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番外編※ラド
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「久しぶり。ラド」
にっこりと上品に。
「久しぶり。ディアナ姉さん。で、なんでここに?見舞い?」
笑みを返すけど頬が引くつく。
「薬の作りおきが出来たから交代よ。もともと私が来るつもりだったの。心配したのよ?私の可愛い甥っ子だし。それより何やってるのかしらと呆れもあるわ。咄嗟の事とは言え身を守るようにどうにか出来なかった?動けなかったの?」
運動神経化け物のお袋と同じ。
腕っぷしでブイブイ言わせてましたもんねー!
昔、親父がこっそり言ってた。
二人は自分より強いし護衛向きって。
「仕事はいいの?」
「お側には教え子達がいるから」
自慢気。
途中、部屋にルーラさんが入ってきて薬を説明してる。
終わるとディアナ姉さんがお礼を言う。
お役に立てば光栄ですと返して屋敷の説明を続けようとして、書類を見せてもらえばいいと答えた。
「ご挨拶をしたら早く帰りなさい。待ってるから」
「奥様に何かございましたか?」
「ライオネルが待ってるのよ」
「あ、」
「新妻ですものねぇ。それはもう寂しそうで可哀想なくらい」
ディアナ姉さんがイタズラっぽく言うとあっという間に顔が耳まで赤くなった。
「そ、そんなことございませんでしょう?ライオネル様が」
「ほほ、ラドの様子を見たいと付き添いをしたがってたけどあなたのお迎えもしたかったのよ」
「へー、親父がねぇ」
「そうよ。面白いくらい。ルーラ、からかわれたくなかったら早く行きなさい」
ディアナ姉さんが払うように手をふると慌てて部屋を飛び出した。
「我が儘なロクサーヌ姉さんよりいいわ。あなたも聞いたんでしょ?」
「ういっす」
「姉さんは好きよ。でも男の趣味が最低。ライオネルがいいじゃない」
「そうだね」
「まあ、私もライオネルは趣味じゃないけど。固っ苦しくて無理。薄いインテリ顔も嫌。性格と顔立ちならあなただわ」
「ぶっふ、くく。そうなん?」
あまりの言いぐさに吹き出した。
「顔は男らしい方が好きなの。性格は少しだらしないくらいの緩い人。姉さんは私よりひどいわね。わがままでキザで鼻にかけたような顔だけの男ばかり好きになる」
「初耳」
「話す機会が少なかったものねえ。それより私のお気に入りの顔を戻さなきゃ。顔に傷なんて男前に渋味を足しすぎよ」
それで一発くらい殴り返したの?と聞かれて苦笑いだ。
「ロクサーヌ姉さんには手紙を出したわ。あなたのこととライオネルのこと」
「返事は?」
「まだ来ないわよ」
届くのにひと月、返ってくるなら2ヶ月ほどかかると言う。
「遠くに行っちまったもんなぁ」
「自分で選んだんだからいいの。あっちは行くばかりでいいわよ。残される方が大変なんだから。あなた達も。私達が選んだことによく堪えてくれたわ」
側にいなかったことを言いたいのかな。
気にしてないって言ったら嘘だけど自分の家族がいてもう大人だ。
子供っぽく拗ねるなんてしない。
「お袋、がっかりするかな」
「何が?」
「親父の再婚」
帰るあてがなくなっちゃったもんね。
「どうかしらね。あれもちょっとライオネルが悪いし」
「へ?」
「最初の結婚。姉さんが嫌だって言ってたのに無理やり結婚するから勘にさわったの。おじいちゃん達も一人親で育てるよりはいいって援護して。でもやっぱりロクサーヌ姉さんってああいう人だから。嫌なものは嫌って。すぐに恋人が出来るんだけど、既婚者に手を出す男なんてバカばっかり。ライオネルはすぐ許して迎えに行くのよ。お互いああいうことばかり繰り返して、回りはどっちも強情で呆れてた。お互い離れてちょうどいいんじゃない?」
「何それ」
「バカみたいでしょ。だいたい放任主義のくせに理詰めで責めるライオネルと直感で動くロクサーヌ姉さんじゃねえ。結婚してもライオネルを男扱い出来なかったみたいだし。気持ちの問題かしら?再婚したって聞いて喜ぶかも。あなた達も大きいし」
「引け目を感じてたんじゃね?俺のこと」
血の繋がらない子供。
負けん気の強いお袋は養われるのが嫌だったんじゃないの。
親父に負けないくらい稼いでたの思い出すとそういうことかなって思う。
「さあ、どうかしら」
「分からないね。あの二人のことは」
