41 / 67
第二章※イルザン
3
しおりを挟む
キスをしたけど嫌われてない。
あのあと、いつものように酒を飲んで仲良く出来た。
まだチャンスがあるように思えて、それだけで朝から機嫌がよかった。
朝飯を食べに食堂に向かう途中で同じ隊のやつらにからかわれた。
「今から飯か?」
「ああ、そっちは?」
「もうすんだ。それよりよかったな、イルザン。」
「おめでとう。」
「何が?」
「ムスタファと上手くいったんだろ?食堂はその話で持ちきりだぞ。」
昨日の往来でのキスをよその隊員達が見ていて食堂で暴露されたと。
「うそぉ…」
慌ててムスタファを捕まえて謝ろうとするのに、逆に囲まれてて助かったとお礼を言われる。
しどろもどろしてる内に、他の隊員からバレた。
何か察したようでいつもの無表情が剣呑さを漂わせて俺を睨む。
ごめん、と謝るのにすかさず頭を握って潰そうとしてきた。
痛さのあまり、ぎゃあぎゃあ騒ぐと回りの隊員がムスタファと引き離してくれた。
許してほしくて立ち上がって頭を下げた。
「二度とするな。…殺すぞ。」
頭を下げててどんな顔か見えない。
でも、絶対怒ってる。
初めて聞く、今までで1番低い唸るような声。
殺すと脅されたことよりもう二度キスさせてもらえないの方がツラかった。
その日の内に隊長に呼び出された。
「お前、何をやらかした?」
「…はい。」
正直に事の起こりを伝えた。
「ばかたれ。」
「すいません。」
「…はあ。あいつ、ああ見えて繊細だからなぁ。偏見にもだいぶ憔悴してる。モテて何でも食べるような性格だったらまだ気楽だったろうに。」
「はい。」
そしたら俺もチャンスがあった。
項垂れてると隊長のため息が聞こえた。
「あいつの立ち位置、お前よりキツいんだぞ。悪目立ちさせるな。」
「…はい。」
隊の中でなら大してないけど、外に行けば見掛けで苦労してるのがわかった。
しばらく医局勤めでなかなか隊に戻ってこなかった。
食堂で一人でいるのを見かけて話しかけるがまわりにからかわれて睨まれる。
「寄るな。」
「ごめん。」
しばらく疎遠になり、久々に鍛練にムスタファが参加する。
午前中は医局で過ごし、午後からムスタファも他の部隊との合同鍛練に参加する。
もう一度謝ろうとするのに避けられた。
いつもは俺と組むのに、嫌がって一人でいたがった。
うちの隊員は俺がムスタファに惚れてると分かってるから誰も手を出さない。
よその隊員はムスタファとやり合って負けるのが嫌で相手にしたがらない。
組手の相手が見つからずまごつくムスタファに呆れた先輩が声をかけていた。
「ムスタファ、意地を張るな。」
先輩がなだめて俺のグループに入っていつものように組手をする。
他の部隊の隊員がからかってくるのをムスタファは無表情を通すが、内心のいら立ちが組手の雑さに現れた。
「珍しく勝てたぜ。」
「俺は初めてだ。」
何人か交代で取組み、負けたことのない相手にさえ負けていた。
「調子悪いな。」
仲間内からの言葉にブスくれながら頷いた。
俺が話しかけると怒った顔で睨む。
「先に戻る。ムスタファはあとから来いよ。」
ムスタファを残し、先輩に引っ張られた。
「いや、ムスタファも一緒に、」
「やめとけ。ムスタファはまた自主連するつもりだ。」
ドスン、ドスンと打ち込みの音が聞こえて振り返ると、練習用の柱に拳を当てて蹴りを入れていた。
「俺も、」
「邪魔してやるな。」
「…はい。」
いつまでも振り返りながら見てると先輩らが笑った。
「そんなに好きか?」
「え?あ、はい。」
「はは、そうか。襲うなよ。」
「無理っすよ。ムスタファの方が強いから。」
勝てる気がしない。
若い隊員の中ではムスタファと俺がツートップだ。
隊の古参メンバーの組手に呼ばれるくらいの実力。
隊長ともそれなりにやれる。
体格の差はでかい。
「少しでも好かれたいですね。」
押しだけじゃだめだ。
嫌がられてるうちは。
「揉めなきゃなんでも。俺達は構わん。」
先輩らは笑った。
「何か良い知恵ないですかね?」
「どうだろうね。ノン気の年下相手に。」
話していたらムスタファが隊長と話していてた。
「ムスタファの食わず嫌いが治るば変わるんじゃないか?」
「食わず嫌い?」
「男も女もやってみりゃ気持ちいい。」
「やれば良いのにな。」
「そうっすね。」
本当は嫌だけど。
「くく、おいおい。そんな顔するなよ。」
「へ?」
「捨てられた犬みたいな、はは、」
「はは!どんだけ、はは、」
「くく、こういうのは惚れた方が負けだぞ。あはは!」
先輩らにゲラゲラ笑われてからかわれたけど、俺はムスタファが好きだからどうってことない。
でも、ムスタファは違うんだよなぁ。
そう思ったらため息が出た。
飯も別々。
遠くに座ったあいつを昔みたいにこっそり眺めるしかなかった。
「おい、イルザン。聞いたか?ムスタファがあの娼館のハシントを落としたって。」
「うそぉ、」
「隊長が紹介で連れていったらしいぜ。」
今、花街でトップの男娼だ。
寝れば天国に行けるって。
そんなの敵うわけないじゃん。
「うそぉ…」
がっかりしているのは俺だけじゃない。
ムスタファに恋してた奴らは軒並み倒れた。
あのあと、いつものように酒を飲んで仲良く出来た。
