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公妾

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顔を上げると涙と鼻水と涎が光る。
あまりにもひどいから尻尾で拭った。
「ぷは、え?うぶ、なんで?」
「ロザリオ妃殿下がおられる。立場としてエヴは公妾だろう。王妃としての立場や婚姻はない」
「へ?こうしょう?なんですか、それ」
「知らないか」
王妃以外の閨を共にする女性だと説明するとぽかんと口を開けた。
「なんで王妃様がいるのに公妾が必要なんですか?」
「陛下と王妃の政治活動を手伝う意味がある。あとは、政略結婚でお互いに上手くいかなかった場合、他に気に入った女性を側に置くための方便だ」
「へー、……え、私が?政治活動?え?何するんですか?やだ、難しそう」
すっとんきょうが戻ってきて苦笑いをする。
「エヴが封印を担うだけで充分だろう。そういう裁量を求めての立場ではない」
「……はあ、そうですか?」
「問題はエヴが未婚の女性ということだ」
「え?」
「普通、公妾は未亡人や離婚した貴族女性だ。歴史的にいなかったわけではないが。他国にも。緩いところは緩いからな」
睫毛に溜まった涙を指に乗せて下に散らした。
「……先に婚姻するというのも手だな」
「へ?」
「未婚で公妾なんか目立つ。私の、いや、それも目立つのは変わらんか」
グリーブスが番を共有するなどあり得ん。
どうしたものかと考えつつ、私を望んだエヴに笑いが止まらない。
顔がにやける。
このまま畳み掛けようと思案した。
「私の方がいいのだろう?毛皮がふさふさの子供」
「はい、灰色と毛皮と灰色の目がいいです。格好いいから」
「私の子供を産めばいい」
「へ?」
「出来るかどうか魔導師長に聞いてみるが、色魔の話では核となる身体をここに作って精と魔力を練ればいいと言っていた。先に子を成してシルファヌスの魔力を注げば見かけは私の子供になるのではないか?」
ここ、とエヴの下腹を指さした。
エヴも目を見開き、自分の腹を覗いて手を添える。
色魔は今までいくつもの手がかりを残していた。
守護の紋の破り方、シルファヌスの存在。
精が馴染めば完全な淫魔になることも。
何度かこぼしていた。
知らなくて言葉の意味が分からなかった。
今回もおそらく。
あの会話はそういう意味だ。
別に作為があってこぼしたのではなく、あいつは軽口なのだ。
「……団長、早く」
「ん?」
「早くお腹に赤ちゃん入れてください!」
「いっ!」
いきなり頭を上げるから顎に頭突きを食らった。
岩にひっくり返ると早くしてくれとエヴが跨いでくる。
「どうやるんですか?!早く!団長ってば!寝てないで起きてください!」
胸ぐらを掴んで無理やり起こされて頭を揺さぶられる。
「ま、待て!聞いてから、ちゃんと確認してから、だ、だいたいまだ子の成し方を知らないのか?!」
「知りません!教えてください!」
「……怖いかもしれんぞ?」
「が、がんばります」
睨むと怯んでぶるっと震えていた。
唇を舐めた。
やっと獲物がかかったという思いが溢れる。
私の上に股がったエヴの足は勢いに裾がはだけて露出している。
薄いストッキングが太ももを覆ってる。
ドロワーズのような女性ものの下着を履いていない。
なら代わりに当て布の下着だ。
膝頭に手を置いてふわふわと撫でる。
「練習するか?」
「は、はい」
くすぐったいらしい。
軽く、ひくっと身体が跳ねた。
「暴れるなよ?」
「怖くないなら、わ、わわっ」
起き上がれば私の腹に股がるエヴが背中からコロンと転がる。
慌ててエヴが伸ばした腕を捕まえて両手を首に引っかけた。
ぶら下がってもたもたとぱっくり開いた足に戸惑っている。
「ま、また蛙」
「そうだな」
落ちるのが怖くて私の胴回りに足を絡めてしがみついたまま。
「裾を捲るぞ」
「え"、だ、団長?」
「教えるだけだ。知りたいんだろう?実践でもいいが」
まだ怖がりそうだと心の中で呟いた。
膝を撫でながらゆっくり裾を上げた。
「怖いか?」
緊張した面持ちでぎこちなく横に振る。
「怖くなったら早めに言え。絞め殺されちゃ敵わん」
「は、い、ぐず、」
「もう泣いてるのか?」
「ちょ、ちょっとだけ。そこ、怖い。ひ、う」
手足が震えていた。
たった一週間で無理か。
さっと裾を下げて倒れた身体を引き起こした。
