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第三章

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ジネウラのベッドの横に顔が隠れるようについたてを立ててる。

同じ部屋のテーブルでマックスが薬の支度をし、その隣で俺はドルが届けた手紙の束を整理した。

本当はリザリーが来てくれると助かったが。

屋敷の采配を任すならリザリーが信用できた。

手紙の一つに、リトグリ公爵の事故を知らせる手紙も混ざっていた。

「マックス、誰かリトグリ公爵に知らせたか?」

「姉が本邸から連絡を出した頃と思います。」

「だよなぁ。まだ公爵には届いてない頃だよなぁ。」

怪訝な顔のマックスに手紙を渡す。

「誰か勝手に知らせたようだ。」

捜索の邪魔になると思い連絡を遅らせた。

なのに手紙には、誘拐の状況を知ってこちらへ来る途中、事故で足止めされていると書かれていた。

「事故はジネウラが拐われた次の日だ。」

「…今度は、誰の企みでしょうか。」

げんなりするマックスに共感する。

「得する者だろう。」

誰が得するか。

「関係がありそうな奴に聞いてみるか。マックス、ここを頼む。」

ジネウラを頼んで里への坂道を降りる。

ムスタファの休む民家に入ると次の食事の支度をしていた。

「うまそう。」

「味見をされますか?」

「ん。」

混ぜていたヘラに乗せた具を直接、指で摘まんで食べた。

「ん?薄め?」

「これをもっと煮詰めて溶かしたらちょうど良くなります。ジネウラ様の食事です。そらそろ目を覚ます頃でしょうし。」

「なるほど。」

「何かご用だったのでは?」

「ああ、尋問したい。出来そうか?静かなところをみると寝てるかな。」

「起こせばいいんですよ。」

ムスタファが水瓶からざばっと洗面器に水を汲んで、隣の部屋にいく。

椅子に座る男の頭に叩きつけるようにかける。

「起きろ。」

「う、う。」

「自分で作った椅子の座り心地はどうだ?」

ムスタファの質問に白髪が多めに混じる頭がゆっくり上がる。

家にあった背もたれと足に拘束具のついたトイレ。

有効利用ということで家令に使ってる。

簡単に応急手当を施した後、背もたれにくくりつけ、足は折れてるから向かいに椅子を置いて伸ばしてる。

「…最高、ですね。…は、は。…あうっ!」

パンと頬を手で弾いて、濡れた手を手拭いで拭く。

「機嫌が良さそうで何より。では旦那様、私は隣にいます。ごゆっくり。」

鍋が焦げてしまうといそいそと隣へ行った。

見送りながら、マックスより適任だったなと心で呟く。

もう一つの椅子に腰掛け、ざんばらに垂れた前髪の隙間からこちらを窺う目を見つめ返す。

「…お嬢様は、無事でしょうか?」

しばしの沈黙のあと、そう尋ねてきた。

「ムスタファから聞かなかったか?」

「…聞けば平手が来ますので。」

「そうか。ムスタファらしい。ジネウラのことを知りたいか?」

軽く笑って尋ねると、

「…何をお話ししたらいいですか?」

「物わかりがいい奴は好きだよ。」

メイド長の時のように手間がかからなくて良かった。

嘘がないか確認のために知らないふりをしていくつか質問する。

もう諦めているのか素直に話をする。

こちらで調べたことの裏付けが出来た。

「最後にリトグリ公爵の事故については?」

「事故、ですか?」

先程まで痛みで止まることはあっても淀みなく話していたのに、初めて聞き返す。

肯定として身を乗り出して続きを促す。

「…私に関わりはありませんが、心当たりはあります。教えたら痛み止をくれませんか?」

頷くと、少し口許が緩む。

「おそらくですが、メイド長の仕業かと。」

「なぜだ?」

「…図々しいお願いとは思いますが、先に痛み止を。お話ししますから。」