「放っておけばいいのよ。子供みたいに追い回すライオネルと逃げるロクサーヌ姉さんのことを考えても無駄。もう大人なんだからあなたは自分と家族のことを考えなさい」
「ういっす」
「若いけどルーラはいい子でしょ?」
「あ、俺の話を親父から聞いた?今は反対してないよ。ギリギリ歳も釣り合うし。なに?自慢の教え子なの?」
「それだけじゃないわね。主人のために必要な子だから」
少し屈んで俺に顔を寄せた。
「今の皇太子のために育てているの」
「……マジで?」
「ライオネルと私もいずれ皇太子のために仕えるわ」
「言っていいこと?」
「あなた次第。後悔させたら身内と言えど庇えないわよ。ああ、違った。私はライオネルみたいに身内を甘やかすのは嫌いなの。今回のことも少し許せないわね。いつものあなたらしくない。二度目はないわよね?」
にっこり微笑みながら首に手をかざして横へ振った。
「あとはクドーさんに相談なさい。細かく指示を出すでしょう。付き合いはあなたより長いから」
「……知らなかった」
「知らせなかったから。教えられないこともまだあるわ。それは諦めて」
「……分かった」
「ふふ、本当にルーラはロクサーヌ姉さんみたいにライオネルを困らせる子じゃなくて良かったわ。あなたもね。大事な時期に問題ばかり起こす姉さんを殺してやりたいと何度思ったかしら。それを庇うライオネルもイライラしたわねぇ」
めらめらと目に怒りが沸くのが怖くて顔を背けた。
“はい”以外の返事は許さねぇだろ。
首に手を当てたのだって本気だ。
王家の不興を買って処分になっても止めてくれる気がしねぇ。
絶対、義父と親父の方が助けようと必死になる。
目の前のディアナ姉さんも怖いし、鬼じゃないよと笑っていたリカルド王子も怖い。
笑顔に隠れて何か白黒はっきりした怖さがあった。
どっちにしろ上手く動かねぇとヤバい。
「……巻き込むなよ」
噂と違うリカルド王子、ルーラさんの怪我の痕、今ならいいと囁いた親父、義父の隠した様子。
雲の上でなんかヤバい事があったと察した。
「クドーさんの跡取りでライオネルの息子なんだからいずれね。それだけじゃなくて口を出すなら噛ませてあげる。いい緊張感が出るでしょう」
「親父の再婚に口出ししただけじゃねぇか。今は反対してないのに」
「ロクサーヌ姉さんみたいに我が儘は困るのよ。いちいち突っかかるのもね。ライオネルが特別に信頼されてるのに家庭のゴタゴタで足止めする気?」
「出世の?」
「そんなものじゃないわ」
王家を守ることは国を守ることだと言う。
「遠回りだけどその先はあなた達を守ることになるのよ。私達は出世に興味ないもの。ルーラもそれが分かってる子だから想いが違う」
認めてるんだな。
俺より。
「理解するように努力します」
「そうなさい」
言わずに分かれってのは無理。
でもぶちまけられて知らんぷりは許されない。
その夜、義父が古い帳簿を持ってきた。
見ていいと言われて中を開くと初期の出資者にうちの親父の名前が並んでいて回数と金額に驚いた。
「リカルド王子の代理だ」
遡ると10年前。
恐らく市井には他にも援助を受けて繋がりのある人間がいると言う。
「特別難しいことを指示されることはない。どこの誰が何を買い付けたか、市井でどの貴族がどこの商会と懇意してるか報告するだけ。見返りに貴族間の流行や取引をお知らせしてくださる」
「本当にそれだけですか?」
「……いくつかあったが、もう終わったそうだ。リカルド王子の悲願は達した」
一瞬言いよどみ、微かな間が空いた。
“知らせられない”ことだと理解して頷いて目を伏せた。
「リカルド王子は、皇太子に返り咲く、とかは……」
「望まれていない。次に私達はルルドラ皇太子が成人する頃にご紹介いただくことになった。どうやら細やかで厳しい方らしい。今から跡取りの教育をしとくようにという指示だった」
今以上にしっかりしなくてはと気が引き締まる。
にっこりと上品に。
「久しぶり。ディアナ姉さん。で、なんでここに?見舞い?」
笑みを返すけど頬が引くつく。
「薬の作りおきが出来たから交代よ。もともと私が来るつもりだったの。心配したのよ?私の可愛い甥っ子だし。それより何やってるのかしらと呆れもあるわ。咄嗟の事とは言え身を守るようにどうにか出来なかった?動けなかったの?」
運動神経化け物のお袋と同じ。
腕っぷしでブイブイ言わせてましたもんねー!
