うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第三章※その後

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あれはかなり堪えた。

一週間たつのにまだ本調子に戻らない。

屋敷に着いてマックスから稽古をねだられたが、相手できなかった。

体のせいもあるが、全身縄の跡だらけだ。

人前で脱げん。

それに下半身がおかしい。

やっとまっすぐ立って歩けるようになった。

あの街を出るのも大変だった。

嫌だったが、ビスに支えられながら馬に乗った。

以前、フノーにバレたのを思い出して誤魔化そうとするのにまともに動けん。

自然と体が前のめりになり、重心かずれる。

定例会を終えた後、ドルに捕まった。

「怪我してるなら診てやろうか?」

「ああ、きつそうだ。大丈夫か?ドルに診てもらえ。」

「いや、いい。…放っとけば治る。」

そ知らぬ顔をしているが、ドルとパウエルにはバレてるんじゃないかと不安だった。

二人の心配そうな顔が恥ずかしくて見れない。

頼むから何も言わないでくれ、と願った。

間違いなく俺は憤死する。

特にお嬢様とマックスに知られたら舌を噛んで死ねる。

「僕が診たから大丈夫だよ。」

ビスが隣に来て二人に説明していた。

「そうか?でも、本調子じゃなさそうだ。」

「しょうがないよ。まだ治りかけだから。」

ビスに腰を引かれてよろけた。

「何したんだ?お前。」

「…落馬。」

ドルの問いにうつ向いて答えた。

落馬なんか子供の頃に数えるほどしかない。

今は落馬したとしても受け身をとれる。

怪我をしない自信の方がある。

何でもいいから誤魔化したい。

「…珍しいな。」

「…もう聞くな。」

腰に当たるビスの手が熱い。

いつまで触ってんだ、このやろ。

こいつのせいだといら立って手を叩き落とす。

「あいたぁ、」

呑気に手をぷらぷらと振っているのをジロッと睨むと楽しそうに笑ってやがる。

「触るな。」

離れたいのに素早く動けん。

こいつは俺の回りをちょろちょろ動いて甲斐甲斐しく世話を焼く。

皆が不思議そうに見ていたが、それも気にせず俺を構う。

黙って睨むくらいしか出来ん。

「ねえ、ムスタファ。」

「はい。」

お嬢様の声に振り返る。

「仮眠室が足らないから今日はここに泊まってね。はい、地図。」

「あ、はい。」

「出立は1週間内ね。長引くなら報告。」

「はい。」

「あ、そうだった。皆に報告。さっきの定例会で言い忘れてた。集合。」

そのひと言にぱっとビスもマックスも全員集まった。

「結婚、決まったよ。」

「は?」

「え?」

「誰のですか?」

「私の。」

「「はあああ!!!?」」

今年のデビューと同時に婚姻らしい。

お相手は現国王陛下の第三子。

旦那様より彼の方と婚姻すれば、公には第三王子を当主に据えて、実権は女であらせられるお嬢様に世襲が出来るそうだ。

「お相手との顔合わせは大丈夫、でしたか?」

第三王子は引っ込み思案で有名だ。

王都にいた俺でさえお姿を見たことも聞いたこともない。

噂ではなかりの醜男だと聞いている。

「えー?…えーとね。…大きくて可愛かったよ。」

顔を赤らめて恥ずかしそうに答えた。

どうやら感触は悪くなかったようだ。

「ほお、可愛いですか。どんなところがですか?」

パウエルは微笑ましげに尋ねた。

「森の熊さんって感じ。昔、あのくらいの縫いぐるみをお父様がくれたから懐かしいなぁって。」

「え?あれは縫いぐるみではなくて、」

マックスの戸惑った声に顔を向けると、こそっと耳打ちしてきた。

「…かなり、大きな剥製です。…このくらいの。」

手を頭より高くかざして大きさを見せられた。

「…可愛いのか?」

「…本物の剥製ですよ?」

可愛いわけない。

どうやらお嬢様の感覚も人並み外れているようだ。

