うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第二章※イルザン

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黒髪の長身。

それだけでも目を引くのに遠目からも分かる褐色の肌と黒い目。

同じ人間と思えなかった。

蔑むって意味じゃなく。

街で見掛ける貧民街の肌と同じなのに存在感がすごかったんだ。

まっすぐ伸びた背中。

高飛車につんと尖った形のよい鼻筋。

すっきりしたラインの唇と顎。

あんなに離れた所から一人だけ頭ひとつ飛び抜けて、見目のよさが際立ってる。

後列に並ぶと言うことは最年少の15のはずなんだけど、俺と変わらなそうな、それより目上に見える貫禄を持ってる。

それでもよく見ると、年相応な顔に緊張でピリピリした空気を漂わせて、生意気そうな黒い目の中にはいくつもの星が見えた。

あんな目を引く男は見たことなかった。

訓練所でおこなわれる新兵の入団式。

簡易的なもので教育係りが簡単な声をかけるだけのものだ。

これが終わればすぐに訓練開始。

半年から一年ほど、そこで鍛えられて隊からスカウトされる。

されなかったら適当に配属されるだけだ。

新人発掘を狙う上司連中はほぼ見に来てる。

俺はあの時、不在の副隊長の代わりに書類持ちとしてお供していた。

「ずいぶん、珍しいのがいるな?イルザン、あいつの書類は?」

「え、あ!はい。」

「もたつくな。」

「はい。」

腕に番号を塗られている。

51番。

「へぇ、軍医見習いか。…ふぅん。」

飽き性の隊長がじっくり褐色の新入りの経歴を眺めていた。

こちらを見ずにぱっと渡された書類を受けとる。

俺も興味があったから名前と経歴を見つめた。

名前ムスタファ、後見人リトグリ公爵当主。

「大物ですね。」

公爵の名前に驚いた。

「そうだなぁ。こいつ、うちでも狙えるぞ。」

「うちの隊に?いいんですか?」

どの隊も貴族ばかりで下手に身分の低い者は入れたがらない。

俺の所属する隊は身分と能力を満たすことが条件と思われてるが、実際は能力さえ満たせばいい。

だが、自然と高等教育を施された高位貴族の集まりになっている。

「ああ、デカイ後ろ楯がついてる。問題ない。経歴を見る限り能力も問題なさそうだ。」

書類にはリトグリ公爵家の医師団見習いとある。

「でも、医師見習いですよ?」

「ばか、軍の医師の半数はリトグリ公爵領出身だ。」

「え?そうなんですか?」

「前線に来る軍医のほぼ全員がこの医師団出身。どうやったのか知らんが、化け物育ての領地だよ。」

嬉しそうな顔で話をしている。

前線についてくる軍医は貴重だ。

一兵士と変わらない動きと医術を叩き込まれてる。

仕事も俺達一兵士と比べたら2倍。

「良いもの見っけたわ。」

「はい。ぜひ、うちにほしいですね。一緒に働いてみたいです。」

鍛練中のムスタファに見とれながらほくほく顔の隊長に答えた。

脱いでも格好いい。

今は上の半身を脱いで剣を持って並んでる。

相手が見つからないんだ。

仕方なしに順番を待ってる。

つまらなそうに前方の打ち合いを眺めてる。

むっと唇を膨らませて、それはかわいいと思った。

「ん?…ああ、お前。まさか、」

「え?はい?何か?」

「…あー、そっか。…こういう問題がありそうだな。…あー、」

「へ?」

「んー…、俺は興味ないけど。女がいいから。」

「え?」

「よく見たらどいつもこいつも色眼鏡で見てるなぁ。こりゃあ、保護かな?」

なんの何のことか分からなかったが、隊長の視線を追うと他の部隊長らの視線に熱っぽいものがあり、その視線の先はムスタファだった。

「隊長ぉ、やばいですよお。早くうちの隊に入れましょうよ?」

「折を見てだな。意外と本人乗り気かもしれんし。」

「そんなぁ、」

「俺は本当にわからん。あんだけの色男だ。あー?歳は15だっけ?書類貸せ。…なんだ。まだ14か。だが、あんな見かけなら男も女もなんでもありだな。」

「ええ、そんなぁ。」

「とりあえず様子見だな。」

そのあとも隊長とムスタファを眺めてたら、剣も格闘技も得意なようで。

50人以上の人数と25歳までの新入りの中で最年少のムスタファが1番となった。

「カッコよかったぁ…」

「やっぱりうちの隊に欲しいなぁ。他の色好みの隊に持ってかれるには惜しい。…イルザン、お前はしゃんとしろ。副隊長の代わりなんだからそのだらけた顔を何とかしろ。」

「あ、はい。」

それからもしょっちゅうボーッとして叱られた。

隊が違うからなかなか見ることはないけど。

また見たい。

そんなことを考えてボーッとしていると食堂で友人らの話を聞きそびれた。

「見たか?今年の新入り。おい、イルザン。」

「え?あ?何?」

「色違いが混じってる。」

「お、マジかよ。手癖悪いんじゃねえだろうな。」

「いや、デカイ後見人がついてるらしい。肝入りだ。」

「尻振って入ったか?はは。」

実際、そういう奴もいるから笑えない。

貴族の血縁なら簡単だが、庶民出の俺らはよっぽどの能力か上からの口添えがないと入隊は無理だ。

入っても頭打ち。

雑用だけの人生。

回りに察してる奴等もいるが、俺も貴族に媚び売ってここまで来た。

女受けする見掛けのおかげで貴族のご婦人方のね。

未亡人やら変態趣味のご夫婦やら。

ある程度お付き合いした。

今は懇ろになってた未亡人が再婚されて、縁は切れた。

実力は申し分ないってことで上に認められて不必要に貴族の誘いに乗ることもしなくてよくなったし。

「イルザン、見たんだろ?そいつ。」

「ああ、見たよ。カッコよかった。」

「はあ?」

「どういうことだ?」

驚いた顔が集まってきた。

正直に新人の中では強いと見たことを話すと皆は面白がっていた。

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