆の方が納得するけど。
「悪いといってもお互いの家を行き来するくらいはあるようですよ。ビスが振り回してる感じで。」
「ふうん、はあ、そうか。ふう。」
その日は気持ちよく汗をかいて、夜がおとなしくなったかと思ったがいつもと変わらなかった。
体がきついと泣いたジネウラからしこたま叱られた。
驚く俺に皆が笑う。
「領内を回るのに危険が伴いますから。」
マックスが穏やかに答えた。
ジネウラ直属の医療班。
五人の医者達。
若い順にマックス、ビス、ムスタファ、ドル、パウルス。
ドルとパウルスは50を越える年齢だ。
二人は護衛を兼ねて侍従を連れているが、筋肉で膨らんだ体をしてる。
敷地の原っぱで腕ならしと、マックスとムスタファがドル達の侍従相手に拳闘していた。
もと軍医とはいえ、軍人として働いていたムスタファ。
それとは別として、マックスもなかなかいい動きをしている。
「マックスも強いな。」
「はい、かなりの腕前ですが、マックスは不意討ちに弱くてあまり外には出せません。急に襲われたらあっという間にやられます。」
別邸の留守番が多いそうだ。
「その点、ムスタファとビスは警戒心が強く容赦ないから大概は撃退できますので、秘境や山奥の農村を回ってくれます。」
「ビスがか。」
ひょろっとした優男だか、あの仕置きのやり方を見れば納得する。
「ドルとパウルスも、腕に覚えがあるのだろう?」
「ですが、もう歳なので。あまり街道から外れての行動はできません。昔は先代のお供をして野盗を蹴散らしながら領内の至るところを周回をしておりました。」
小柄な老人のパウルスが懐かしそうに話す。
昔を知らないが、今でも筋肉だるまだ。
現役で蹴散らしていそうだがな。
どすっと鈍い音がしたので後ろを振り返ると、ジネウラの放った矢が的に当たったところだった。
2本目の矢をつがえ、ギリギリと弦を引き狙いを定めて当てる。
もともとここに来たのはジネウラの希望だ。
何をするのかと思ったら弓矢の練習で驚いた。
「ネバの教育の賜物ですね。素晴らしい。」
パウルスが拍手を送って誉める。
「…あれも習ったのか。ネバは一体どういう人物なんだ。」
俺も感心し、パウルスに倣って手を叩く。
「先代が女の身で危険だから来るなと申しても聞かなくて、男の格好をして弓とダガー片手に参加しておりました。」
「ネバの話だけで夜が明けそうだ。」
ドルの言葉に呟く。
「足らんでしょ。まあ、ネバがついてきたおかげで病気や怪我を言い出せない女性達の手当てを出来ました。女性特有の病気の研究も進みましたし、彼女の功績ですね。」
ドルが話す間に、どすっと3本目の矢が的の俵に刺さった。
「ネバはジネウラの尊敬する師なのかな。」
「そうですね。私どもにとっても尊敬する同志です。」
「俺も彼女には恩がある。」
ジネウラを待ってる間にドルに剣を習う。
昔習った程度で成人してからは離れていた。
体力もつくし、健康的になればジネウラが喜ぶ。
素振りに専念し、ドルとパウルスも暇になると二人で剣を振り回して戦っていた。
「すごいなぁ。」
年を取った筋肉だるま同士の戦いだ。
隣ではムスタファとマックス。
こちらも若い筋肉だるま同士のかぶりつきだ。
「すごいですよねぇ。」
ニコニコとビスが話しかけてきた。
「お前だってあの連中に認められた腕なんだろう?」
「私の獲物は道具が専門ですから。肉弾戦は苦手です。」
手に持つのは鞭と長い針だ。
「鞭は遠距離、こちらは急所にぷすっとですね。いかがですか?旦那様にもお教えいたしましょうか?」
怯んだがせっかくなので学んだ。
人体の急所を教えられ、ジネウラに狙われたことを思い出す。
「鞭だと森や林の狭い場所でどうするだ?」
「そんな狭いところでは使いませんよ。私は身軽なのでだいたい上に逃げます。それから一人ずつやります。ほら、身長もあって手も長いから登りやすい。」
腕を広げ、その体格にあった長い手足を見せた。
「あと、これですね。」
ローブの袖から棒をとりだしひと振りすると、かちかちと音を立てながら、細長い両刃が飛び出した。
「大概、これらで対処してます。」
「色々仕込んでるんだな。ムスタファもだが、侍従を雇わないのか?」
「…人質に取られたら手間ですので。」
「置いて逃げるわけにもいかんしな。」
その一言に無言でにっこり笑って、こいつは置いていく気だと察した。
「逃げられるなら充分です。捕まえるのが仕事ではないですから。」
「そうだな。…ジネウラにも教えてるのか?」
「聞かれれば答えます。反対されますか?」
「いや、そのおかげで助かっただろうし。習うのはいいが、荒事に巻き込まれないように気を配りたい。」
多少、俺も強くなるべきだろう。
ネバに妻の肉壁になれと言われたんだ。
悪漢二人にやられてジネウラを押さえ込まれたのを思い出して守れるくらいになりたいと思う。
「強くなるならご自分の性格や体格に合う術を身に付けられるのがよろしいですね。旦那様は大柄な体格なので、いずれマックス達のように立ち回れますよ。」
「そうか、目標になる。では、まずは筋肉をつけなければな。」
「ええ、ぜひ。」
体力作りに熱心な理由はもうひとつ。
ジネウラとやりたい体位があるんだ。
入れたまま持ち上げたい。
野望に燃える。
「マックス!旦那様の打ち合いの相手を。」
「あ、はい。」
ちょうど二人の休憩だったようでしゃがんでたマックスが走ってくる。
「マックスは公爵家の正規兵士から訓練を受けているので旦那様が学んでいた剣筋と似ています。打ち合いやすいと思いますよ。私は暗噐が専門ですし、ムスタファも剣より素手です。」
「なるほど。」
「よろしくお願いいたします。旦那様。」
俺達が打ち合いをしている横でムスタファとビスが2、3言葉を交わしていた。
ムスタファの嫌そうな顔が見えた。
「あの二人、仲はどう、なんだ?」
「ああ、悪いですよ。ムスタファがビスを嫌ってます。ビスは気に入って構ってますけど。」
俺が息を上がらせて振り回す剣を受け流し、涼しげに答える。
「へえ。ムスタファにも、苦手がある、のか。はあ、はあ。」
逆の方が納得するけど。
「悪いといってもお互いの家を行き来するくらいはあるようですよ。ビスが振り回してる感じで。」
「ふうん、はあ、そうか。ふう。」
その日は気持ちよく汗をかいて、夜がおとなしくなったかと思ったがいつもと変わらなかった。
体がきついと泣いたジネウラからしこたま叱られた。
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