ムスタファに言って用意させる。

準備できたら飲ませると約束すると安心し続きを話し出した。

「メイド長の、娘は確かに大旦那様の子供です。娘に多少の財産が行くように旦那様の死後に認知することになってます。」

「知ってるのは?」

「大旦那様が本人にお話になったかもしれません。私は書類の用意をしたので存じてます。」

「お前とメイド長が特別な関わりがあったのは分かってる。話したのはお前じゃないのか?」

「は、は。ご冗談でしょう。あれが特別ですか。」

痛みに顔を歪めながら、笑って体を揺らす。

「はは、は…特別は、あなたが持ってるじゃないですか。」

ぶつぶつとジネウラへの想いと俺への嫉妬を口にする。

「旦那様、お薬をお持ちしました。」

盆に乗せた薬を俺に見せる。

思わず顔をしかめてしまった。

「こ、れは、悪趣味じゃないか?」

「図々しくもまだ恨み言を言うこの男へ恥を教えてやろうと思いまして。よろしゅうございますか?」

「構わないが、どこから持ってきたんだ。」

「どれもこの男の持ち物ですよ。身を持って使えば良いのです。こんなもの。」

「そうか、なら好きにしろ。」

粉薬と水と、いくつもの男根を盆に転がしてる。

ムスタファは形が歪で特に大きい物を選び、先に水をつけて粉を塗布する。

「薬だ。口を開けろ。」

そう言って屈辱に歪む家令の口に押し込んで薬を飲ませていた。

あまり見たくない光景だが、もう2、3聞きたいことがあるので薄目を開けて待った。

「…サディストめ。…くそ。」

苦々しく呟くこの男は反省が出来ない人種のようだ。

けだものが。

お前は俺の妻に何をした。

椅子もお前のだ。

このサディスト。

「大人しくしておけ。次は尻に突っ込まれるぞ。」

「良いですね。娼婦殺しも塗ってやりましょう。まだ残っていますので。その身で体験すればいい。」

「ああ!くそ、余計なことを!」

「さすがに死ぬんじゃないか?」

「ふん、この男のようなへまはしませんよ。医者ですから。」

盆を部屋の隅に寄せたテーブルに置いて出ていく。

「痛み止を飲めてよかったな。それで、書類はどこに?」

「…銀行の貸し金庫です。」

「なぜ死後に認知することになった?」

「まだ話せと言うのですか?痛くて無理ですね。」

「また後で痛み止を飲ませるように言ってやる。」

嬉しいのか悔しいのか悩む顔をしている。

次はどのサイズを使うか知らないが飲めないよりましだろう。

少し長くなると前置きを置いて話を始めた。

リトグリ公爵と亡くなった奥方とメイド長の3人の関係。

メイド長の出産。

リトグリ公爵家の財産を狙っていること。

「はあ、はあ…もう、充分でしょう?」

喋り疲れて息が上がってる。

「ああ、あとは休め。」

立ち上がり部屋を出ようとしたら、呼び止められた。

「まて、待ってください。お嬢様は?!」

「あぁ、忘れてた。」

「命は?」

「助かったよ。まだ目覚めないけど。」

「そうですか。ふふ、は、はは。」

すぐさま乱暴に髪を掴み顔をあげさせる。

「ぐっ、う。はは、は。このまま、目覚めなければいい。はは。」

「…死んでお前のものになると思うなよ。彼女は私の妻だ。」

「ふ、はは。は。…でも、死んだら私が最後の男ですね。は、は、は!お嬢様の最後は、私だ!は、はは!」

殴るなり蹴るなり報復したいが、余計喜ばせると思うと何も思い付かない。

ムスタファが隣から走ってきて、テーブルの上の一つを掴んだ。

「うるさい、これでも咥えてろ。」

口に突っ込み、出せないように布で巻き付けて頬を叩く。

「旦那様は尋問、終わったのでしょう。これを持ってジネウラ様のところへ行かれてください。」

スープの具を盛った皿を渡され、食べて休めと言われた。
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