22 / 67
第一章※本編
21
しおりを挟む
部屋のお嬢様とビーがおままごとをしている。
側にはマックスがついて、二人の相手を。
ビーの肌は俺より黒い。
おそらく年齢を重ねたらもう少し色が薄くなる。
そんなことを考えてたら今度は二人で手遊びを始めた。
子供は飽きやすい。
歌いながら音に合わせてぱちん、ぱちんとお互いの手を叩き合う。
領地で見たことないので王都の遊びのようだ。
「やーん、失敗。」
「あはは!僕の勝ちだよ?」
ビーは男の子だ。
近所にはそれなりに遊び相手がいるが、治安の悪化で外に一人で出れなくなった。
普段は室内遊びが多い。
「次は何して遊ぶ?」
おもちゃ箱をひっくり返して、お互いの頭を寄せて相談していた。
「これなぁに?見たことない。」
「これ?ムスタファが作ってくれた。外国のおもちゃ。」
「どうやって遊ぶの?」
二人の声が弾む。
ドルとフノーの話に軽く相づちを返しながら、幼い二人を眺めた。
「可愛らしいお嬢様だ。」
フノーも二人の様子に目を細めて微笑んでいる。
「あの子が笑ってる。…ありがたいわ。高貴な方でいらっしゃるのに。」
エプロンで奥方は目元を拭ってる。
ビーを可愛がってるが、奥方も偏見に疲れてた。
たまに相談されて話し相手になっていた。
特に、治安の悪化で部屋に籠りがちとなってから。
親切な友人が多いそうだが、知らぬ人は小間使いを連れていると思われる。
違うと分かれば反感を生んだ。
治安の悪化から二人は身の危険も多かった。
「俺も嬉しいです。良かった。」
「いい子だね、あの子。」
ぽつりと側のイルザンが呟いた。
「子供扱いすると怒られるぞ。」
「あ、そうだね。気を付ける。幼くとも立派な淑女だ。気位が高い。」
「ああ。」
昔はそんな素振りなかったが。
いつも届く手紙。
年齢以上に大人びた文字と内容に片鱗は見えた。
「大人びてるのも年相応なところも本心だ。」
「ムスタファもわかるか?」
ドルが話に加わる。
「手紙でね。早い成長を感じてた。でもああやって心から笑ってるのも本当のお姿だろう。」
早く大人にならなければならなかった。
でも、まだ年相応なことも楽しいはずだ。
昔のお嬢様は幼い方だったのだから。
「そうか。」
ニコッと笑うとまたフノーとの会話に戻る。
「理解してるんだね。…離れてたのに。」
「俺が勝手に慕ってるだけだ。」
唯一、俺のお仕えする方だ。
瞳の煌めきを守りたい。
「側でお仕えしたい。それだけが念願だ。」
領地に戻られたら次はいつ会えるだろう。
そればかり考える。
「…そっか。」
お茶を飲み干し、仕事に戻ることにした。
まだお嬢様達を眺めていたかったが仕方ない。
玄関先で、挨拶をしてるとビーに捕まった。
「こっち来て、内緒話するから。」
皆から少し離れてしゃがみ、耳を寄せる。
「あ、あのね、ジネウラをお嫁さんにしたい。どうしたらいい?」
「あ?」
思わず仰け反って顔を見る。
顔を真っ赤にして手を合わせもじもじと握ったり揉んだりしていた。
「今は許されても敬称をつけろ。お嬢様は誠に高貴な方だ。せいぜい仕えるのがやっとだ。それさえも難しいぞ。」
「え、あ…い、色のせい?」
悲痛な顔になんとも言えなくなる。
「ああ、だが色だけではない。地位と血筋、金もいる。すべて揃わなくては無理だ。必要な物を言ってたら指が足らないくらいだ。」
「そ、そうなの?そんな偉い人なの?」
「ああ、国の、上から数えた方が早い身分のご令嬢だ。同等か、それ以上の婚姻が将来は待ってる。」
「…でも、」
「もし、邪な思いで寄ると言うなら俺とも敵だ。」
「え?は、」
本心から。
心から睨んだ。
怯えて震えたのでため息を吐いて顔を緩ませる。
「今は、王都の兵士だが、俺はお嬢様に心から仕えてる。憂いは払う。マックスも、ドルも。心から仕えて守る人間は多い。命が惜しければやめろ。」
「う、ひっく。」
「泣くな。」
「だって、怖かったから。ぐず、ずずっ」
「このくらいで泣くならお仕えするのも程遠いぞ。」
「うん。でも可愛かったから、お嫁さんにしたかった。」
「考えるのも許さん。」
額を指でこづく。
「だめ?」
「ダメだ。わかったか?」
こくと頭が揺れる。
「好きなのに。」
「ダメだ。ごねるな。」
ばちんとデコぴんをする。
「いで!」
「これくらいで泣くなら仕えるのも無理だ。諦めろ。」
渋々といった様子に苦笑いをする。
こっそりフノーに失恋したようだと伝えた。
「は、は、そうか。恐れ多くもあの方に。はは、」
二度とお目にかかることもないのにと笑っていた。