大まかな書類仕事は本邸で処理して、この屋敷の采配はマックスの姉に任すそうだ。

「今までと流れは変わんないって。大丈夫よ。」

「…俺は、ここからお嬢様が離れるというだけでショックです。」

俺はどうやらお嬢様との縁が薄いらしい。

「ちゃんと定例会には私が来るから。顔を会わす頻度は変わらないよ。」

「…はい。」

ショボくれてると両手で手を握られ、下から覗かれた。

「本邸だと自由に入れないから嫌なんでしょ?」

「はい。」

色を理由に本邸への出入りは制限されてる。

それだけでお嬢様への壁を感じる。

「大丈夫。私が必ずどうにかしてあげるから。信じて待ってなさい。」

にこっと微笑まれて口許が緩む。

「分かりました。」

「私、とっても賢いでしょ、それに逞しい。」

見上げるお顔が可愛らしくて、そのくせ緑の瞳は冷たく細めている。

「私ね、あんな居心地悪いところだぁいきらい。…本邸のお掃除して皆を迎え入れるからね。」

「何かお考えがございますか?」

「ふふ、あるよ。今は内緒ね?」

「かしこまりました。それまで私はいかが致しましょうか?」

「…それまで、抜かりなく日々を過ごして。それだけ。…皆もよ?わかった?」

ちらっと目線を向けると皆は居ずまいを正して恭しく頭を下げた。

「私共はお嬢様のお心のままに。」

年長のパウエルが膝まずいて答えた。

皆も慣れているようで女王然と振る舞うお嬢様に驚く様子もなく、後ろに控えたドル達は膝を落として深く頭を垂れた。

俺も膝をついてお嬢様が包んだ自身の手に額を当てる。

「私の主人。あなたのお心のままに。」

髪に温もりを感じた。

「私の可愛い子達。あなた達は私の兄であり父であり愛する家族。」

そこから声が響く。

口付けを受けた光栄に目を閉じた。

「ズルいです。」

パウエルの拗ねた声にお嬢様はくすくすと笑った。

「そうかな?」

「そうですよ。幼い頃から姫の口づけは我らの栄誉ですから。」

「じゃあ、はい。」

とと、と寄って頬にキスを。

「パウエル、私の家族。」

「はい。光栄です。」

「ドルもする?」

「こんな、じいにもしてくださいますか?」

ドルが日焼けした顔を赤くして頷いた。

「ドル、私の家族。」

赤い頬に。

「ビスとマックスは?」

「僕もぜひ。」

ニコニコと頬を出して微笑んだ。

「ビスも、私の家族だよ。」

「僕の主人はお嬢様だけですよ。他の奴等なら針鼠だ。」

「えー?針鼠?」

「ええ、そうですよ。」

「面白そう。今度、やり方教えてね?」

「はい。もちろん。全身の急所をお教えしますよ。」

俺も慌てたがドルも慌てている。

「ビス、まて。それはいかん。」

「ただの護身術ですよ。」

「そうなんだ。なら習っていいよね。」

刺繍を教えるような軽さ。

「パウエル、止めろ。」

「無理だろ。どうせこっそり習う。それに護身術と思えばビスの技は最適だ。そう思わんか?」

「…確かにそうだが。」

ドルが口ごもるとパウエルが諦め顔で頭を振った。

「考えてみろ。お嬢様は火の粉を避けずに飛び込む質だ。どうせなら何でも学ばせた方がいい。」

「…ああ、確かに。…うう、仕方ない。…どんどんネバに似ていく。…お嬢様まで弓とダガーが得意になっちゃって。ああ…。」

頭を抱えて丸くなるドルの背中をパウエルが叩く。

「…何かきっと役に立つ。」

お嬢様はそのやり取りの横でマックスの頬にも口づけをしている。

「マックスも、私の家族。」

昔と違って恥ずかしがることも赤らめることもなく穏やかに笑っていた。

「可愛い妹ですね。お嬢様にお仕えできて幸せです。」

「リザリーも私を妹って呼ぶよ。ふふ、」

何年もたつのに。

二人の微笑みは昔のままだ。

幼い二人。

初めて会った日。

つられて微笑みがこぼれる。

あのビスでさえ二人の様子を嬉しそうに見つめていた。
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