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第一章※本編
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ジネウラ様はお可愛らしい。
つたない文字を眺めた。
“チョコレート、げんきですか?”
あの日から半年。
まだチョコレート呼びだ。
返信にはムスタファですと書いておいた。
「よお、新入り。もう女から手紙を貰ったのか。」
「主人からです。」
さっと奪われそうな手紙を懐へ入れた。
「顔のいい犬は得だな。」
同期のせせら笑いにムカついたが、黙っておく。
明日の組手で覚えてろと心の中で呟く。
お嬢様のいらした領地では医術を学ぶ為に先生の見習いをしていた。
公爵家の専属医師。
その部下に当たるドルとパウエル。
肌の色から屋敷に住み込む先生のもとに残れず、お弟子の二人のもとで五年ほど仕えた。
領内の街を転々とし、深い山間の村などを往診するので医術以外の格闘技も。
野盗よけだ。
うちはがたいがでかくなりやすい家系で、13になるとドルと変わらない背になり危険な地区へのお供を許された。
医術を学ぶのも好きだったが、体を動かすのも楽しかった。
ドルとパウエルから拳闘術と剣を仕込まれて、たまに襲われても身を守れるほどに。
あの日、初めてお屋敷に入る許可が降りて努力が認められたのかと内心喜んでいた。
お仕えするお嬢様にも初めてお会いした。
幼いお嬢様にまた会いたかった。
これからしっかりこの幼い姫にお仕えしようと決心したのもつかの間、先生は俺に一枚の手紙を見せた。
「軍医見習い、ですか?」
陛下からの要請で若い軍医見習いになりそうな人材を求められたそうだ。
「うむ、旦那様より誰か出せとのお達しじゃ。3人で話し合ったが、年齢と能力を考慮してムスタファ以外の適任はおらん。」
「本当はマックスをとも考えたがこいつはなぁ。」
ひょろりと細い体。
年相応より小柄だ。
「マックスがいいがな。」
パウエルの呟きに少々落ち込んだ。
俺じゃダメなのかと。
「行きます。お役に立てます。」
即座に返事をした。
「やりたくないなぁ。俺の弟子だから。」
悲しそうなパウエルに、言葉にはしないがホッとした。
「俺の弟子だ。」
ドルがまた横やりを。
またごっと大きな音をたてて頭突きあってる。
「仲良いのう、ほ、ほ、ほ。」
おおらかな先生は楽しそうに眺めていた。
「やだー!チョコは私達といるのぉ!」
行くことが決まり、お嬢様に別れの挨拶するとわんわん泣いた。
手紙を約束し、任期が終わればこちらに戻ると約束をして。
まだ字が苦手なお嬢様は、マックスの解説付きで手紙が届いた。
マックスもいい子だ。
俺に憧れの眼差しを向ける。
洗えなどと言わない。
「すごいですよ。領内の危険な地区に行けるのは選ばれた人だけです。ふたつの腕前か必要なんです。」
山に入れないものはだいたいが街に残るか領外へ勤めに出る。
軍医もその一つだ。
マックスは先輩呼びだったのを名前で呼ぶように言うと、お礼を言って喜んだ。
二人とも好きだった。
こことは大違いだ。
軍医見習いとして王都に来た。
旦那様は色を見てしばらくがっかりされていた。
「色ちがいだったか。」
「申し訳ありません。」
「皆の推薦状がある。大変優秀だと。」
「恐縮です。」
「謝るのはこちらだ。辛い生活になるやもしれん。娘の為に頼む。」
手を握り、気遣わしげな様子に何度も謝られた。
入隊して旦那様の危惧が何なのかよくわかった。
領内より色への偏見が強かった。
兵士の多くは跡取りから外れた貴族息子ども。
俺より小さくて細いのに威勢だけは一人前。
組手や練習では相手をボコった。
医術だけかと思っていたが、一兵士と変わらない訓練内容。
軍医のもとにいる時間より鍛練が多かった。
自分の時間などなかった。
「先生はお元気かな。」
「はい、お元気にされてます。」
数人の軍医は先生の教え子。
気安くて助かった。
「よく学んでる。教えることがない。助かるよ。」
「ありがとうございます。」
「領内も巡っていたのか。大変だったろう。あれはキツい。」
「私は許可が降りなかった。その若さでスゴいなぁ。体も恵まれているね。」
内情をご存じの軍医達の目は優しい。
山で死にかけたことは何度もある。
強盗に刺されたことも。
体には傷がたくさん残っている。
軍医達のもとにいない時は最悪だ。
「おい、犬。」
俺のことを嫌いな奴等は俺の名を呼ばない。
殴りたいが揉め事は旦那様方への迷惑なるので堪える。
シカトしてると余計突っかかってくるからもっとめんどうだ。
ちらっと目を向ける。
返事を返すのは癪だ。
「これ、やっておけ。」
いつも何やら押し付けられる。
だが、こちらも黙る気はない。
ちゃんと上に報告をして、作業を変わる許可をとる。
勝手に変わるのは違反だ。
上からの評価は上がった。
あいつらは気づいてない。
バカだから。
一年もたてば、エリートが集められた隊へ移された。
高位貴族やら跡取りやら高貴な血筋の集まりだ。
偏見が強いかと危惧したが、一部からは思ったより好意的に受け入れられた。
嫌う者もいるが、ここの隊員から優秀だと認められた。
今は一兵卒だが、どの人物ものちのちは上に上がる実力と血筋の持ち主ばかりだ。
つまらんちょかいが減り、居心地はそれなりに悪くなかった。
「今夜どうだ?たまにはケツ貸せよ。」
この手の輩がいなければな。
つたない文字を眺めた。
“チョコレート、げんきですか?”
