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第一章
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日差しを感じて目を覚めたら、窓の隙間から明るい日差しが目に入った。
昨日、床に落ちた時のまま、地面に転がってシーツをかけられてる。
ジネウラが見当たらず、居ないことに心細くなり体を起こして探し歩く。
屋敷と違い狭い民家はすぐに見終わった。
医師だと言うのは本当らしく、壁一面の大きな本棚に医学書が詰め込まれ、作業台には大きな薬研や乳鉢が揃えてある。
昨日、診察したじいさんが薬棚をごそごそと漁っていた。
目の前に立つ俺に気づいたはずなのに居もしないといった素振りで素通りしていく。
じっと観察すると目と耳が悪いと気づいた。
手を前方にかざし壁や棚を撫でながらふらふらと歩く。
あんな体で診察は当てになるのかと不安がよぎったが、寝起きの気分の明るさと体調のよさに、ジネウラの言っていたボケてるが出来るという言葉を信じる気になる。
外から婆さんのデカイ喋り声が聞こえてくる。
裏で洗濯物を叩いて干している音が聞こえてきた。
「なんだい、あれが噂の旦那だったんですか!それなら昨日とっちめてやったのに!」
ジネウラの返事が聞こえないのはまだ喉の痛みのせいだろう。
「ここまで噂は流れてますよ。とんでもない屑だって。浮気ばかりして仕事もお嬢様に押し付けて、いくらお嬢様がこんなでもいい子なのになんだってそんな目に合わなきゃなんないですかっ!」
くず?おれが?
「何を笑ってるんですかっ。ひとりで領地を切り盛りしてがんばってたんですよ?奥様のことがあって、これから幸せになってほしいと先生が仰っていたんですよ!私たちも!なのに、あんな男を押し付けられて!ああもうっ、分かってるんですかっ?」
浮気とは何のことだ。
「…ジネウラ」
声をかけるが、あちらに届いてない。
俺は、この地に来てからずっと床に臥せっていたんだ。
なんでそんな話が。
頭が痛い。
気分が悪い。
違う、俺じゃない。
裏口から外に飛び出して、ジネウラのもとに行こうとするのに、日差しが眩しくて目の前が真っ白になり地面に転がった。
「眩しい、見えない…ジネウラ、ジネウラ!ジネウラァ!見えない、立てないんだっ。どこだ!」
「ああ、全く!何ですか?!大人しく寝とけばいいのに手のかかる。」
「もういい、よ。怒らな、いで。」
「まだ声は出しちゃいけませんよ。喉をつぶされて掠れてるんですから。そんな、痛々しい手のあとをつけて、この男。」
頭を抱えて丸くなる俺の頭を細い指が滑る。
「ジネウラ…、眩しい、目が痛い。…立てない。」
「ったく。もう、しょうがない。あたしも支えますよ。診察室に運びます。」
「くすり、の、せい。これを。」
頭に手拭いをかけられ、日差しを遮る。
「先生がどうにかしてくださるでしょうけど、なんでしょうね、この症状。こんな、いくつも出るなんて一体、何を飲まされたのやら。」
「あ、あ…ジネウラ、どこだ。手を。」
「大の男がうるさい。お嬢様が隣で支えてるでしょうが。この男はもとからこんなですか?」
ジネウラにしがみつき重さによろけているが、そうしないと不安だった。
「違う?そうですか、これも毒の影響ということですか。はあ…。」
どうやら、ジネウラが否定してくれたようだ。
そうだ。
俺は多少臆病なところがあったが、こんな誰かいないと歩けなくなることはなかった。
引っ込み思案で、いつも二人の兄の後ろに隠れてひっそりとしていただけだ。
浮気なんて、そんなこと出来る性質じゃない。
それなのに少しでも温もりが離れるのが怖くて部屋に戻ってもジネウラの側にいた。
昨日、床に落ちた時のまま、地面に転がってシーツをかけられてる。
ジネウラが見当たらず、居ないことに心細くなり体を起こして探し歩く。
屋敷と違い狭い民家はすぐに見終わった。
医師だと言うのは本当らしく、壁一面の大きな本棚に医学書が詰め込まれ、作業台には大きな薬研や乳鉢が揃えてある。
昨日、診察したじいさんが薬棚をごそごそと漁っていた。
目の前に立つ俺に気づいたはずなのに居もしないといった素振りで素通りしていく。
じっと観察すると目と耳が悪いと気づいた。
手を前方にかざし壁や棚を撫でながらふらふらと歩く。
あんな体で診察は当てになるのかと不安がよぎったが、寝起きの気分の明るさと体調のよさに、ジネウラの言っていたボケてるが出来るという言葉を信じる気になる。
外から婆さんのデカイ喋り声が聞こえてくる。
裏で洗濯物を叩いて干している音が聞こえてきた。
「なんだい、あれが噂の旦那だったんですか!それなら昨日とっちめてやったのに!」
ジネウラの返事が聞こえないのはまだ喉の痛みのせいだろう。
「ここまで噂は流れてますよ。とんでもない屑だって。浮気ばかりして仕事もお嬢様に押し付けて、いくらお嬢様がこんなでもいい子なのになんだってそんな目に合わなきゃなんないですかっ!」
くず?おれが?
「何を笑ってるんですかっ。ひとりで領地を切り盛りしてがんばってたんですよ?奥様のことがあって、これから幸せになってほしいと先生が仰っていたんですよ!私たちも!なのに、あんな男を押し付けられて!ああもうっ、分かってるんですかっ?」
浮気とは何のことだ。
「…ジネウラ」
声をかけるが、あちらに届いてない。
俺は、この地に来てからずっと床に臥せっていたんだ。
なんでそんな話が。
頭が痛い。
気分が悪い。
違う、俺じゃない。
裏口から外に飛び出して、ジネウラのもとに行こうとするのに、日差しが眩しくて目の前が真っ白になり地面に転がった。
「眩しい、見えない…ジネウラ、ジネウラ!ジネウラァ!見えない、立てないんだっ。どこだ!」
「ああ、全く!何ですか?!大人しく寝とけばいいのに手のかかる。」
「もういい、よ。怒らな、いで。」
「まだ声は出しちゃいけませんよ。喉をつぶされて掠れてるんですから。そんな、痛々しい手のあとをつけて、この男。」
頭を抱えて丸くなる俺の頭を細い指が滑る。
「ジネウラ…、眩しい、目が痛い。…立てない。」
「ったく。もう、しょうがない。あたしも支えますよ。診察室に運びます。」
「くすり、の、せい。これを。」
頭に手拭いをかけられ、日差しを遮る。
「先生がどうにかしてくださるでしょうけど、なんでしょうね、この症状。こんな、いくつも出るなんて一体、何を飲まされたのやら。」
「あ、あ…ジネウラ、どこだ。手を。」
「大の男がうるさい。お嬢様が隣で支えてるでしょうが。この男はもとからこんなですか?」
ジネウラにしがみつき重さによろけているが、そうしないと不安だった。
「違う?そうですか、これも毒の影響ということですか。はあ…。」
どうやら、ジネウラが否定してくれたようだ。
そうだ。
俺は多少臆病なところがあったが、こんな誰かいないと歩けなくなることはなかった。
引っ込み思案で、いつも二人の兄の後ろに隠れてひっそりとしていただけだ。
浮気なんて、そんなこと出来る性質じゃない。
それなのに少しでも温もりが離れるのが怖くて部屋に戻ってもジネウラの側にいた。
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