「うぇ?団長?」
「いい。無理させて悪かった」
背中を軽く叩いて慰めた。
もうそこまでで終わりと思ったのに。
「だめ!がんばります!こ、こうすればいいですか?!」
「ま、待てっ、おいっ」
「手ぇ離してください!」
「う、」
自分でスカートの裾を巻き上げるから腕を掴んで止めたのに、離せと叱られると言う通りにしてしまう。
「あ、上げました。こ、これでいい?次、どうしたら、いいですか?」
「あ、ああ」
こんな大胆なことをしているのに巻き上げたスカートを抱えて恥ずかしそうに顔を埋めて声が震えている。
膝立ちに逃げ腰でぶるぶる震えて。
目の前の光景に生唾を飲む。
羞恥心からか、もじもじと腰が揺れてますます誘ってるみたいだった。
「だ、団長ぉ、つ、次、どうしたらいい、ですかぁ?ふ、ふぇ、ひっく」
「さ、触っていいか?」
「は、はいぃ」
やはりスカートの奥は当て布の下着で腰の両端の紐に指をかけた。
触れたせいで余計泣き声が大きくなる。
「ひ、ひぃん、ふえ、ぐずっ」
「やめていいぞ?」
そそられるものがあるが泣かせてまでしたいわけではない。
「い、イヤ。やめない。さ、触ってください」
エヴが動くから指に引っ掛かった紐が引っ張られて刺激に怯えて腰が逃げていく。
「怖いならやめろ。もういいから」
「に、逃げてないもん」
手を離してスカートを下ろそうと引っ張るのにイヤだとごねる。
「出来るもん」
「意地でしようとするな。やめろ」
「やだぁ、やっぱり嫌いなんだぁ、私のこと」
「やかましい。駄々っ子の子供を抱く趣味はない」
嫌がるのを無理やり剥がした。
抱えたスカートを下げてシワを払って捕まえて膝に抱き込んだ。
「番なのに」
「番でもだ」
「団長となら出来るのにだめですか?」
胸にしがみついて涙目に上目遣い。
心臓がぎゅうんっと鷲掴みにされた。
「……意味を分かっているのか怪しい。もう騙されんぞ」
何度、気落ちさせられたか。
そう思ったら押し倒そうとした手が止まった。
「騙してないもん。騙したことないですし、本当に団長がいいんですぅ。だめぇ?」
「あ、甘えるな」
「うう、団長がいじわるだぁ」
余計に胸に額をぐりぐりと押し付けて、ロバート殿もヤン達もこんな破壊力の甘えを食らってたのかと妙な感心してしまう。
ああ、くそ、番が、……か、……可愛い。
「う、」
「ん、……ん、ほら、キスも出来ます」
目をそらして空を見上げていたら、エヴは抱き締めた腕の中から私を見上げて顎や首をちゅ、ちゅ、と啄む。
「ここの、」
ごそごそとエヴの手が私の太ももをまさぐって上へと。
そのまま腰垂れの下を撫でる。
「この、棒を使うんですよね?」
「ま、待て、触るな、そこは」
「何となく分かりました。これをお腹に入れるんですよね?こ、怖いけど団長なら。……ど、どうせ、私、淫魔になるし、平気です」
しっかり反応しているそこをやわやわと握って、がんばります、と小さく囁く。
そんなの目の前で見せられてこのまま押し倒してしまいたいのに、声にひそんだ脅えと悲壮感に躊躇する。
「触りたい。でも嫌がることはしたく、ない。すまないが、まだ私も怖いらしい」
これだけ女性から勇気を出しているのに、私も根性なしだ。
あの光景がちらついて壊してしまいそうな不安から躊躇してしまう。
「エヴに嫌われるのが怖い。好きなんだ。死ぬほど」
ゆっくり手を伸ばして抱き締めた。
「だから少しずつはどうだ?こうやって抱き締めたり、キスしたり。お互いに出来ることを探していかないか?」
エヴの無言が怖い。
大人しく抱き締められている様子から嫌ではないと分かるが。
ここまでさせたのに臆病風に吹かれて断った。
恥をかかせたと嫌われてもおかしくない。
心臓をバクバクさせて待つしかなく、しばらくの沈黙のあと、はいと返事が聞こえた。
ほっとして肩の力が抜けた。
「団長」
「なんだ?、う」
俯いていたエヴが私を見上げて口付けを。
一気に精を吸われて前のめりに倒れた。
「ご馳走様でした」
声のエヴに抱き締められてそのまま、とぷんとまた影に落ちる。
「ふふ、団長、優しい。大好き」
強く抱き締める腕と機嫌よく囁く声。
「お耳も尻尾も、ふさふさの赤ちゃんも私のだもん」
弾んだ声に苦笑いをするのにぐったりして頬がひくりと動くだけだった。
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