うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

文字の大きさ
上 下
32 / 67
第一章※本編

31

しおりを挟む
帰りは狭い馬車道を下る。

「こっちの方が早いんじゃないか?」

「僕は登った方が早い。」

「そうか。」

昨日遅くなったと言いたいのだろう。

俺がいなきゃ午前中にはついていたはずだ。

悔しいがしょうがない。

こいつの身軽さは俺以上だ。

「…すごいな、あんた。」

「どうも。非力だけどね。」

声は笑っている。

機嫌は良さそうだ。

旧道に出る。

「次は?」

「街へ戻る。」

「わかった。」

そのまま道なりに進む。

昨日と違いゆっくりと歩く。

夜になると道沿いに野宿をした。

「火を起こすのか?」

驚いて尋ねた。

「釣り。」

「あ?」

「掃除をする。」

ますますわからん。

「相手は5人組らしいよ。」

「なんのことだ?」

「この辺りで暴れてる奴等がいるって。今日の患者から聞いた。街に品物を卸しに行けず困ってるって。」

「誘き寄せるのか?」

「うん。楽しみ。」

やはり変わってる。

ドル達と回ったがわざわざ火の粉を呼ぶことはしなかった。

「大丈夫なのか?」

「不意より待つ方が楽。自信ないなら引っ込んでていいよ。」

ムッとした。

「そういうことじゃない。」

「ならいいね。」

焚き火の揺らめきにこいつの目が光る。

優男風の見た目に反して中身は好戦的なようだ。

「あんたも、笑ってるね。」

ニコニコと微笑む。

顔を触ると自然と笑っていた。

「ああ、嫌いじゃない。」

身分だ規則だのうんざりしていた。

暴れる方が好きだ。

「良かった。」

「火を炊くなら飯にしよう。食べるか?」

「何作るの?」

「干し肉とその辺の草だな。」

「肉があれば何でもいいよ。何か手伝う?」

「いや、特にない。」

回りに石を並べて簡易の竈を作る。

塩を入れて干し肉が柔らかくなったら出来上がりだ。

「ウマイね。」

「どうも。」

二人で平らげる。

大した量は作ってない。

火をそのままにローブを巻いて懐に剣を抱いて眠る。

今日はあいつも横になって眠るらしい。

特に何も起きないまま朝を迎えた。

神経を研いで寝たから眠い。

「来なかったな。」

「そのうち釣れるよ。」

朝になり支度をして街に戻った。

午後にはまた旧道を。

脇道を通って次の村に。

今度は崖のない坂道を通った。

「近道か?」

「いや、普通の道。」

鼻唄を歌いそうなほど楽しそうな様子だ。

次の村でも同じように手早く対応し順調に終えた。

「もう夕暮れだが、泊まらないのか?」

「そろそろ良さそうだから。」

穏やかに笑う。

こいつもつけている気配を感じてるはずだ。

緊張する様子もなくカチカチと腰にぶら下げた棒を爪で叩いて遊んでいる。

その辺で拾った長い棒を落ち葉の隙間をこする。

何をしてるのか計りかねた。

暗く日が暮れて、街道に降りる直前、少し開けた場所に出た。

こいつは足を止めてじっくりと周囲を眺めた。

棒で溜まった落ち葉を掃く。

分かりかねたが、それをじっと見つめた。

こいつは意味のない行動はしない。

ばざっと、二度デカイ音が聞こえた。

暗がりでよく見えない。

「落とし穴と仕掛け編み。」

あちらこちらからがざざっと複数人の走る音。

上からも飛び降りてきた。

落ちてくる気配を察して咄嗟に後ろに飛び退いたが、頬に刃物がかすった。

「ちっ!…おい。5人組じゃなかったのか?」

多い。

10人はいる。

「ムスタファ、顔を怪我したの?」

「いや、かすり傷だ。」

多少、離れているのに暗がりで見えるのか。

俺はやはりこいつほど夜目が利かない。

避けるので精一杯だ。

あいつの方からは本人以外の叫び声がこだましてる。

距離をとりたくて走る。

「ムスタファ!まっすぐ走れ!そのまま街へ行け!」

「くそ、」

逃げるつもりはなかったが、過信した己を恥じた。

少し走れば街道に出た。

月夜だ。

広くて明かりに照らされた道は先程より夜目がきく。

動きやすくなった。

追いかけてきた4人を殴り倒して動けないように手足を折った。

他に俺を追いかけてくる者はおらず、街へ走った。

街と街道の付近まで警らが見回りしていた。

馬を借りて警らと共に急いでアイツのところへ走った。

「あ、早かったねぇ。」

「あ、…ああ。…無事か?」

「こ、これは?1人でですか?」

連れてきた警ら達が青ざめて尋ねた。

「来てくれて助かった。」

松明に照らされた先には10人ほどの男らが呻きながら転がってる。

三人、積み上げた上に座って、どこから出したのか柄と刃が半々の細い剣を器用に回して遊んでる。

「どうやって運ぼうか悩んでた。」

しゃっと音をたてて柄に刃が入る。

それを腰にぶら下げ、側に置いた荷物を背負った。  

「強いな。」

「多少はね。」

柔らかい笑み。

イルザンを思い出すが、違ったものを感じた。

「どうやったんだ?」

「これ。」

手の内側をかざす。

親指で人差し指と中指の刃物を出す。

首をかく素振りを見せる。

「あとこれ。」

腕をまくり手首の革ベルトには長い針を腕に沿って張り付けているのを見せた。

そして喉や胸の急所をとん、とん、と指で叩く。

「あっという間。」

「殺したか?」

「まさか。お嬢様が怖がる。…まあ、あとは知らないけど。」

この後死ぬ分には関係ないと考えてるのか。

「そうか。…こいつら、相手が悪かったな。」

よく見ると顔や体に針を刺されて呻いていた。

容赦のなさにぞっとする。

「あんたの傷は?」

「あ?」

じっと顔を覗きんで、指をさされた。

「あとは残らなそうだね。」

頬のかすり傷。

「良かった。」

ニコニコと微笑まれても恐ろしさしかない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...