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第二章
1※ジネウラ
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おかしい。
目が覚めたのに体が動かない。
頭ははっきりしていた。
ここがいつもの別宅の寝室だとすぐに理解する。
疲れすぎたせいかと考えたが、おかしな頭の覚醒を感じる。
眼球を動かして周囲を見るが、夕暮れを過ぎた薄暗さにあまり周りが見えなかった。
きいきい、と扉が揺れる音が聞こえた。
足の方向のクローゼットへ眼球を向けると開いていて、それと共にお腹の上の、黒い盛り上がりに気づいた。
あ、また、化け物。
内心喜んでた。
掴まえてやっつけるつもりだったのたから。
だが叶わなかった。
実際は目蓋を動かすだけで眉ひとつ動かない。
心の中でだけ、枕の下の武器を片手に殴り付けていた。
「…ぅぅ。」
太ももの上に乗ってもそもそと忙しなく動き続け、四つん場に股がって鼻先を体に擦り付け荒い鼻息が押しつけられている。
べちゃべちゃと舐められいつ噛みつかれるか恐怖で叫んでいた。
「ぁ…ぁぁ…ぁぁ…」
か細い掠れた声だけが絞り出されていた。
目をぎゅっとつぶり、ギリギリと歯を食い縛る。
悔しい、悔しい。
怖い、悔しい。
やっつけたい。
「ぅ、う…ぅ…。」
睨み付けて微かに肩をよじり抵抗する。
震える手で黒い化け物を力なく押し返す。
「…ぁ、ぁ!?」
腕を押さえつけられ、初めてぐいぃと顔を寄せてきた。
初めて近くで見る化け物に驚いた。
目にしたのは黒い布を被った男だった。
覆面を捲り、鼻から下を涎でぬらぬら光らせて。
これは、人間だ。
ずっと、化け物と信じていた。
なのに、ただの男だった。
卑怯にも顔を隠して。
不埒な、女の寝込みを襲う屑だ。
射殺さんばかりに眼力で呪いを込めた。
何の甲斐もなく目隠しをされ、手足を縛られてしまった。
猿轡はめる前に、キスをされ腹が立った。
ふーふーとかかる鼻息も、湿った唇も。
口内を舐め回されて男の多すぎる涎が口に溜まり気持ち悪い。
やっと気がすんだらベッドから運び出されて、何か、柔らかく手触りの良い布が敷き詰められた箱に体を折り曲げてし舞い込まれた。
始終、不躾にべたべた触られ、熱した火かき棒でこの手を罰したいと考えた。
蓋が閉まり、鍵の音を耳にして悔しさで頭がくらくらした。
すーっと動く感覚からカートに乗せられたと分かる。
箱が斜めになり階段を降りる振動。
このまま落ちたら助かるかもしれないが、衝撃を想像するだけでも体が怯えてしまう。
唸ってみるが、ふーふーと荒い息を吐くだけで何もでない。
がたんと振動を感じて、馬車の揺れと車輪の音が聞こえた。
ジネウラは怒りに心を任せた。
いつの間にやら繰り返し部屋に侵入された上に、今回は箱詰めされ堂々と誘拐された事実が許せなかった。
恐怖で震えるより怒りで己を奮い立たせ、体がひくりともしないかわりに頭を回転させる。
指や足に当たる周囲の感触を動かない体で触り続けた。
猿轡や紐の手触りは絹だと思った。
手首の拘束、二の腕の辺りも体にぴったり紐で巻かれ縛られている。
丁寧に巻かれ、怪我をさせないようにしているのは分かった。
自分の下敷きになった布はサテンやシフォン、沢山の種類。
その柔らかい感触も、配慮さてているように思える。
自分を包む布が何か、シーツのよう1枚ではなくごわごわしていたり段差を感じたり全く分からなかった。
猿轡と拘束する絹の感触から怪我させる気も殺す気はないと察する。
だが、男が舐め回した太ももと股間の湿り気。
湿りのせいで肌に張り付いた布が冷えたその感触が、けだものの目的は自分を貪ることだと否応なしに予見させられ、歯噛みした。
