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事が終えたんで、黙って身支度を整えてると背中にまた重しが乗った。

「う、」

重い。

腕も首に巻いて、耳の後ろに息が当たってくすぐってぇし。

むずむずする。

じっとしてるとくしゃくしゃ頭を撫でて手が静かに体から離れた。

「じゃぁ夜」

「分かりました」

すぐに部屋を出る気配に俺も窓を開けて空気の入れ換えをした。

窓の縁に手をかけて大きくため息。

あー、外の空気がうめぇよ。

もう少し寝るつもりだったけど起きて仮眠室を出たら会いたくない人物がいた。

「……親父」

お茶を飲みながら手を振っていた。

「い、いつから、いた?」

声が上擦る。

マジでどもる。

「部隊長と入れ違えだ」

「……そうなんだ」

飲んでいるのは湯気のない冷めたお茶。

俺が寝てる間に、一度来てどこか行ってたってことか?

何にしろこれを知られたくはない。

あったまガンガンするわ、いてぇ。

顔が引きつるのを堪えて定位置に座って事務処理を進めた。

その間に親父は今度の王都行きの段取りを簡単に伝えてきた。

「護衛の人数は今までのメンバーに五人増やすそうだ」

「五人?馬車を一つ増やすのに少なくねぇ?」

手を止めて親父に向き直った。

「空の馬車だ。大した護衛はいらない。向こうから数人引き抜いて帰る予定だし、行きは部隊長とアリオンが組む」

「アリオン?咎人のあいつは王都に入れないはずじゃ?」

本人は主人の暴挙を止めようとしたと証明されたが、王家の反逆者に仕えていた騎士だ。

王家に弓を引いた主人の咎は血縁のみならず使用人にも掛かる大罪で、今は偶然が重なって処刑を免れていたとしても、王都の訪問は許されないのに。

「コルトナー領や他領へ尽力した功績が認められた。陛下から許可が出たらしい」

「……そんなことあるの?」

「……前例は知らんが。……アリオン本人と家の功績もある。騎士の名門だったザザ家から王家に騎士が何人も排出しているからな。先代、先々代の時代に活躍したザザ家の騎士がいるから、御家断絶を惜しむ声が増えて風向きが変わったとカナン様は仰っていた」

そこまで言うと、少し前のめりに声をひそめた。

「それにカナン様が手筈を整えた。何かお考えがある」

「……例えば?」

全然検討つかないんだけど。

「アピールだろう。王家への」

「あいつを手なずけたってことがそんなに意味があるのか?」

「今は囚人出身の奴隷だが、もとは有名なザザ家の直系。王都で行われる剣技大会で入賞の常連だ。それを懐刀と見せびらかすなら、従えさせたカナン様の手腕を見せつける良い機会。他家への牽制にも役立つし、お坊っちゃま達の評価にも繋がる」

「へぇ、そこまで価値があるのか。あの継ぎはぎの評判なんて大して聞いたことないのに」

親父達と交代で行くけど、剣技大会以外で名前を耳にしたことはなかった。

「私も知らなかった。どうやら王家と高位貴族の間でアリオンはかなり有名人らしい。下々の俺達が関わることじゃない」

面白くねぇ。

とことん雲の上の人かよ。

今は奴隷なのに。

ダグのことも何もかも。

障害を物ともせずに欲しいものを手に入れて出世していくことに嫉妬が出るわ。

こんちくしょう。

「話は了解。あ、親父。今日、ベイル部隊長のところで宅飲み」

いつもの報連相。

「さっき聞いた」

「……ベイル部隊長から?」

「ああ」

「すれ違い様?」

「……そうだよ?」

どもるな、親父。

いつから聞いてやがった。

ああもう、腹まで痛くなってきた。

「うおっほん、それよりお前のもついでに支度を進めておくからな」

「……よろしくぅ」

慌てて話を変えた親父に暗い声で返事をした。
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