76 / 120
番外編※フォルクス
6※フォルクス
しおりを挟む
ライオネルさんが言ってた終わりにたどり着くまで5年かかった。
なげぇなぁ、とひとりごちた。
近衛を辞職後はリカルド王子の勧めていた隣国へ高飛びした。
平和でのんびりした生活に心が落ち着いたら今度は激しい義憤に駆られた。
生来の負けず嫌いも戻った。
昔の俺は食いついたら離れねぇ狂犬だった。
死ぬのなんか怖くねぇ、何かちょっとでもあの糞の邪魔してやると滾った。
粘り強くすりゃぁそのうち勝てる。
一度逃げただけでなんだって言うんだ。
大したことじゃねぇよ。
今までそうだったんだ。
隠れて気を伺い次は刺す。
当たり前のことだ。
あれは戦略的撤退って奴だ。
旅芸人の一座に混ざって国に戻ったらすぐにリカルド王子を探した。
相変わらず気晴らしに街をフラフラしてた。
一座に習った変装のせいで全く俺と分からず、その場のイタズラで正体を隠してからかった。
“その声はフォルクスか?”
わざとヒントを出し続けてやっと気づいた。
“お久しぶりでございます”
隣国の仕事を辞めたのは聞いていたが何をやってるんだと呆れていた。
掃除に手間取っているようなのでお手伝いがしたいと告げると苦笑いでやめとけと退ける。
だが昔に戻った俺の奮起に押しきられて思案しかねる様子で苦しげだったが微かに安堵を顔に浮かべて受け入れてくださった。
足下を見つめてはっきりと見えなかったが小さく鼻をすすり手で目元を擦って、本当に泣いていたのだと思う。
戻ってよかった。
それからはリカルド王子の手足。
個人で子供相手の剣術指南の傍ら警護を専門におこなう商会の委託を引き受ける。
いつもは自分らしくない無精髭と庶民的ながさつさでもとの関わる人間とは生活の共通点がない。
俺が誰かバレることはなかった。
気づいたのはふたり。
ライオネルさんとディアナさん。
あ、あともうひとりいた。
ガスラス。
ひょんなことで知り合い、何かと話しかけて知り合いに似てると言っていた。
懐かしさで思わず正体を晒した。
全く分からなかった、何やってるんですかと驚きつつも笑って、こいつが昔と変わってないことが分かると昔みたいで悪くねえなぁと安心した。
あの時、久々に会った骸骨みたいなあの娘も晴れやかに美しくなっていた。
美形な顔立ちに惚れるよりただ良かったと思うだけだ。
ガスラスには同情するがな。
なんであんな癖の強そうなのばかり。
手に終えないのに。
午前中は預かった若い男らの鍛練。
事情があるからうちのだだっ広い庭で。
仕事は早めに切り上げて家に入った。
「大丈夫か?」
「……うん」
真っ青な顔で寝台で寝てる俺の女房。
ふくよかで日に焼けた肌を持っていたが、今は青白く痩せてしまった。
腹だけ少しずつ膨れてきた。
少し前からつわりで寝込んでる。
出来るだけ側で過ごしたかった。
結婚して一年。
まだ夫婦ふたりでのんびりしてもいいかなと思っていたがちょうどいい。
「買い出し行ってくるよ」
毎日、弱った女房に食べられそうなのを探すのが午後の日課。
「ラドさんが配達してくれたから。義妹さんもご一緒に」
どうやらその義妹が食事の支度と家事をして行ったそうだ。
「礼をしなきゃなぁ」
「ふふ、そうね。何がいいかしら。あ、でもお礼なら産まれた子供達を遊ばせましょうって。子供同士子守りをさせた方が親は休めるんですって。うちは小さいし、お世話になるばかりで申し訳ないけど」
細い目をいつもより細めて笑う。
具合が悪いが機嫌はよさそう。
「へえ」
知らね。
子育てってそういうもんなのかな?