昔、親父がこっそり言ってた。
二人は自分より強いし護衛向きって。
「仕事はいいの?」
「お側には教え子達がいるから」
自慢気。
途中、部屋にルーラさんが入ってきて薬を説明してる。
終わるとディアナ姉さんがお礼を言う。
お役に立てば光栄ですと返して屋敷の説明を続けようとして、書類を見せてもらえばいいと答えた。
「ご挨拶をしたら早く帰りなさい。待ってるから」
「奥様に何かございましたか?」
「ライオネルが待ってるのよ」
「あ、」
「新妻ですものねぇ。それはもう寂しそうで可哀想なくらい」
ディアナ姉さんがイタズラっぽく言うとあっという間に顔が耳まで赤くなった。
「そ、そんなことございませんでしょう?ライオネル様が」
「ほほ、ラドの様子を見たいと付き添いをしたがってたけどあなたのお迎えもしたかったのよ」
「へー、親父がねぇ」
「そうよ。面白いくらい。ルーラ、からかわれたくなかったら早く行きなさい」
ディアナ姉さんが払うように手をふると慌てて部屋を飛び出した。
「我が儘なロクサーヌ姉さんよりいいわ。あなたも聞いたんでしょ?」
「ういっす」
「姉さんは好きよ。でも男の趣味が最低。ライオネルがいいじゃない」
「そうだね」
「まあ、私もライオネルは趣味じゃないけど。固っ苦しくて無理。薄いインテリ顔も嫌。性格と顔立ちならあなただわ」
「ぶっふ、くく。そうなん?」
あまりの言いぐさに吹き出した。
「顔は男らしい方が好きなの。性格は少しだらしないくらいの緩い人。姉さんは私よりひどいわね。わがままでキザで鼻にかけたような顔だけの男ばかり好きになる」
「初耳」
「話す機会が少なかったものねえ。それより私のお気に入りの顔を戻さなきゃ。顔に傷なんて男前に渋味を足しすぎよ」
それで一発くらい殴り返したの?と聞かれて苦笑いだ。
「ロクサーヌ姉さんには手紙を出したわ。あなたのこととライオネルのこと」
「返事は?」
「まだ来ないわよ」
届くのにひと月、返ってくるなら2ヶ月ほどかかると言う。
「遠くに行っちまったもんなぁ」
「自分で選んだんだからいいの。あっちは行くばかりでいいわよ。残される方が大変なんだから。あなた達も。私達が選んだことによく堪えてくれたわ」
側にいなかったことを言いたいのかな。
気にしてないって言ったら嘘だけど自分の家族がいてもう大人だ。
子供っぽく拗ねるなんてしない。
「お袋、がっかりするかな」
「何が?」
「親父の再婚」
帰るあてがなくなっちゃったもんね。
「どうかしらね。あれもちょっとライオネルが悪いし」
「へ?」
「最初の結婚。姉さんが嫌だって言ってたのに無理やり結婚するから勘にさわったの。おじいちゃん達も一人親で育てるよりはいいって援護して。でもやっぱりロクサーヌ姉さんってああいう人だから。嫌なものは嫌って。すぐに恋人が出来るんだけど、既婚者に手を出す男なんてバカばっかり。ライオネルはすぐ許して迎えに行くのよ。お互いああいうことばかり繰り返して、回りはどっちも強情で呆れてた。お互い離れてちょうどいいんじゃない?」
「何それ」
「バカみたいでしょ。だいたい放任主義のくせに理詰めで責めるライオネルと直感で動くロクサーヌ姉さんじゃねえ。結婚してもライオネルを男扱い出来なかったみたいだし。気持ちの問題かしら?再婚したって聞いて喜ぶかも。あなた達も大きいし」
「引け目を感じてたんじゃね?俺のこと」
血の繋がらない子供。
負けん気の強いお袋は養われるのが嫌だったんじゃないの。
親父に負けないくらい稼いでたの思い出すとそういうことかなって思う。
「さあ、どうかしら」
「分からないね。あの二人のことは」
「放っておけばいいのよ。子供みたいに追い回すライオネルと逃げるロクサーヌ姉さんのことを考えても無駄。もう大人なんだからあなたは自分と家族のことを考えなさい」
「ういっす」
