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第一章※本編
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今夜は患者の空きベッドを借りるつもりで、宿舎の医務室に向かった。
部屋の明かりがついてる。
ノックして入るとフノーがいた。
軍医のもひとり。
ドル達とも面識がある。
鍛練には参加しない。
以前、戦地に行って怪我をし、後遺症で内勤になった。
「当番でしたっけ?」
「寝場所がほしくて来ました。」
年上なので敬語を使う。
「ああ、はいはい。」
「急患が来たら働きます。」
「構いませんよ。昼勤務があるでしょう?でも、今日は怪我人が寝てるのでそっちを使いなさい。」
部屋の隅の予備で置いてる診察台。
勝手に布団を出して寝支度をする。
「こっちの枕、貸してあげましょう。」
フノーが自分で用意した仮眠用の枕を渡された。
「ありがとうございます。」
「モテる男は大変ですねぇ。」
「色違いなのに、ですね。」
「そう卑下しなさんな。うちも身内にいます。」
「ああ、でしたね。失礼しました。」
フノーは戦地で助けた子供を引き取って夫婦で育ててる。
息子5人いたそうだが、病で1度に下の3人を亡くしたと聞いた。
養い子は俺より黒いそうだ。
「何も変わらないんですけどねぇ。むしろ愛着湧きます。息子がまた遊びに来てくれと言ってましたよ。」
時々、息子自慢が止まらないだけだ。
ここで頼りにしてる人の1人。
「分かりました。お礼に。」
「いつでも来なさい。妻も君を気に入ってる。うぷ、酒臭い。来るときは素面で。」
枕も取り上げられた。
「酒臭くなったら困ります。貸せません。」
「はい。」
「ったく、もう。飲みすぎですよ。」
小言を聞きながら眠った。
こういうやり取りがいい。
気持ちが楽だ。
お嬢様とマックス。
あの子らと鬼ごっこした時の夢を見た。
別にあれが初めてのキスではないが、あんな柔らかい子供のキスは2度とないだろうと思った。
朝、食堂に行くと小柄な男らにちょっかいかけられた。
俺は背が高いから大体の奴等は小柄になるが。
「ムスタファ、わりぃ。」
後ろからイルザンが腕を引いてきた。
小柄の群れから引き離されたことの礼を言う。
「おーい、ムスタファ。やっと彼氏できたか。聞いたぞ。お祭り騒ぎだ。」
「あ?」
テーブルにいた年上の隊員から声をかけられた。
「その返事はやめろ。舐めてんのか?」
「すいません。」
きつく睨まれて頭を下げる。
家族の口癖だ。
家族らはこの国の言語以外を使う。
皆の出身が違うので何か国語も混ざってる。
男も女も普通に使うのだが、この国の言語だと目上の人間には良くない。
パウエル達は慣れていたので特に気にされたことはなかった。
「ったく。生意気だ。」
他の隊員からも渋面で睨まれた。
黙って頭を下げたままにする。
何度も謝るのは嫌いだ。
「まあ、いいじゃないか。それより、おめでとう。」
分からず首を捻って視線を向ける。
隣のイルザンにも。
「本当にわりぃ。ごめん。」
しょぼくれて謝るが何のことか分からない。
「彼氏、おめでとう。」
「鋼鉄の処女を落としたってな。」
「それともお前が女役か?」
すれ違い様にイルザンの肩を数人が叩いていく。
まさか。
「昨日の、見られた。…ムスタファ、ごめん。…あが!あ!ぐ、うう!い、いてぇ!いてえよ!やめてくれ!」
気づいたらイルザンの顔を片手で鷲掴みにしていた。
力を込めて。
みしみし言ってる。
リンゴを潰せる握力だ。
かなり痛むだろう。
「悪かった!やめてくれ!あ、ああっ!あ!ぎゃぁぁ!」
へらへらまわりが笑っていたが、イルザンの苦しみ方に慌てて引き離された。
「う、うう…悪かった、本当にごめん。」
「2度とするな。…殺すぞ。」
イルザンは床に膝をついていた。
「悪かった。俺が無理矢理した。ムスタファは嫌がってた。」
ふらふらしながら立ち上がって頭を下げてきた。
無視して食事を取りに行く。
しばらく1人で過ごした。
あの時、殴っておけばよかった。
そしたらまだ噂がましだったろう。
自然と舌打ちをした。
「おい、ムスタファ。」
皆が帰る中、部隊長に引き留められたので立ち止まる。
遠目からイルザンが気になる風でチラ見していたのが見えた。
「痴話喧嘩は治まったか?」
ぎろっと睨むとすぐ静かにはなる。
「本意じゃないのは本当だったか。」
「はい。」
ぶすっとしたまま答えた。
「抵抗しなかったんだろ?」
見た奴は事細かに見ていたんだな。
あの時、拳を振り上げて下げた。
同情なんかしなければよかった。
「殴ればよかったと悔やんでます。しばらく動けなくなるほど。親切にしたの間違いでしたね。」
「はは!その顔はよっぽどだな!あはは!」
「もう行ってよろしいですか?」
腹を抱えるのがムカつく。
「あー、笑えた。夜ヒマだろ?付き合え。」
しばらく考えてから了承した。
