うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第一章※本編

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揃ったら来いと言われていたので皆で執務室へと向かう。

部屋には公爵令嬢としてふさわしい装いのお嬢様と姉君が待っていた。

「やっと全員揃ったね。…長かった。」

椅子に腰かけ、主人として立派な様子に目を細めた。

皆で恭しく頭を下げた。

「ムスタファには巡回をお願いするつもりだけど、能力としてはどう?パウエル、ドル。意見を。」

「充分可能かと思われます。」

「奥への訪問も可能と思います。」

奥とは深い山あいの山村だ。

認められた嬉しさがある。

「ビス、マックスは?」

「体格は充分です。技量はまだ測りかねてます。」

「腕については私よりは向いてる、と思います。」

マックスの声が少し下がる。

引き分けか俺の勝ちが続いていた。

「地理の知識は、以前のままよね?ムスタファ。」

「はい。まだ把握しておりません。」

「わかった。…ビスと同行して。折を見て許可を出す。」

「はい。」

こいつとか。

ドルとパウエルはそれぞれ二人の見習いを連れている。

同行には不要だ。

ビスは一人で回っているらしい。

こんな、俺より細っこいのに。

ビスから手を差し出してきた。

「改めてよろしく。」

にこっと柔らかい笑みを浮かべてこちらを見つめる。

先程の獰猛な様子はない。

「世話になる。」

強めに握り返す。

「力はあるね。羨ましい。」

「そうか。」

「ビス、仲良くしてね?意地悪しないでよ。やっと帰ってきたんだから。」

「はい、仰せのままに。」

にこっと笑ってお嬢様に優しげな目を向ける。

俺と同じ瞳だと思えた。

「心から仕えてるのか?」

「もちろんだよ?この仕事で他に何がある?」

「そうだな。」

力強い眸、穏やかな微笑みにこちらも笑った。

「仲間はうれしいよ。よろしく頼む。」

1週間内に出立とそれぞれ言い渡されて荷物の準備を始めた。

マックスから背負うタイプの薬箱を渡された。

「俺ので良ければ。」

「いいのか?」

「使ってください。俺はまだ同行の許可は出ても巡回の許しが下りません。」

「なぜだ?」

「パウエルとドルがお人好しだから向かないって。」

ショボくれたマックスの頭を撫でる。

警戒心が薄いのはわかる。

仕掛けられて反応してたら遅い。

「ここの医者も必要だ。お前じゃなきゃ出来ない。」

領民の対応は俺より上手い。

俺がネバさんに怒られたことだ。

「お嬢様の側にいられるのは羨ましい。頼むぞ。」

恐らく本当の目的はそこだろう。

お嬢様の側に置いておきたいのだ。

「…ええ、守りが得意ですので任せてください。」

にっと笑う。

昔に比べて頼もしくなった。

こいつもかなり強い。

大概の相手には負けない。

不意打ちに弱いだけだ。

支度を終えて1週間後に出立した。

「気をつけてね。ビス、ムスタファを守ってね。また同行者を置いてかないでよ?」

「はい、肝に命じます。」

こいつは連れを置いていく癖があるそうだ。

見習いを1人つけたら山道で何度も置き去りにしてしまい、足手まといだと送り返したらしい。

「ついてこれる?」

「さあな。わからん。」

身軽そうな男だ。

実力がどんなもんか分からんが、一人で動ける程だ。

見かけが細いからと侮る気にもなれなかった。

道中は不快なこともなく多少会話をするようになった。

「得物は?」

「ん?」

薬箱や簡易な荷物。

俺も似たような物だが、俺とは違い武器のような手持ちが見当たらず尋ねた。

「これ。」

腰に細い棒が下がってる。

「それでいいのか?」

「うん。でかいと邪魔。あんたはそれ?」

「ああ、軍で使っていた。」

至って普通の剣を腰からぶら下げていた。

「あんたが持つと小さいね。マックスもだけど。ふふ、」

嫌味な感じはなく、穏やかに笑う。

愛想がよく思ったより話しやすかった。

笑うとハシントに似ている。

何となしに頭がいいんだろうなと思う。

別邸から近くの大きな街に向かう。

そこから屋敷へ報告書を役所に預けた。

乗ってきた馬を預けて、次の日には歩きだ。

「旧道を行くのか?」

表街道と比べて寂れてる。

「そうだよ。釣れるから楽しいんだ。ふふ。」

「あ?」

「近道を通るだけだから気にしないでいいよ。」

「しかも、今日は馬も通れないようなところに行くわけか。」

「そうそう。」

ニコニコとピクニックにでも行くような軽さ。

変わった男だ。

わざわざ危険な街道を選んで歩いてる。

「ここから山に入る。」

「わかった。」

小さな馬車が通るくらい。

脇の細道を指す。

途中、山で野宿をする。

「火はいらないよ。動物避けはある。」

ばさっと辺りにつんとした匂いの粉を撒く。

「これで寄って来ないから。来たら人間だ。」

俺より慣れた様子。

多少の嫉妬が出てきたがすぐに気持ちを切り替える。

「飯は?」

固形食を出して摘まんでいた。

「明日には山村に着くから一晩くらいいいよ。あんたいるの?」

「…いや。」

「そう、なら早く寝なよ。空が白んだら出立だから。」

「暗がりで不便じゃないか?」

「月夜だ。このくらいなら見える。ああ、あんたは違うか。目ぇ真っ黒だもんね。」

くくっとくぐもった笑いが響く。

「いや、夜目はそれなりに利く方だ。」

軍の鍛練で苦手だったがな。

「へえ、珍しい。」

「恐らくお前ほどじゃない。」

「そう。」

寝たら?と言われて大人しく従う。

暗がりで横になるが、ふと見るとこいつは座ったままだ。

棒には手を添えたまま。

それを見て俺も得物を握って目をつぶった。

座ったままは無理だ。

夜明け前に起こされて先に進む。

「近道だから。」

そう言って狭い馬車道を外れて山に分け入る。

自分の倍ほどの崖を上るのにもたつく俺を、あいつは上から眺めていた。

するすると身軽に登っていた。

同じルートを登るのに俺は苦戦してる。

「ロープ、下ろそうか?」

悔しいが頼んだ。

「近道だから。あんたは崖のないルートを行けばいいよ。ドル達はそっちを使う。帰りに案内する。」

「…そうか。」

やっと登り終えた。

汗を拭う。

その様子をじっと見つめてくるので見返す。

「なんだ?」

「置いてかないよ。お嬢様のお願いだから。」

「ふ、そうか。ありがたい。」

先に進むと近道だからと崖ばかり登った。

その度にロープを頼んだ。

昼過ぎに山村に着いた。

ビスは好まれていて少ない村人に囲まれていた。

記憶力がいい。

3ヶ月前後の村民らの治療を覚えていて、経過を尋ねてる。

全員一斉に話すのも上手くまとめて、診察の順番を取り仕切ってる。

「よく覚えてるな。」

「このくらいはね。」

偉ぶる様子もなく淡々と答えた。

15人ほどの診察を半日で済ませ薬を置いていく。

納税の木札を確認し、金を計算する。

一晩泊まったらまた出立だ。
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