「若いけどルーラはいい子でしょ?」
「あ、俺の話を親父から聞いた?今は反対してないよ。ギリギリ歳も釣り合うし。なに?自慢の教え子なの?」
「それだけじゃないわね。主人のために必要な子だから」
少し屈んで俺に顔を寄せた。
「今の皇太子のために育てているの」
「……マジで?」
「ライオネルと私もいずれ皇太子のために仕えるわ」
「言っていいこと?」
「あなた次第。後悔させたら身内と言えど庇えないわよ。ああ、違った。私はライオネルみたいに身内を甘やかすのは嫌いなの。今回のことも少し許せないわね。いつものあなたらしくない。二度目はないわよね?」
にっこり微笑みながら首に手をかざして横へ振った。
「あとはクドーさんに相談なさい。細かく指示を出すでしょう。付き合いはあなたより長いから」
「……知らなかった」
「知らせなかったから。教えられないこともまだあるわ。それは諦めて」
「……分かった」
「ふふ、本当にルーラはロクサーヌ姉さんみたいにライオネルを困らせる子じゃなくて良かったわ。あなたもね。大事な時期に問題ばかり起こす姉さんを殺してやりたいと何度思ったかしら。それを庇うライオネルもイライラしたわねぇ」
めらめらと目に怒りが沸くのが怖くて顔を背けた。
“はい”以外の返事は許さねぇだろ。
首に手を当てたのだって本気だ。
王家の不興を買って処分になっても止めてくれる気がしねぇ。
絶対、義父と親父の方が助けようと必死になる。
目の前のディアナ姉さんも怖いし、鬼じゃないよと笑っていたリカルド王子も怖い。
笑顔に隠れて何か白黒はっきりした怖さがあった。
どっちにしろ上手く動かねぇとヤバい。
「……巻き込むなよ」
噂と違うリカルド王子、ルーラさんの怪我の痕、今ならいいと囁いた親父、義父の隠した様子。
雲の上でなんかヤバい事があったと察した。
「クドーさんの跡取りでライオネルの息子なんだからいずれね。それだけじゃなくて口を出すなら噛ませてあげる。いい緊張感が出るでしょう」
「親父の再婚に口出ししただけじゃねぇか。今は反対してないのに」
「ロクサーヌ姉さんみたいに我が儘は困るのよ。いちいち突っかかるのもね。ライオネルが特別に信頼されてるのに家庭のゴタゴタで足止めする気?」
「出世の?」
「そんなものじゃないわ」
王家を守ることは国を守ることだと言う。
「遠回りだけどその先はあなた達を守ることになるのよ。私達は出世に興味ないもの。ルーラもそれが分かってる子だから想いが違う」
認めてるんだな。
俺より。
「理解するように努力します」
「そうなさい」
言わずに分かれってのは無理。
でもぶちまけられて知らんぷりは許されない。
その夜、義父が古い帳簿を持ってきた。
見ていいと言われて中を開くと初期の出資者にうちの親父の名前が並んでいて回数と金額に驚いた。
「リカルド王子の代理だ」
遡ると10年前。
恐らく市井には他にも援助を受けて繋がりのある人間がいると言う。
「特別難しいことを指示されることはない。どこの誰が何を買い付けたか、市井でどの貴族がどこの商会と懇意してるか報告するだけ。見返りに貴族間の流行や取引をお知らせしてくださる」
「本当にそれだけですか?」
「……いくつかあったが、もう終わったそうだ。リカルド王子の悲願は達した」
一瞬言いよどみ、微かな間が空いた。
“知らせられない”ことだと理解して頷いて目を伏せた。
「リカルド王子は、皇太子に返り咲く、とかは……」
「望まれていない。次に私達はルルドラ皇太子が成人する頃にご紹介いただくことになった。どうやら細やかで厳しい方らしい。今から跡取りの教育をしとくようにという指示だった」
今以上にしっかりしなくてはと気が引き締まる。
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