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番外編
新しい口紅
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やっと解放された。
奥に仕舞っていた赤みの強い口紅や頬紅を化粧台に並べる。
本当は侍女にさせれば良いけど自分でやりたかった。
心が騒いでる。
お気に入りなんだもの。
使うなと言われてる間も新作を買いそろえていた。
ひとつひとつ、手にとってじっくり眺めながら入れ物のデザインに目を細める。
彫り物や螺鈿、陶器と作り手によって異なる。
それぞれの美しさにときめく。
小さな小物。
金の猫足がついていたり本物と見間違うような薔薇の彫り物が装飾されていたり。
手のひらにおさまる小さなものから少し大きめのものと形と色、手触りは様々。
我が家で私と妹は高位貴族向けの化粧品やドレス、アクセサリーを研究するの。
依頼があれば私達はご婦人やご令嬢達へ装いの相談相手を務める。
母国では私達姉妹は男爵令嬢という低い貴族階級だけど親戚の公爵家からの後押しでファッションリーダー的な存在だった。
なのに別れた婚約者の母親ときたら。
私達の顔合わせをする前に婚約者のマナーとしてお家の仕来たりを尋ねると華やかにすると良くないとうるさかった。
男爵家の令嬢は模造品の宝石、地味な色とシンプルなデザインしか着用が許されないと言うから驚いた。
私達だって馬鹿じゃない。
嘘だって分かる。
この国の方々と交流するけどそんな話は聞いたことないもの。
装いを聞いたのだってこっちはお愛想のつもり。
最低限、領地で作っている物を使ってくれと言われるか親戚や社交界の力関係で避けてほしい装いなんかを尋ねただけよ。
父と母はあちらに仕来たりがあるから合わせた方が良いと言うので仕方ないと諦めた。
もともと私がバカだったんだもの。
絵姿を両親に見せられて相手の顔の良さに二つ返事で了承してしまった。
顔合わせの前に婚約を了承してしまったのは本当に失敗。
先に仕事の都合でお会いしていた伯爵に不愉快はなかった。
普通のかた。
むしろ仕事において我が家では信頼してたし、叔父に当たる公爵のお勧めの候補。
まさかあんなひどい息子と母親とは思わなかった。
婚約してからずっとすごく後悔してた。
恥ずかしくて誰にも言えなかった。
何度も泣いた。
でもあの時、あの馬鹿男からみっともなくて恥ずかしい婚約者と言われてプライドズタズタ。
残りかすのプライドをかき集めてそれならいいわよって開き直ったの。
おだてて調子つかせてさっさと誓約書を書かせた。
あの人は気づいてないけどちょっと唆せばすぐに言う通りに書いてくれた。
私に非があるから破談を強く望むってね。
無茶苦茶な婚約解消の理由。
家に不利益を与える不誠実な行動の数々。
こっちが賠償を求めることができるって気づいてない。
婚約者に冷たいと言うだけじゃなくて馬鹿なんだって腹の底で大笑いした。
上手くいった爽快でさっぱり。
帰宅途中の馬車の中で御者が心配するほど跳び跳ねて大笑いした。
破談になってもっと惨めに感じるかと思ったらそんなことない。
似合わないドレスと崩れた化粧を人に見られて不愉快に浸るくらいならパーティーから抜け出したした方がいいもの。
今回の破談は嫁入りすると本性が出るものだし、婚約期間中に分かってよかったと既婚の身内から慰められた。
私も反省ね。
見た目と評判だけで相手を選んでしまって。
こうやってちゃんと吟味しなきゃ。
目の前に飾った化粧品の数々。
今年の新作はどれもよかった。
特に見た目がよくて使い心地がよかったものを取り出して唇に塗る。
この色は私の肌と特に合うの。
発色が良くて触りたくなる唇。
色ひとつで私を輝かせてくれる。
気分も最高にしてくれる。
そんな相手がいい。
もちろん私も。