分からないけど頼れる育児の先輩に会えてうちらは助かった。
ついでに昔より手紙が増えた。
ライオネルさんとリカルド王子から。
当たり障りないことや次の護衛の依頼。
またあの引っ込み思案な奥様とデートらしい。
すげぇのはたまに弟つきで遊びに来る。
三人で仲良く。
あの女の息子だろうに何にも気にしねぇ。
すげえなぁと毎回思う。
奥様を中心にのんびりと過ごす三人を見ればこれでいいんだとあっさり納得できた。
何も気にすることなく人と関わり、可愛い女房と好きに暮らす。
最高の日々だ。
~終~
なげぇなぁ、とひとりごちた。
近衛を辞職後はリカルド王子の勧めていた隣国へ高飛びした。
平和でのんびりした生活に心が落ち着いたら今度は激しい義憤に駆られた。
生来の負けず嫌いも戻った。
昔の俺は食いついたら離れねぇ狂犬だった。
死ぬのなんか怖くねぇ、何かちょっとでもあの糞の邪魔してやると滾った。
粘り強くすりゃぁそのうち勝てる。
一度逃げただけでなんだって言うんだ。
大したことじゃねぇよ。
今までそうだったんだ。
隠れて気を伺い次は刺す。
当たり前のことだ。
あれは戦略的撤退って奴だ。
旅芸人の一座に混ざって国に戻ったらすぐにリカルド王子を探した。
相変わらず気晴らしに街をフラフラしてた。
一座に習った変装のせいで全く俺と分からず、その場のイタズラで正体を隠してからかった。
“その声はフォルクスか?”
わざとヒントを出し続けてやっと気づいた。
“お久しぶりでございます”
隣国の仕事を辞めたのは聞いていたが何をやってるんだと呆れていた。
掃除に手間取っているようなのでお手伝いがしたいと告げると苦笑いでやめとけと退ける。
だが昔に戻った俺の奮起に押しきられて思案しかねる様子で苦しげだったが微かに安堵を顔に浮かべて受け入れてくださった。
足下を見つめてはっきりと見えなかったが小さく鼻をすすり手で目元を擦って、本当に泣いていたのだと思う。
戻ってよかった。
それからはリカルド王子の手足。
個人で子供相手の剣術指南の傍ら警護を専門におこなう商会の委託を引き受ける。
いつもは自分らしくない無精髭と庶民的ながさつさでもとの関わる人間とは生活の共通点がない。
俺が誰かバレることはなかった。
気づいたのはふたり。
ライオネルさんとディアナさん。
あ、あともうひとりいた。
ガスラス。
ひょんなことで知り合い、何かと話しかけて知り合いに似てると言っていた。
懐かしさで思わず正体を晒した。
全く分からなかった、何やってるんですかと驚きつつも笑って、こいつが昔と変わってないことが分かると昔みたいで悪くねえなぁと安心した。
あの時、久々に会った骸骨みたいなあの娘も晴れやかに美しくなっていた。
美形な顔立ちに惚れるよりただ良かったと思うだけだ。
ガスラスには同情するがな。
なんであんな癖の強そうなのばかり。
手に終えないのに。
午前中は預かった若い男らの鍛練。
事情があるからうちのだだっ広い庭で。
仕事は早めに切り上げて家に入った。
「大丈夫か?」
「……うん」
真っ青な顔で寝台で寝てる俺の女房。
ふくよかで日に焼けた肌を持っていたが、今は青白く痩せてしまった。
腹だけ少しずつ膨れてきた。
少し前からつわりで寝込んでる。
出来るだけ側で過ごしたかった。
結婚して一年。
まだ夫婦ふたりでのんびりしてもいいかなと思っていたがちょうどいい。
「買い出し行ってくるよ」
毎日、弱った女房に食べられそうなのを探すのが午後の日課。
「ラドさんが配達してくれたから。義妹さんもご一緒に」
どうやらその義妹が食事の支度と家事をして行ったそうだ。
「礼をしなきゃなぁ」
「ふふ、そうね。何がいいかしら。あ、でもお礼なら産まれた子供達を遊ばせましょうって。子供同士子守りをさせた方が親は休めるんですって。うちは小さいし、お世話になるばかりで申し訳ないけど」
細い目をいつもより細めて笑う。
具合が悪いが機嫌はよさそう。
「へえ」
知らね。
子育てってそういうもんなのかな?
分からないけど頼れる育児の先輩に会えてうちらは助かった。
ついでに昔より手紙が増えた。
ライオネルさんとリカルド王子から。
当たり障りないことや次の護衛の依頼。
またあの引っ込み思案な奥様とデートらしい。
すげぇのはたまに弟つきで遊びに来る。
三人で仲良く。
あの女の息子だろうに何にも気にしねぇ。
すげえなぁと毎回思う。
奥様を中心にのんびりと過ごす三人を見ればこれでいいんだとあっさり納得できた。
何も気にすることなく人と関わり、可愛い女房と好きに暮らす。
最高の日々だ。
~終~
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
201
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる