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ママ

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カールの声かけてやっと邪魔をやめて私達を乗せた。
マルクスに嫌われているようだからとダリウスはオキシスのワイバーンに乗って、私はエヴの後ろへ座った。
飛んでる間もエヴは黙っている。
スカートの上から両足を片側のベルトに巻いて横に座らせ私が後ろから支えている。
濡れた身体は風に晒されて寒そうに震えていたから後ろからゆっくり腕を回して冷えた手を握った。
「エヴ」
声をかけても気づいた様子はなくもう一度、呼び掛けながら肩を軽く叩くと下げていた顔を私の方へ向けた。
「王宮の世話になるのは合わないのか?」
滝の下で遊んでいた時よりも表情が曇っている。
私の問いに視線が揺れた。
「陛下にクレインへ戻すように伝える」
ワイバーンやユニコーンを借りれる。
まだ私の団はあちらへいる。
ここの守りが落ち着けば頻繁にクレインに通えるし、滞在も出来る。
離れる寂しさかあるが、もうクレインの彼らの側に戻してやりたかった。
「いえ、クレインには戻りません」
妙に決意のこもった様子に首を捻った。
問いかけたいが言葉が思い付かない。
「団長、陛下にお話ししなきゃいけないことがあります」
面会をお願いできますかと問われた。
「先に内容を聞きたいのだが。何の話か伝えるから」
「帰ってから話します」
「分かった」
不機嫌な様子にそれ以上声をかけられなかった。
王宮に戻る途中で羽根の二人と三頭めのワイバーンが迎えに来た。
一頭は緊急時に備えて必ず残るのに、陛下が事態を重く見てヤン達に貸し与えたそうだ。
帰ればワイバーンの発着場は騒ぎになっていた。
その騒ぎの中、青ざめた陛下もその場におられた。
カールとオキシスが陛下へエヴが竜の愛し子だと説明し、舞い上がったマルクスがエヴを連れて脱走してしまったと伝えた。
「この光景を見れば納得する」
マルクスがエヴを囲いこんで手離さない上に他の二頭も取り合いに参加している。
ヤン達を尻尾で避けて押し合いする三頭の並んだ頭をエヴは喧嘩をするなとたしなめていた。
「離れたがらないし、この子達のところで寝泊まりしちゃダメですかね?」
世話人達が高位貴族の女性が泊まるところではないと慌てて諫めて必死で止めてほしいと嘆願していた。
「うわぁ!」
「エヴ様!」
「いい加減にしろよな!あのワイバーン!まだエヴ様の怪我がひどいってのに!」
エヴがヤン達と帰ろうとしたらまたマルクスが暴走して爪のついた二本の後ろ足でエヴを掴むと今度は厩舎へ飛び込んでしまった。
私もヤン達と一緒に追いかけて厩舎に飛び込むとエヴが心配するなと大声で答えた。
厩舎の一角の積まれた藁の山の中にマルクスがエヴを押し込んで羽根の下に隠して唸っていた。
「マルクスも、ヤン達が心配するからやめて?乱暴しないで?」
「ぐううう、ぐるるるるっ」
「だめだよ?守ろうとしなくていいから。マルクスも心配かけてごめんね?」
カールが追いかけてエヴを離してくれと泣いた。
「やめてくれぇ!処分されちまうよぉぉ!マルクスううう!」
「マルクスのせいだからね?カールさんをこんなに困らて反省してよ」
エヴの叱責と号泣するカールを見て申し訳なさそうにマルクスが項垂れた。
「説明してもらえるかな?クレインの姫」
私達を後から陛下も厩舎へ。
マルクスは陛下を見ると急に首を高く上げてバタバタと羽根を羽ばたかせて藁の奥へとエヴを隠そうと慌てた。
「ぎぁぁぁう!ぎゃぁぁっ!」
「違うよ!マルクス!もういい加減にしなさい!だめ!」
「きゅうううんっ」
「可愛く泣いてもだめ!ママは怒ったよ!」
ガミガミ叱って回りからはエヴの口から連発される、ママという単語の復唱が広がる。
「……カリッド、クレインの姫はいつマルクスの母親になった?君との子にするのか?」
「からかわないでください、陛下。エヴは竜の愛し子だからだそうです」
その後、エヴとカール達の話によるとマルクスには悪気はなく、単純にエヴを守ろうとしたと話す。
「申し訳ありません。私がすぐ、い、色んなことを怖がるせいです」
藁まみれのエヴが膝をついて頭を下げた。
自分のせいだからマルクスを許してくださいと望むエヴに陛下の顔色が一瞬で青白くなる。
「あなたがマルクスを許すと言うなら、私からの処罰は何もない。ここの出入りも好きになさい。勝手に飛び出すようなことは困るが他は自由に。私から詫びを送りたいので、何か望むといい」
それだけ言うと足早にその場を去っていった。
エヴが恐れたのは陛下だ。
マルクスは察してエヴを守ろうとした。
陛下もご理解されたからすぐに顔色が変わった。
「ヤン、もう少しマルクスといていい?」
「せめてこの毛布を」
ダリウスがエヴへ毛布をかけようと近づいたら、ごろんと横に転がったマルクスが毛布を足で取り上げてエヴにかけた。
「器用だ」
「……賢い。賢いけどこれは困りますね」
ヤンと二人で腕を組んだり首を捻ったりと呆れた様子でマルクスを眺めた。
ラウルだけはこの馬鹿ドラゴンと怒っている。
エヴの怪我はまだ治りかけで藁や地べたばかりのここにいては悪化すると厳しく叱る。
「ラウル、ちょっとだけ。お願い」
ねだられたらラウルも弱い。
少しだけだと頷いた。
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