うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第一章※本編

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夕暮れも過ぎた頃に、やっと一段落し、荷物置き場と称された部屋で皆と茶を飲んでくつろぐ。

ネバはもう帰ったそうだ。

怪我人の多さに呼ばれて治療の手伝いに来ていたと教えられる。

「ムスタファ!お帰り!」

パタパタとお嬢様が走って部屋に飛び込んできた。

「ただいま戻りました。」

椅子から立ち上がって頭を下げる。

「8年待ったんだよ!」

手を広げるのでしゃがむと首を抱き締められ、頬にキスを受けた。

「直属のみの栄誉ですね。ご褒美です。」

顔が緩む。

もう14。

すぐに15になられる。

前回、お会いした時より女性的になられて違うドキドキもあるが、それ以上に主人と思い感激だけが胸に溢れた。

「ご褒美になるのかわかんないけど私からの感謝だよ。やっと戻れたね。」

「はい、やっとです。もうどこにも行きたくありません。お嬢様にずっとお仕えします。」

お嬢様の手に額を寄せる。

「約束だよ?」

今日は休んでいいと言われ、宿を取ってないので、屋敷に用意してあるドル達用の仮眠室を借りることになった。

マックスはここの棟に自分の部屋があるらしいが、宿舎の方に枕を持って一緒に寝ると喜んだ。

「私も!」

「いけません。」

お嬢様も混ざりたがったが、マックスの姉が止める。

よかった。

やはり、ちゃんとした侍女は必要だな。

名はリザリーと名乗っていた。

マックスと似ていた。

…だが、なかなか。

中身はネバさん寄りだ。

人の采配やら何やら、てきぱきとこなし舐めた奴がいたら絞めてた。

手を出すと言うことはなく、腰にぶら下げた拘束具で捕らえて転がす。

口が達者で上品に微笑みながらこてんぱんに叩きのめす。

王都でも見たことがないタイプだ。

「お前の姉さんは強いな。」

うちにも姉はいるが、タイプが違う。

「ええ、まあ。姉ですから逆らえません。」

苦笑いのマックスの方が可愛らしく見える。

仮眠室にはベッドが2つ、端と端に置かれていて、寮と似ていた。

男と同室にぞわっとしてしまったが、マックスの無邪気な様子に考えすぎと気持ちを落ち着かせる。

「もしかして嫌でしたか?」

「そうじゃない。向こうで色々あって警戒が出るんだ。」

寝込みを襲われる心配ばかりしていた。

イルザンも何だかんだでちょっかいが多くて、仕方ない、こいつならいいかと諦めた。

純粋に信用出来たのはフノーの方だ。

全く色事はなかった。

「よっぽど大変だったんですね。」

「ああ、思い出したくない。」

「そうですか。聞かないようにします。」

「頼む。」

純情そうなこいつには言いたくない。

兵士と医師の仕事以外ならほぼ粉をかけられたか花街の話だ。

言いたくない。

兄弟子と慕われた俺があばずれの犬と呼ばれたことも知られたくない。

「先代は元気か?」

息子に公爵家専属医師の座を譲り隠居された。

「はい、もう目も耳もお歳であれなんですが、近くの民家でのんびりされてます。」

世話役にネバさんがついているらしい。

「今日みたいな日は、ババ様が来てくれるんですよ。稀ですけど。」

「そうか。」

すごい御仁だ。

お歳だろうに、処置が早くマックスの姉より元気のように見えた。

時折、二人をどやしてお嬢様にもきつく叱っていた。

ついでに俺もだった。

何と呼ぶか尋ねて、好きにしろと言われたので、ドル達のように呼び捨てにしようとしたら、呼び掛ける前に自分がひよっこと分かってるかと見下げられた。

応急措置が遅いと呆れながらだ。

確かに腕の差を感じたので大人しくネバさんと呼んだ。

「明日、稽古をつけてくださいね?」

「わかった。」

勝てるか不安だがな。

以前、ドルに酷評されたことを思い出した。