長く馬車の振動を感じ続けた。
目が覚めたのに体が動かない。
頭ははっきりしていた。
ここがいつもの別宅の寝室だとすぐに理解する。
疲れすぎたせいかと考えたが、おかしな頭の覚醒を感じる。
眼球を動かして周囲を見るが、夕暮れを過ぎた薄暗さにあまり周りが見えなかった。
きいきい、と扉が揺れる音が聞こえた。
足の方向のクローゼットへ眼球を向けると開いていて、それと共にお腹の上の、黒い盛り上がりに気づいた。
あ、また、化け物。
内心喜んでた。
掴まえてやっつけるつもりだったのたから。
だが叶わなかった。
実際は目蓋を動かすだけで眉ひとつ動かない。
心の中でだけ、枕の下の武器を片手に殴り付けていた。
「…ぅぅ。」
太ももの上に乗ってもそもそと忙しなく動き続け、四つん場に股がって鼻先を体に擦り付け荒い鼻息が押しつけられている。
べちゃべちゃと舐められいつ噛みつかれるか恐怖で叫んでいた。
「ぁ…ぁぁ…ぁぁ…」
か細い掠れた声だけが絞り出されていた。
目をぎゅっとつぶり、ギリギリと歯を食い縛る。
悔しい、悔しい。
怖い、悔しい。
やっつけたい。
「ぅ、う…ぅ…。」
睨み付けて微かに肩をよじり抵抗する。
震える手で黒い化け物を力なく押し返す。
「…ぁ、ぁ!?」
腕を押さえつけられ、初めてぐいぃと顔を寄せてきた。
初めて近くで見る化け物に驚いた。
目にしたのは黒い布を被った男だった。
覆面を捲り、鼻から下を涎でぬらぬら光らせて。
これは、人間だ。
ずっと、化け物と信じていた。
なのに、ただの男だった。
卑怯にも顔を隠して。
不埒な、女の寝込みを襲う屑だ。
射殺さんばかりに眼力で呪いを込めた。
何の甲斐もなく目隠しをされ、手足を縛られてしまった。
猿轡はめる前に、キスをされ腹が立った。
ふーふーとかかる鼻息も、湿った唇も。
口内を舐め回されて男の多すぎる涎が口に溜まり気持ち悪い。
やっと気がすんだらベッドから運び出されて、何か、柔らかく手触りの良い布が敷き詰められた箱に体を折り曲げてし舞い込まれた。
始終、不躾にべたべた触られ、熱した火かき棒でこの手を罰したいと考えた。
蓋が閉まり、鍵の音を耳にして悔しさで頭がくらくらした。
すーっと動く感覚からカートに乗せられたと分かる。
箱が斜めになり階段を降りる振動。
このまま落ちたら助かるかもしれないが、衝撃を想像するだけでも体が怯えてしまう。
唸ってみるが、ふーふーと荒い息を吐くだけで何もでない。
がたんと振動を感じて、馬車の揺れと車輪の音が聞こえた。
ジネウラは怒りに心を任せた。
いつの間にやら繰り返し部屋に侵入された上に、今回は箱詰めされ堂々と誘拐された事実が許せなかった。
恐怖で震えるより怒りで己を奮い立たせ、体がひくりともしないかわりに頭を回転させる。
指や足に当たる周囲の感触を動かない体で触り続けた。
猿轡や紐の手触りは絹だと思った。
手首の拘束、二の腕の辺りも体にぴったり紐で巻かれ縛られている。
丁寧に巻かれ、怪我をさせないようにしているのは分かった。
自分の下敷きになった布はサテンやシフォン、沢山の種類。
その柔らかい感触も、配慮さてているように思える。
自分を包む布が何か、シーツのよう1枚ではなくごわごわしていたり段差を感じたり全く分からなかった。
猿轡と拘束する絹の感触から怪我させる気も殺す気はないと察する。
だが、男が舐め回した太ももと股間の湿り気。
湿りのせいで肌に張り付いた布が冷えたその感触が、けだものの目的は自分を貪ることだと否応なしに予見させられ、歯噛みした。
長く馬車の振動を感じ続けた。
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