数ある中から選ばれて、相手から君じゃなきゃって思われたいわ。
~終~
奥に仕舞っていた赤みの強い口紅や頬紅を化粧台に並べる。
本当は侍女にさせれば良いけど自分でやりたかった。
心が騒いでる。
お気に入りなんだもの。
使うなと言われてる間も新作を買いそろえていた。
ひとつひとつ、手にとってじっくり眺めながら入れ物のデザインに目を細める。
彫り物や螺鈿、陶器と作り手によって異なる。
それぞれの美しさにときめく。
小さな小物。
金の猫足がついていたり本物と見間違うような薔薇の彫り物が装飾されていたり。
手のひらにおさまる小さなものから少し大きめのものと形と色、手触りは様々。
我が家で私と妹は高位貴族向けの化粧品やドレス、アクセサリーを研究するの。
依頼があれば私達はご婦人やご令嬢達へ装いの相談相手を務める。
母国では私達姉妹は男爵令嬢という低い貴族階級だけど親戚の公爵家からの後押しでファッションリーダー的な存在だった。
なのに別れた婚約者の母親ときたら。
私達の顔合わせをする前に婚約者のマナーとしてお家の仕来たりを尋ねると華やかにすると良くないとうるさかった。
男爵家の令嬢は模造品の宝石、地味な色とシンプルなデザインしか着用が許されないと言うから驚いた。
私達だって馬鹿じゃない。
嘘だって分かる。
この国の方々と交流するけどそんな話は聞いたことないもの。
装いを聞いたのだってこっちはお愛想のつもり。
最低限、領地で作っている物を使ってくれと言われるか親戚や社交界の力関係で避けてほしい装いなんかを尋ねただけよ。
父と母はあちらに仕来たりがあるから合わせた方が良いと言うので仕方ないと諦めた。
もともと私がバカだったんだもの。
絵姿を両親に見せられて相手の顔の良さに二つ返事で了承してしまった。
顔合わせの前に婚約を了承してしまったのは本当に失敗。
先に仕事の都合でお会いしていた伯爵に不愉快はなかった。
普通のかた。
むしろ仕事において我が家では信頼してたし、叔父に当たる公爵のお勧めの候補。
まさかあんなひどい息子と母親とは思わなかった。
婚約してからずっとすごく後悔してた。
恥ずかしくて誰にも言えなかった。
何度も泣いた。
でもあの時、あの馬鹿男からみっともなくて恥ずかしい婚約者と言われてプライドズタズタ。
残りかすのプライドをかき集めてそれならいいわよって開き直ったの。
おだてて調子つかせてさっさと誓約書を書かせた。
あの人は気づいてないけどちょっと唆せばすぐに言う通りに書いてくれた。
私に非があるから破談を強く望むってね。
無茶苦茶な婚約解消の理由。
家に不利益を与える不誠実な行動の数々。
こっちが賠償を求めることができるって気づいてない。
婚約者に冷たいと言うだけじゃなくて馬鹿なんだって腹の底で大笑いした。
上手くいった爽快でさっぱり。
帰宅途中の馬車の中で御者が心配するほど跳び跳ねて大笑いした。
破談になってもっと惨めに感じるかと思ったらそんなことない。
似合わないドレスと崩れた化粧を人に見られて不愉快に浸るくらいならパーティーから抜け出したした方がいいもの。
今回の破談は嫁入りすると本性が出るものだし、婚約期間中に分かってよかったと既婚の身内から慰められた。
私も反省ね。
見た目と評判だけで相手を選んでしまって。
こうやってちゃんと吟味しなきゃ。
目の前に飾った化粧品の数々。
今年の新作はどれもよかった。
特に見た目がよくて使い心地がよかったものを取り出して唇に塗る。
この色は私の肌と特に合うの。
発色が良くて触りたくなる唇。
色ひとつで私を輝かせてくれる。
気分も最高にしてくれる。
そんな相手がいい。
もちろん私も。
数ある中から選ばれて、相手から君じゃなきゃって思われたいわ。
~終~
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