「勝てるかな?」

「頑張ります!」

自分に言ったつもりだったが、マックスは自分へと思ったようだ。

「違う。俺がだよ。」

「俺はまだまだです。ムスタファの方が太いし、勝てるか自信ありませんよ。」

「ふふ、お前はすぐに追い越す。」

馬を走らせ、昼の喧騒で疲れていたはずなのに夜遅くまで喋った。

朝から領民の治療の手伝いをする。

それとたまに組手。

ドル達がこちらへ集まるまでだ。

患者が落ち着いた夕方。

組手を終えて井戸で頭から水を被る。

「強くなったな。」

「いえ、まだまだです。また勝てませんでした。」

こいつの性格だろう。

自分からなかなか仕掛けてこず、攻撃を受け流すばかりだった。

必然的に膠着して勝負がつかない。

はっきりと勝敗が決まらなかった。

試しに仕掛けろと言えば、まっすぐ攻撃を仕掛けに来ることが多く、そうなると簡単に俺の術中にはまる。

素直な気質なんだと感じた。

「あの子は元気か?以前引き取ってもらった。名前は、」

「ナノス、のことですか?」

「ああ、手紙に書いてあったな。ナノス。」

親に捨てられたなら、名を変えたいと願った。

お嬢様が名付けた。

あの子の国の言葉で“放浪者”という意味だそうだ。

最初、よそ者と言う意味かと驚いたが、お嬢様は放浪者は先を自分で選べる、自由だからと綴られていた。

本当は、医師を意味する名をつけたかったそうだ。

ナノスは一年で言葉がかなり上達して、まだ他の言語も勉強をしたいからと俺の家族のキャラバンに参加していると以前聞いた。

「手紙が届いてますよ。あとで見ますか?」

「ああ、見せてくれ。」

文字も上達したのかと嬉しくなった。

幾日か過ぎるとパウエルやドルが集まった。

「久しぶりだ。」

パウエルとは久々だ。

8年ぶりとなる。

嬉しくて抱擁した。

「育ったなぁ、立派になった。」

少し更けたパウエル。

目尻のしわが増えていたが、体は昔と変わらず力強かった。

まだドルとしゅっちゅう喧嘩してるのかと思っていたが、二人とも丸くなったようだ。

「喧嘩したらお嬢様がババ様に言うんですよ。」

「あ、なるほど。」

二人ともネバさんに敬意を払ってる。

部屋の奥にひょろっと長い男がじっとこちらを眺めていたのが気になり、マックスに尋ねた。

「それで、彼は?」

「ムスタファ、彼が新しい仲間です。」

近寄ってみて背の高さは変わらないことに驚いた。

「よろしく、ムスタファだ。」

握手をしようと手を伸ばす。

じっと手を眺め、ゆっくり手を出して握ってきた。

手も指も長い。

ローブの隙間から手首には革の腕輪。

指輪が人差し指と中指、小指とついてる。

今までメンバーと全く経路が違う。

顔立ちはハシントやイルザンに似ていた。

握ったまま返事がなく、じっとこちらの手を見つめ顔を見てくる。

検分されてると感じた。

このメンバーに選ばれてると言うことは実力があると言うこと。

俺より年下に見える男。

少し緊張で握る手に力を込める。

舐められたくない。

じっと目を見つめ、ぺろっと赤い舌が口の隙間から見えた。

「ムスタファ、こちらはビス、それで、」

「あんた、男抱いたことある?」

「…あ?」

「は?」

「え?」

部屋が静まり返る。

わざわざマックスの話を遮って尋ねたことはそれか。

「…舐めてんのか?」

ギリギリと手を握りつぶした。

少し眉をピクリとするだけで反応が薄い。

「ムスタファ!ビス!喧嘩はしないでください!」

割り込んでマックスが俺達の手を外した。

「治療をする為の大事な手です。お互い怪我はいけません。」

マックスが仲裁し、ドルとパウエルはぽかん見つめていた。

このふざけた男は、握った手をふるふると振って笑った。

「いいね、あんた。」

目を細めてにぃっと笑う。


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