女好きだからと油断できないのはよくわかった。
「酒だけなら。」
「わかった。申請は出しとく。またあとで。」
最後に良いところへ連れていってやると言われてうんざりした。
部屋の明かりがついてる。
ノックして入るとフノーがいた。
軍医のもひとり。
ドル達とも面識がある。
鍛練には参加しない。
以前、戦地に行って怪我をし、後遺症で内勤になった。
「当番でしたっけ?」
「寝場所がほしくて来ました。」
年上なので敬語を使う。
「ああ、はいはい。」
「急患が来たら働きます。」
「構いませんよ。昼勤務があるでしょう?でも、今日は怪我人が寝てるのでそっちを使いなさい。」
部屋の隅の予備で置いてる診察台。
勝手に布団を出して寝支度をする。
「こっちの枕、貸してあげましょう。」
フノーが自分で用意した仮眠用の枕を渡された。
「ありがとうございます。」
「モテる男は大変ですねぇ。」
「色違いなのに、ですね。」
「そう卑下しなさんな。うちも身内にいます。」
「ああ、でしたね。失礼しました。」
フノーは戦地で助けた子供を引き取って夫婦で育ててる。
息子5人いたそうだが、病で1度に下の3人を亡くしたと聞いた。
養い子は俺より黒いそうだ。
「何も変わらないんですけどねぇ。むしろ愛着湧きます。息子がまた遊びに来てくれと言ってましたよ。」
時々、息子自慢が止まらないだけだ。
ここで頼りにしてる人の1人。
「分かりました。お礼に。」
「いつでも来なさい。妻も君を気に入ってる。うぷ、酒臭い。来るときは素面で。」
枕も取り上げられた。
「酒臭くなったら困ります。貸せません。」
「はい。」
「ったく、もう。飲みすぎですよ。」
小言を聞きながら眠った。
こういうやり取りがいい。
気持ちが楽だ。
お嬢様とマックス。
あの子らと鬼ごっこした時の夢を見た。
別にあれが初めてのキスではないが、あんな柔らかい子供のキスは2度とないだろうと思った。
朝、食堂に行くと小柄な男らにちょっかいかけられた。
俺は背が高いから大体の奴等は小柄になるが。
「ムスタファ、わりぃ。」
後ろからイルザンが腕を引いてきた。
小柄の群れから引き離されたことの礼を言う。
「おーい、ムスタファ。やっと彼氏できたか。聞いたぞ。お祭り騒ぎだ。」
「あ?」
テーブルにいた年上の隊員から声をかけられた。
「その返事はやめろ。舐めてんのか?」
「すいません。」
きつく睨まれて頭を下げる。
家族の口癖だ。
家族らはこの国の言語以外を使う。
皆の出身が違うので何か国語も混ざってる。
男も女も普通に使うのだが、この国の言語だと目上の人間には良くない。
パウエル達は慣れていたので特に気にされたことはなかった。
「ったく。生意気だ。」
他の隊員からも渋面で睨まれた。
黙って頭を下げたままにする。
何度も謝るのは嫌いだ。
「まあ、いいじゃないか。それより、おめでとう。」
分からず首を捻って視線を向ける。
隣のイルザンにも。
「本当にわりぃ。ごめん。」
しょぼくれて謝るが何のことか分からない。
「彼氏、おめでとう。」
「鋼鉄の処女を落としたってな。」
「それともお前が女役か?」
すれ違い様にイルザンの肩を数人が叩いていく。
まさか。
「昨日の、見られた。…ムスタファ、ごめん。…あが!あ!ぐ、うう!い、いてぇ!いてえよ!やめてくれ!」
気づいたらイルザンの顔を片手で鷲掴みにしていた。
力を込めて。
みしみし言ってる。
リンゴを潰せる握力だ。
かなり痛むだろう。
「悪かった!やめてくれ!あ、ああっ!あ!ぎゃぁぁ!」
へらへらまわりが笑っていたが、イルザンの苦しみ方に慌てて引き離された。
「う、うう…悪かった、本当にごめん。」
「2度とするな。…殺すぞ。」
イルザンは床に膝をついていた。
「悪かった。俺が無理矢理した。ムスタファは嫌がってた。」
ふらふらしながら立ち上がって頭を下げてきた。
無視して食事を取りに行く。
しばらく1人で過ごした。
あの時、殴っておけばよかった。
そしたらまだ噂がましだったろう。
自然と舌打ちをした。
「おい、ムスタファ。」
皆が帰る中、部隊長に引き留められたので立ち止まる。
遠目からイルザンが気になる風でチラ見していたのが見えた。
「痴話喧嘩は治まったか?」
ぎろっと睨むとすぐ静かにはなる。
「本意じゃないのは本当だったか。」
「はい。」
ぶすっとしたまま答えた。
「抵抗しなかったんだろ?」
見た奴は事細かに見ていたんだな。
あの時、拳を振り上げて下げた。
同情なんかしなければよかった。
「殴ればよかったと悔やんでます。しばらく動けなくなるほど。親切にしたの間違いでしたね。」
「はは!その顔はよっぽどだな!あはは!」
「もう行ってよろしいですか?」
腹を抱えるのがムカつく。
「あー、笑えた。夜ヒマだろ?付き合え。」
しばらく考えてから了承した。
女好きだからと油断できないのはよくわかった。
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