まだチャンスがあるように思えて、それだけで朝から機嫌がよかった。
朝飯を食べに食堂に向かう途中で同じ隊のやつらにからかわれた。
「今から飯か?」
「ああ、そっちは?」
「もうすんだ。それよりよかったな、イルザン。」
「おめでとう。」
「何が?」
「ムスタファと上手くいったんだろ?食堂はその話で持ちきりだぞ。」
昨日の往来でのキスをよその隊員達が見ていて食堂で暴露されたと。
「うそぉ…」
慌ててムスタファを捕まえて謝ろうとするのに、逆に囲まれてて助かったとお礼を言われる。
しどろもどろしてる内に、他の隊員からバレた。
何か察したようでいつもの無表情が剣呑さを漂わせて俺を睨む。
ごめん、と謝るのにすかさず頭を握って潰そうとしてきた。
痛さのあまり、ぎゃあぎゃあ騒ぐと回りの隊員がムスタファと引き離してくれた。
許してほしくて立ち上がって頭を下げた。
「二度とするな。…殺すぞ。」
頭を下げててどんな顔か見えない。
でも、絶対怒ってる。
初めて聞く、今までで1番低い唸るような声。
殺すと脅されたことよりもう二度キスさせてもらえないの方がツラかった。
その日の内に隊長に呼び出された。
「お前、何をやらかした?」
「…はい。」
正直に事の起こりを伝えた。
「ばかたれ。」
「すいません。」
「…はあ。あいつ、ああ見えて繊細だからなぁ。偏見にもだいぶ憔悴してる。モテて何でも食べるような性格だったらまだ気楽だったろうに。」
「はい。」
そしたら俺もチャンスがあった。
項垂れてると隊長のため息が聞こえた。
「あいつの立ち位置、お前よりキツいんだぞ。悪目立ちさせるな。」
「…はい。」
隊の中でなら大してないけど、外に行けば見掛けで苦労してるのがわかった。
しばらく医局勤めでなかなか隊に戻ってこなかった。
食堂で一人でいるのを見かけて話しかけるがまわりにからかわれて睨まれる。
「寄るな。」
「ごめん。」
しばらく疎遠になり、久々に鍛練にムスタファが参加する。
午前中は医局で過ごし、午後からムスタファも他の部隊との合同鍛練に参加する。
もう一度謝ろうとするのに避けられた。
いつもは俺と組むのに、嫌がって一人でいたがった。
うちの隊員は俺がムスタファに惚れてると分かってるから誰も手を出さない。
よその隊員はムスタファとやり合って負けるのが嫌で相手にしたがらない。
組手の相手が見つからずまごつくムスタファに呆れた先輩が声をかけていた。
「ムスタファ、意地を張るな。」
先輩がなだめて俺のグループに入っていつものように組手をする。
他の部隊の隊員がからかってくるのをムスタファは無表情を通すが、内心のいら立ちが組手の雑さに現れた。
「珍しく勝てたぜ。」
「俺は初めてだ。」
何人か交代で取組み、負けたことのない相手にさえ負けていた。
「調子悪いな。」
仲間内からの言葉にブスくれながら頷いた。
俺が話しかけると怒った顔で睨む。
「先に戻る。ムスタファはあとから来いよ。」
ムスタファを残し、先輩に引っ張られた。
「いや、ムスタファも一緒に、」
「やめとけ。ムスタファはまた自主連するつもりだ。」
ドスン、ドスンと打ち込みの音が聞こえて振り返ると、練習用の柱に拳を当てて蹴りを入れていた。
「俺も、」
「邪魔してやるな。」
「…はい。」
いつまでも振り返りながら見てると先輩らが笑った。
「そんなに好きか?」
「え?あ、はい。」
「はは、そうか。襲うなよ。」
「無理っすよ。ムスタファの方が強いから。」
勝てる気がしない。
若い隊員の中ではムスタファと俺がツートップだ。
隊の古参メンバーの組手に呼ばれるくらいの実力。
隊長ともそれなりにやれる。
体格の差はでかい。
「少しでも好かれたいですね。」
押しだけじゃだめだ。
嫌がられてるうちは。
「揉めなきゃなんでも。俺達は構わん。」
先輩らは笑った。
「何か良い知恵ないですかね?」
「どうだろうね。ノン気の年下相手に。」
話していたらムスタファが隊長と話していてた。
「ムスタファの食わず嫌いが治るば変わるんじゃないか?」
「食わず嫌い?」
「男も女もやってみりゃ気持ちいい。」
「やれば良いのにな。」
「そうっすね。」
本当は嫌だけど。
「くく、おいおい。そんな顔するなよ。」
「へ?」
「捨てられた犬みたいな、はは、」
「はは!どんだけ、はは、」
「くく、こういうのは惚れた方が負けだぞ。あはは!」
先輩らにゲラゲラ笑われてからかわれたけど、俺はムスタファが好きだからどうってことない。
でも、ムスタファは違うんだよなぁ。
そう思ったらため息が出た。
飯も別々。
遠くに座ったあいつを昔みたいにこっそり眺めるしかなかった。
「おい、イルザン。聞いたか?ムスタファがあの娼館のハシントを落としたって。」
「うそぉ、」
「隊長が紹介で連れていったらしいぜ。」
今、花街でトップの男娼だ。
寝れば天国に行けるって。
そんなの敵うわけないじゃん。
「うそぉ…」
がっかりしているのは俺だけじゃない。
ムスタファに恋してた奴らは軒並み倒れた。
0
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)



家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる