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番外編※ルルドラ

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近衛隊長を連れて正解だった。

兄上の腹心のライオネルも。

激昂し暴れる公爵を抑えるのに役立った。

「お前は子供のくせに母親と同じ道を辿りおって!」

「ふふ、彼女からお誘いがありまして」

「ああ!無欲の淑女など持て囃されていたくせに!影で言われていたあの下劣な話が真実か!?」

噂通りの女だったと怒鳴り散らす様が無様。

言葉ひとつ、嘘と真実の見極めも出来ない年寄り。

見苦しすぎて笑いが出る。

「望み通り差し上げましょうか?兄上の子供かもしれないが僕の子かもしれない」

「いらん!今すぐ女ごと腹にいるうちに殺してやりたいくらいだ!」

「でしょうね!あはは!」

泡を吹くほど怒鳴り、孫のために離縁させて他の女を用意しなくてはと叫んだ。

おかしくて笑いが止まらない。

嘲笑う僕の様子に気狂いと罵る。

おかしいのはこの年寄りだ。

だってそうだろう?

産まれるまで分からないじゃないか。

兄の子かもしれないのに。

僕の嘘かもしれないのに。

ライン義姉様のことも誰のことも考えていない。

そんなのどうでもいいんだ。

やっぱりこんな身勝手な人間が当たり前。

ライン義姉様と兄上が聖人すぎる。

「それより書類はどこですか?それさえ頂いたら用はありませんよ」

近衛隊長が奮闘してる隙に書斎を漁った。

ようやく欲しかった書類を見つけ近衛の数人を残し、あとはライオネルを連れて公爵の屋敷を抜けた。

「皇太子、これは一体」

「家同士の契約は実の親より優先されるからね」

目を通せと意味を込めて渡す。

「義姉上が欲しがっていた」

「……承服いたしました」

産まれた子供の権利書。

性別に関わらず子供は全て公爵家で引き取って育てるとある。

馬鹿なことに父上の許可印まで。

兄上がこれを見たら間違いなく烈火のごとく怒り父上を絞めるだろう。

僕も参加する。

いい加減許せなかった。

年寄りどもはいつまで僕らを物と思っている。

「父上は愚かだ」

「……跡目争いを避けるためでございましょう」

自分の結婚が待っているのかとよぎったら吐き気がした。

全て母に重なる。

パーティーや簡易のお見合いで知り合う令嬢たち。

あのむせかえる熱量とプレッシャー。

あいつらの欲を満足させなければ、あれは簡単に母のような化け物になる。

「……吐き気がするね」

チラッとライオネルは不機嫌な僕を盗み見たあと黙って書類をコートの内ポケットに仕舞う。

馬車に酔ったのかと馬鹿な質問はない。

何が気に入らないのか理解しているらしい。

「こちらの書類はリカルド王子へお渡しします」

「だめ。これは僕が義姉様に渡す。兄上には報告だけ」

僕からのプレゼントなんだから。

今回、義姉様の喜ぶ顔を独占するのは僕だよ。

「ふふ、兄上なら父上や僕に気兼ねしてすぐ動くことは無理だったよ。諦めたふりをしたはす。せいぜい時間をかけて取り返したんじゃないかな。どうせこのことだって知っていたはずだ。おかしいんだよ。よく考えたら。あの兄上が知らないはずない。なのに今まで何もしなかったってそういうことだよね」

使用人らしく無表情を装うが、口の端が微かに上がったのを見過ごさなかった。

完璧を装った男の本音。

崩れた仮面は僕への評価を漏らした。

減点だね。

こいつは内心で僕と兄上の違いを査定している。

僕がする側だというのに。

兄上は素晴らしい。

だけど大切なものが多すぎるから回りを巻き添えに傷ついてばかり。

やっぱり偽善的で愚鈍だ。

事が起こるまで静観する姿が目に浮かび、馬鹿らしいと笑ってしまった。

全てを望むことは難しい。

本当に欲しいものだけを望めばいい。

兄上はライン義姉様だけでなく、僕のことも父上のことも、全ての平和と安定を望むんだ。

そんなことしていたら誰かが誰かのために我慢してばかりになるじゃないか。

だから僕がライン義姉様の望みを叶えてあげるんだ。

僕は兄よりも父よりもライン義姉様が大好きだもの。

笑みの消えた顔で嫌いになると言われただけで世界が真っ暗になるほど。
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