あの日から半年。
まだチョコレート呼びだ。
返信にはムスタファですと書いておいた。
「よお、新入り。もう女から手紙を貰ったのか。」
「主人からです。」
さっと奪われそうな手紙を懐へ入れた。
「顔のいい犬は得だな。」
同期のせせら笑いにムカついたが、黙っておく。
明日の組手で覚えてろと心の中で呟く。
お嬢様のいらした領地では医術を学ぶ為に先生の見習いをしていた。
公爵家の専属医師。
その部下に当たるドルとパウエル。
肌の色から屋敷に住み込む先生のもとに残れず、お弟子の二人のもとで五年ほど仕えた。
領内の街を転々とし、深い山間の村などを往診するので医術以外の格闘技も。
野盗よけだ。
うちはがたいがでかくなりやすい家系で、13になるとドルと変わらない背になり危険な地区へのお供を許された。
医術を学ぶのも好きだったが、体を動かすのも楽しかった。
ドルとパウエルから拳闘術と剣を仕込まれて、たまに襲われても身を守れるほどに。
あの日、初めてお屋敷に入る許可が降りて努力が認められたのかと内心喜んでいた。
お仕えするお嬢様にも初めてお会いした。
幼いお嬢様にまた会いたかった。
これからしっかりこの幼い姫にお仕えしようと決心したのもつかの間、先生は俺に一枚の手紙を見せた。
「軍医見習い、ですか?」
陛下からの要請で若い軍医見習いになりそうな人材を求められたそうだ。
「うむ、旦那様より誰か出せとのお達しじゃ。3人で話し合ったが、年齢と能力を考慮してムスタファ以外の適任はおらん。」
「本当はマックスをとも考えたがこいつはなぁ。」
ひょろりと細い体。
年相応より小柄だ。
「マックスがいいがな。」
パウエルの呟きに少々落ち込んだ。
俺じゃダメなのかと。
「行きます。お役に立てます。」
即座に返事をした。
「やりたくないなぁ。俺の弟子だから。」
悲しそうなパウエルに、言葉にはしないがホッとした。
「俺の弟子だ。」
ドルがまた横やりを。
またごっと大きな音をたてて頭突きあってる。
「仲良いのう、ほ、ほ、ほ。」
おおらかな先生は楽しそうに眺めていた。
「やだー!チョコは私達といるのぉ!」
行くことが決まり、お嬢様に別れの挨拶するとわんわん泣いた。
手紙を約束し、任期が終わればこちらに戻ると約束をして。
まだ字が苦手なお嬢様は、マックスの解説付きで手紙が届いた。
マックスもいい子だ。
俺に憧れの眼差しを向ける。
洗えなどと言わない。
「すごいですよ。領内の危険な地区に行けるのは選ばれた人だけです。ふたつの腕前か必要なんです。」
山に入れないものはだいたいが街に残るか領外へ勤めに出る。
軍医もその一つだ。
マックスは先輩呼びだったのを名前で呼ぶように言うと、お礼を言って喜んだ。
二人とも好きだった。
こことは大違いだ。
軍医見習いとして王都に来た。
旦那様は色を見てしばらくがっかりされていた。
「色ちがいだったか。」
「申し訳ありません。」
「皆の推薦状がある。大変優秀だと。」
「恐縮です。」
「謝るのはこちらだ。辛い生活になるやもしれん。娘の為に頼む。」
手を握り、気遣わしげな様子に何度も謝られた。
入隊して旦那様の危惧が何なのかよくわかった。
領内より色への偏見が強かった。
兵士の多くは跡取りから外れた貴族息子ども。
俺より小さくて細いのに威勢だけは一人前。
組手や練習では相手をボコった。
医術だけかと思っていたが、一兵士と変わらない訓練内容。
軍医のもとにいる時間より鍛練が多かった。
自分の時間などなかった。
「先生はお元気かな。」
「はい、お元気にされてます。」
数人の軍医は先生の教え子。
気安くて助かった。
「よく学んでる。教えることがない。助かるよ。」
「ありがとうございます。」
「領内も巡っていたのか。大変だったろう。あれはキツい。」
「私は許可が降りなかった。その若さでスゴいなぁ。体も恵まれているね。」
内情をご存じの軍医達の目は優しい。
山で死にかけたことは何度もある。
強盗に刺されたことも。
体には傷がたくさん残っている。
軍医達のもとにいない時は最悪だ。
「おい、犬。」
俺のことを嫌いな奴等は俺の名を呼ばない。
殴りたいが揉め事は旦那様方への迷惑なるので堪える。
シカトしてると余計突っかかってくるからもっとめんどうだ。
ちらっと目を向ける。
返事を返すのは癪だ。
「これ、やっておけ。」
いつも何やら押し付けられる。
だが、こちらも黙る気はない。
ちゃんと上に報告をして、作業を変わる許可をとる。
勝手に変わるのは違反だ。
上からの評価は上がった。
あいつらは気づいてない。
バカだから。
一年もたてば、エリートが集められた隊へ移された。
高位貴族やら跡取りやら高貴な血筋の集まりだ。
偏見が強いかと危惧したが、一部からは思ったより好意的に受け入れられた。
嫌う者もいるが、ここの隊員から優秀だと認められた。
今は一兵卒だが、どの人物ものちのちは上に上がる実力と血筋の持ち主ばかりだ。
つまらんちょかいが減り、居心地はそれなりに悪くなかった。
「今夜どうだ?たまにはケツ貸せよ。」
この手の輩がいなければな。
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