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泣き止んだけどルルドラ王子が私の手を握ったまま。

お部屋までお供してあげた。

「おやすみなさいませ」

「おやすみなさい、ライン義姉様、兄上」

「おやすみ、ルルドラ」

扉を閉めたけど寂しそうだった。

メイドさんが側にいるから大丈夫だと分かってるけど気になっちゃう。

チラチラと後ろの扉に目を向けてる。

「……年下好きとは思わなかった。……ふぅ、」

「え?」

見上げたら隣でリカルド王子がしょんぼりしてた。

なんで?

「……リカルド王子?」

「何?」

目が合うとにっと笑う。

いつも通り。

「いえ、何も」

「そうか」

部屋の前でおやすみなさいとご挨拶をすると呼び止められた。

「ラインは私の妻だと分かってるよな?」

「はい」

書類上の奥様。

内情は雇い主とメイド。

先生と生徒。

それだけ。

「よし、分かってるならいい。あとで来るから待ってろ」

「え?」

それだけ言ったらさっさと私の部屋の扉を閉めちゃった。

扉越しに鼻唄と隣の部屋の開閉音。

……え?

あとで来るって何が?

首を捻ってたらお世話に来てるメイドさん達が微笑んだ。

「仲がよろしいのですね」

「……はあ」

豪華なお部屋。

湯あみも出来る。

仕切りがあるだけの隣室のスペースにバスタブ。

拭くだけでいいのに。

「一人で大丈夫です」

実家でもリカルド王子のお屋敷でも一人でしてたから恥ずかしいんだけど。

なのに、だめですと三人がかりで窘められ縮こまって湯あみ。

三人とも優しかったのに腕の火傷に顔色が変わった。

「……こちらは?」

「……調理場でちょっと。……鍋をかき混ぜた時の」

「鍋を?奥様がなぜ調理場などに?」

「貴族の女性に傷など許されませんっ、どういう、」

「あ!よく見れば指にも沢山お怪我されてる!」

「まあ!なんてこと!」

腕と指の傷に三人とも真っ青。

三人が私の体を見せろと怒った。

膝っ小僧が少し黒いのもバレた。

お尻や腰にある青アザも。

床磨きに這いつくばるし、忙しい調理場で慌てるとよくテーブルの角にぶつかるから。

「女性に怪我をさせるなんて!陛下にお知らせします!」

「え、ええっ?」

部屋に陛下がやってくるしリカルド王子も。

「……リカルドの仕業なのか?身体の怪我は」

「ち、違います!調理場が担当なので、私がおっちょこちょいだから、あっちこっちにぶつかるだけです」

「……指の怪我だけと思ったらお前は。……はぁ」

「メイドをさせてたんじゃなかったのか?何だって調理場をやらせてた?」

「王妃ですよ。調理場の下働きなら確実に隠せますから。狙うのは分かってましたし。まさか屋敷の人間全てに毒を盛るとは思いませんでしたが」

「ああ、そういうことか。納得はした。しかし数が多いなぁ」

呆れる二人は寝間着の袖を捲って腕の斑についた火傷痕を見てる。

「……ふむ、怪我をしたものは仕方がない。明日、御殿医に薬を届けさせるから、あとは夫婦で話し合え。先程のメイド達には上手いこと言っておこう」

「よろしくお願いします。女にしくじったバカ王子なら覚悟してますけど、暴力夫の名までつくのはごめんです」

「どちらも親としても御免被る。同じ男として暴力夫は最も最低かな」

すぐに陛下は部屋から出ていったけど目の前にリカルド王子が残ってる。

「……申し訳ありません」

しょぼっと項垂れて謝ったらリカルド王子は頭を撫でてる。

何だかんだで湯あみはしたから髪が濡れてる。

「御手が濡れてしまいます」

「そうだな」

リカルド王子の髪もびっしょり。

ポタポタと滴が垂れてる。

湯あみもそこそこに駆けつけた。

多分、途中だったんだと思う。

陛下もびしょ濡れだった。

二人とも濡れたままガウンだけ羽織って駆けつけたから私達が叫んだもん。

前を閉じてくださいって。

でも心配して駆けつけてくれた。

びしょ濡れのガウン姿で。

このままだと風邪を引かせてしまう。

そう思って持っていたタオルをリカルド王子に向けた。

「お拭きいたします」

眉をへにゃっと下げて見上げると私を見下ろしてにぃっと嬉しそうにしてる。

「貸してみろ」

「う、ぷ!」

パッと取り上げて対面に立ったまま私の頭に被せてわしわし。

「あの、私がします」

使用人なんだけど?

「あとで頼む。お前を先にする」

「あ、」

ぐいっと頭を引き寄せるから胸に寄りかかった。

うわお。

近い。

緊張する。

じたばた暴れてもがしっと頭を掴むし、なんとか背中を向けたのに肩を無理やり引っ張られる。

「こっちを向け」

嫌。

怖い。

頭をブンブン横に振った。

「……ふーん。……頭を拭いてもらいたいのに」

「あ、はい。座ってくださいませ」

新しいタオルをテーブルから取って振り向いたらこいこいと手招き。

座ってるから後ろに立とうとしたのに前からだって。

言われたら仕方ないと思って前に垂らした頭をごしごし。

ぎゅ、ぎゅって髪を丁寧に絞る。

「わっ」

いきなり腰掴まれた!

「は、離し、っ」

「この辺にもアザが出来てると聞いたが何をやった?」

「ぶ、ぶつけただけ、」

うあああっ、そこは腰じゃないいい。

お尻ぃ。

「妙なところにばかりだから余計、誤解される。気を付けろ」

お腹に顔を埋めながら抱き締めてむにむに、むにむに。

やーめーてー!

「せっかく何もなく無事だったのに怪我ばかり増やすな。毎日、頑張っていたのは分かるが、こんなに火傷とアザまで作ってたのか。させなければよかった」

「スイ、マセ、ン」

心配されると怒りづらい。

硬直して片言で謝った。

「膝もか」

「……床磨きでよつんばになりますから」

硬い大理石とか。

床磨きは好き。

黙々と出来るから。

ピカピカで鏡みたいになるのも楽しい。

「あわわ、」

また引っ張られた!

「や、やだ」

今度はリカルド王子の膝に座らされて慌ててた。

なんでここなの?!
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