うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第一章※本編

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見送りの日。

来て三日目の日だ。

半日の休みを貰った。

役所で引き渡し、怪我が良好ということですぐ出立となった。

お嬢様を早くお戻りさせねばならないのもある。

「世話になる。」

「いや、気にするな。」

ほろ馬車に子供を運ぶ。

「私も患者のお世話が上手よ。任せて?」

『ムスタファ、さよなら。』

『しかと言うことを聞け。皆、少しは話せるから。』

護衛も言葉がわかるものを選りすぐってある。

『ありがとう。』

ほろほろと涙をこぼす。

『痛イカ?涙が、出テる。』

お嬢様が片言で尋ねた。

マックスも片言の会話に参加して気遣いを見せる。

『痛い時は正直に言いなさい。休みながら領地へ行きます。』

努力したのだろう。

流暢な言葉に感心する。

『はい。ありがとうございます。ひっく、』

『また会えます。ムスタファはいずれ領地へ戻ってきますからね。』

『はい。必ず会いたいです。』

お嬢様がガーゼで目元を拭う。

『言葉、難シイ。教えテホシイ。小サイ先生。』

ニコニコと笑っていた。

『はい。なんでもお役にたちます。お嬢様。』

『俺も話せる。安心しろ。』

ドルも会話に混ざる。

ぼろぼろと一層泣いて感謝を口にしていた。

護衛に囲まれて馬車が遠のく。

手を振る。

いつまでも振ってくるから。

見えなくなるまで。

豆粒ほども見えなくなったらきびすを返して仕事場に向かう。

途中、ハシントに会った。

「よぉ。」

「あ、ムスタファじゃん。仕事?」

「今からだ。」

例の件を尋ねた。

「お礼はどうする?望みはあるか?」

「そうだね。」

「ハシント、誰だ。それは。」

ハシントの後ろから声をかけられた。

「旦那様、彼は昔の友人です。」

派手な、高級な服装。

以前会った大旦那を若くしただけの風貌。

その上、ハシントが旦那様と呼ぶなら噂の嫉妬深い方だろう。

下手はできないと恭しく頭を下げて名乗る。

じろじろと見聞しているのはわかる。

「…お前が親父の言っていた、」

不愉快げな小さな呟き。

続きは聞こえなかった。

この様子だ。

好まれてはいない。

「行くぞ。構うな。」

そのまま去るのを、ハシントは従ってついていく。

軽く後ろ手に手を振るのは見えた。

礼など求めそうにもない。

このまま関わりは終わりそうだとひとりごちる。

後日、手紙が届いた。

日にちと場所が記載されている。

1週間後の夜。

場所は大旦那の屋敷。

「ふぅん。」

どこかの宿でもなく屋敷を指定している。

察するものはあるがまあ、いい。

付き合ってやるか。

了承の返事を書き、早めに外出の申請を出す。

日が近づき、知り合いらから花街への誘いを断る。

「どこか行くのか。」

「昔の友人と飲みに行く。また別の日に誘ってくれ。」

部屋に戻るとまわりから聞き付けたイルザンにも同じ質問をされる。

疑わしげな顔を無視して同じように答える。

「誰?俺の知らない奴?」

「気になるか?」

「ああ、珍しいからね。」

「そうか。」

そのまま黙って放っておく。

思ったよりいら立ってるのが面倒だった。

俺の態度にすねてしばらく話をしなかった。

普段通りのつもりだったが、やはり回りが察して早く仲直りをしろとせっつかれる。

「だが、怒った理由がわからない。謝りようがない。」

無駄に謝るのは嫌いだ。

ご機嫌取りも。

「えー…、お前のそういうところじゃねえか。」

「さあな。今はどうしようもない。そのうち落ち着くだろう。」

「それまでこっちが気を使うよ。やめてくれ。」

「知らん。」

「えー…。むごい。」

「あーあ、イルザンも手間のかかる奴に。…あーもう。」

外野の気持ちも分からんでもない。

だが、予定を把握されて口出されるのは嫌いだ。

俺から譲る気になれなかった。

結局、当日までギクシャクしたまま過ごした。

何度か怒らせてすねられたことはあるが、今回は長いなと他人事のように考えた。

外出の支度をする。

簡素な服を着て髪を結び直したら終わりだ。

「夜遅くか、明日帰る。」

それだけ伝えてドアのぶに手をかけた。

返答がない。

面倒だと感じるが、そろそろ折れるのはこっちかと考える。

まだ約束の時間まで充分に余裕がある。

煩わしくて早めに支度を終えていた。

ふう、とため息。

「…まだ機嫌悪いのか?」

「…別に。そうじゃない。」

「まわりからせっつかれてる。仲直りしろと。」

「自分はどうなんだよ?」

「どうしたもんかなと思ってる。居心地は悪いからな。」

「…そっか。」

振り返ってこちらに背を向けてベッドに寝転ぶイルザンの様子を伺う。

「ご機嫌取りは苦手だ。」

寄って上から顔を覗いてみた。

隠すよう枕を抱き込んで縮こまる。

「どうすれば機嫌が治る?」

ゆっくり頭に触れてみた。

嫌がらないので撫でる。

髪の毛に潜り込ませ、やわやわと地肌をなぞる。

「嫌か?」

「…嫌じゃない。」

「他にしていいのは?」

「…キス。」

かがんで髪に唇をうずめる。

おろした髪をのけて、首の付け根、生え際に滑らせた。

耳を指でこする。

「…ズルい。」

「何がだ?」

「何もかもだ。」

「そうか。」

悔しそうだが、甘えた声に変わった。

多少、機嫌が回復したようだ。

「行ってくる。イルザン、返事を。」

「…わかった。」

「じゃあな。」

最後に晒した首をこねた。

ひく、と反応したのに気づいて笑った。
 
屋敷を尋ねると2階の部屋に案内された。

通常、金持ちの部屋の作りは2階がプライベートになっている。

そこへ、案内される意味を考えた。

嫉妬深いと聞く旦那の趣味ではなく、引き受け人の大旦那の趣味だろう。

通された部屋で酒をもてなされた。

あまり飲むことのない上等なワインだった。

扉からノックが聞こえて、ハシントが入ってきた。

昔、仕事で来ていた時のような夜着だ。

「なつかしいな。」

格好を見て呟いた。



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