俺でさえ何年も会えなかった。
夢物語だ。
仕事を終えて部屋でくつろいだ。
椅子に座ってドルに借りた本を読んでいたら背中に温もりを感じた。
頬に髪がかかる。
柔らかいキスも。
イルザンが甘えてくるのを撫でて答えた。
今日はずっとすねてた。
当たり前に放ったらかしにしていた。
根負けしたのだろう。
どうしたいのか話すのを待つ。
「お前、お嬢様達が一番好きだろ?」
「ああ。」
「俺より好きだろ。」
「ああ。」
嘘をつく気にならず正直に伝えた。
「どうする?」
尋ねると黙った。
「…どうしようもない。」
「そうか。」
まだ顔を寄せて甘えてくるので本を閉じて、イルザンの腕を引いて膝に抱えた。
「忠誠はリトグリ公爵領にある。」
「心が、だね。」
「ああ。そうだ。」
「ライバルが強敵過ぎる。」
「そうか。」
肩に頭を乗せてきたので撫でる。
「嘘でも俺って言えよぉ。」
「嫌だ。」
「ケチだ。」
「やめるか?」
以前も尋ねた。
嫌ならやめろ、それだけだ。
「…嫌だ。」
「わかった。」
しばらく撫でてやった。
顔を動かして見つめてくる。
捨てられた顔してる。
黙って見つめ返した。
「…キスしたい。」
「いいぞ。」
顔を寄せてキスをする。
不安がってる。
だが、どうしようもない。
舌を隙間に滑らせてくる。
甘噛みして吸う。
部屋に音が響いてる。
「ん、はあ、ベッドでやらない?」
「いや、このまま。今はキスがいい。ん、」
引き出しから薄荷飴を出してイルザンの口に放り込む。
「これ、気に入った。」
「そうなのか?あ、ふ、」
「ああ。」
ころころとイルザンの口の中の飴を舐めて遊んだ。
鼻につんと来る。
飴がなくなると2個めを入れて続きを楽しんだ。
3個めを入れる時の涙を滲ませてとろける顔が可愛かった。
「あ、ああ、はあ、」
泣いてたので指で目元を拭ってやる。
「こ、こんなに、優しいのになぁ。…俺が1番じゃないんだ。ぐず、」
「ああ。」
「こんなに好きなのに。ずずっ、」
「ああ。」
「でも、好きだ。ムスタファが好きだよ。」
「そうか。」
次々と流れる涙を指で拭う。
「やめるか?」
「嫌だ。もっとキスしたい。」
「わかった。」
好きなだけキスをさせて俺も答えた。
キスをしている間、イルザンはずっと泣いていた。
側にはマックスがついて、二人の相手を。
ビーの肌は俺より黒い。
おそらく年齢を重ねたらもう少し色が薄くなる。
そんなことを考えてたら今度は二人で手遊びを始めた。
子供は飽きやすい。
歌いながら音に合わせてぱちん、ぱちんとお互いの手を叩き合う。
領地で見たことないので王都の遊びのようだ。
「やーん、失敗。」
「あはは!僕の勝ちだよ?」
ビーは男の子だ。
近所にはそれなりに遊び相手がいるが、治安の悪化で外に一人で出れなくなった。
普段は室内遊びが多い。
「次は何して遊ぶ?」
おもちゃ箱をひっくり返して、お互いの頭を寄せて相談していた。
「これなぁに?見たことない。」
「これ?ムスタファが作ってくれた。外国のおもちゃ。」
「どうやって遊ぶの?」
二人の声が弾む。
ドルとフノーの話に軽く相づちを返しながら、幼い二人を眺めた。
「可愛らしいお嬢様だ。」
フノーも二人の様子に目を細めて微笑んでいる。
「あの子が笑ってる。…ありがたいわ。高貴な方でいらっしゃるのに。」
エプロンで奥方は目元を拭ってる。
ビーを可愛がってるが、奥方も偏見に疲れてた。
たまに相談されて話し相手になっていた。
特に、治安の悪化で部屋に籠りがちとなってから。
親切な友人が多いそうだが、知らぬ人は小間使いを連れていると思われる。
違うと分かれば反感を生んだ。
治安の悪化から二人は身の危険も多かった。
「俺も嬉しいです。良かった。」
「いい子だね、あの子。」
ぽつりと側のイルザンが呟いた。
「子供扱いすると怒られるぞ。」
「あ、そうだね。気を付ける。幼くとも立派な淑女だ。気位が高い。」
「ああ。」
昔はそんな素振りなかったが。
いつも届く手紙。
年齢以上に大人びた文字と内容に片鱗は見えた。
「大人びてるのも年相応なところも本心だ。」
「ムスタファもわかるか?」
ドルが話に加わる。
「手紙でね。早い成長を感じてた。でもああやって心から笑ってるのも本当のお姿だろう。」
早く大人にならなければならなかった。
でも、まだ年相応なことも楽しいはずだ。
昔のお嬢様は幼い方だったのだから。
「そうか。」
ニコッと笑うとまたフノーとの会話に戻る。
「理解してるんだね。…離れてたのに。」
「俺が勝手に慕ってるだけだ。」
唯一、俺のお仕えする方だ。
瞳の煌めきを守りたい。
「側でお仕えしたい。それだけが念願だ。」
領地に戻られたら次はいつ会えるだろう。
そればかり考える。
「…そっか。」
お茶を飲み干し、仕事に戻ることにした。
まだお嬢様達を眺めていたかったが仕方ない。
玄関先で、挨拶をしてるとビーに捕まった。
「こっち来て、内緒話するから。」
皆から少し離れてしゃがみ、耳を寄せる。
「あ、あのね、ジネウラをお嫁さんにしたい。どうしたらいい?」
「あ?」
思わず仰け反って顔を見る。
顔を真っ赤にして手を合わせもじもじと握ったり揉んだりしていた。
「今は許されても敬称をつけろ。お嬢様は誠に高貴な方だ。せいぜい仕えるのがやっとだ。それさえも難しいぞ。」
「え、あ…い、色のせい?」
悲痛な顔になんとも言えなくなる。
「ああ、だが色だけではない。地位と血筋、金もいる。すべて揃わなくては無理だ。必要な物を言ってたら指が足らないくらいだ。」
「そ、そうなの?そんな偉い人なの?」
「ああ、国の、上から数えた方が早い身分のご令嬢だ。同等か、それ以上の婚姻が将来は待ってる。」
「…でも、」
「もし、邪な思いで寄ると言うなら俺とも敵だ。」
「え?は、」
本心から。
心から睨んだ。
怯えて震えたのでため息を吐いて顔を緩ませる。
「今は、王都の兵士だが、俺はお嬢様に心から仕えてる。憂いは払う。マックスも、ドルも。心から仕えて守る人間は多い。命が惜しければやめろ。」
「う、ひっく。」
「泣くな。」
「だって、怖かったから。ぐず、ずずっ」
「このくらいで泣くならお仕えするのも程遠いぞ。」
「うん。でも可愛かったから、お嫁さんにしたかった。」
「考えるのも許さん。」
額を指でこづく。
「だめ?」
「ダメだ。わかったか?」
こくと頭が揺れる。
「好きなのに。」
「ダメだ。ごねるな。」
ばちんとデコぴんをする。
「いで!」
「これくらいで泣くなら仕えるのも無理だ。諦めろ。」
渋々といった様子に苦笑いをする。
こっそりフノーに失恋したようだと伝えた。
「は、は、そうか。恐れ多くもあの方に。はは、」
二度とお目にかかることもないのにと笑っていた。
俺でさえ何年も会えなかった。
夢物語だ。
仕事を終えて部屋でくつろいだ。
椅子に座ってドルに借りた本を読んでいたら背中に温もりを感じた。
頬に髪がかかる。
柔らかいキスも。
イルザンが甘えてくるのを撫でて答えた。
今日はずっとすねてた。
当たり前に放ったらかしにしていた。
根負けしたのだろう。
どうしたいのか話すのを待つ。
「お前、お嬢様達が一番好きだろ?」
「ああ。」
「俺より好きだろ。」
「ああ。」
嘘をつく気にならず正直に伝えた。
「どうする?」
尋ねると黙った。
「…どうしようもない。」
「そうか。」
まだ顔を寄せて甘えてくるので本を閉じて、イルザンの腕を引いて膝に抱えた。
「忠誠はリトグリ公爵領にある。」
「心が、だね。」
「ああ。そうだ。」
「ライバルが強敵過ぎる。」
「そうか。」
肩に頭を乗せてきたので撫でる。
「嘘でも俺って言えよぉ。」
「嫌だ。」
「ケチだ。」
「やめるか?」
以前も尋ねた。
嫌ならやめろ、それだけだ。
「…嫌だ。」
「わかった。」
しばらく撫でてやった。
顔を動かして見つめてくる。
捨てられた顔してる。
黙って見つめ返した。
「…キスしたい。」
「いいぞ。」
顔を寄せてキスをする。
不安がってる。
だが、どうしようもない。
舌を隙間に滑らせてくる。
甘噛みして吸う。
部屋に音が響いてる。
「ん、はあ、ベッドでやらない?」
「いや、このまま。今はキスがいい。ん、」
引き出しから薄荷飴を出してイルザンの口に放り込む。
「これ、気に入った。」
「そうなのか?あ、ふ、」
「ああ。」
ころころとイルザンの口の中の飴を舐めて遊んだ。
鼻につんと来る。
飴がなくなると2個めを入れて続きを楽しんだ。
3個めを入れる時の涙を滲ませてとろける顔が可愛かった。
「あ、ああ、はあ、」
泣いてたので指で目元を拭ってやる。
「こ、こんなに、優しいのになぁ。…俺が1番じゃないんだ。ぐず、」
「ああ。」
「こんなに好きなのに。ずずっ、」
「ああ。」
「でも、好きだ。ムスタファが好きだよ。」
「そうか。」
次々と流れる涙を指で拭う。
「やめるか?」
「嫌だ。もっとキスしたい。」
「わかった。」
好きなだけキスをさせて俺も答えた。
キスをしている間、イルザンはずっと泣いていた。
0
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる