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策略

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ここは中庭の中央。
私とエドの側でロバート殿とジェラルド伯をベアード、ヤン達が囲んで話し合いを続けていた。
声をかけてジェラルド伯へカールの協力と出立の予定を報告した。
「グリーブス団長、行かれるのならラウルとヤン、ダリウスを是非。三人なら私達より耐性があります。エヴの護衛で鍛えられてますので使うなら役に立ちます」
ジェラルド伯の背後の三人へ目を向けると拳を強く握り締めている。
殺気が漏れて辺りに漂う。
やる気はある。
だが、冷静さがないと困るとも思えた。
「解術の出来るラウルはお願いするつもりでした。ヤンとダリウスは。…ここの守りは支障はありませんか?ジェラルド伯は怪我をされているのに」
後ろに控えていたベアードが、くっと笑う。
「分かってらっしゃるのに聞くんですか?私達の力量」
わざと低く見積もった戦力のことを仄めかす。
「クレインの多くが戦闘種ですよ?」
もとは単独の討伐を好んでいたと聞く。
久々と喜ぶ気配が垣間見えてた。
「しばらくこちらは楽しませてもらいましょうか、ジェリ、」
少し背の低いジェラルド伯をからかい混じりに覗きこみ幼名を呼ぼうとしたら、ごっと足元から鈍い音で遮る。
「弁えろ」
「人前ですしねぇ。まあ、それで満足しときますよ、旦那様」
それも楽しいらしく、くっ、くっと笑みをこぼす。
今まで見たことのない饒舌と不遜な態度に話し合いに参加していたエドが目を軽く見開いた。
先程のやり取りを知らないエドは、図々しいほどの慣れ慣れしさを表に出すベアードと、それを荒々しく叱るだけでやめさせはしないジェラルド伯に首をかしげる。
「旦那様、お嬢様に何かあればどうしましょうか?」
「返してもらえばいい。それだけだ」
ジェラルド伯の答えに、にぃっとゆっくり口許を歪めたら黙って頷いた。
控えめなふりして。
返せば許す。
返さなかったらどうするか、その算段が二人の頭によぎってるはずだ。
その横で静かに怒りを滾らせたロバート殿が黙って二人のやり取りに頭を揺らす。
「娘の拿捕が陛下の采配ならまだしも。引きこもりの近衛どもに仕手やられた。どうもいかん。カッとなって簡単にかかってしまった」
とんとんと、ご自身のこめかみを人差し指で小突いた。
「鍛練のやり直しだ」
クレインでは魅了持ちの魔獣を生け捕りにしてわざとかけて耐える訓練をしていると話した。
魅了は精神汚染の一種だ。
魔導師長への餌の種明かしがここで来るとは思わなかった。
「その中でもこの三人は特出しています。どうぞ手足としてお使いください。近衛隊長の洗脳に対応出来たとしてもなんせ王宮を知りませんから、どうにもなりません」
私の采配がなければただの田舎者の役立たずと評した。
手厳しさに三人は先程の怒気を押さえ顔を引き締める。
「クレインはまだ余力がありますので、お気になさらず。長引くなら戻した自警団を呼び寄せるなり何なりと方法はあります。期限なども気にされることはありません。さあ、一人でも三人でも。良いようにお使いください」
ジェラルド伯が手を向けると冷静さを取り戻した表情で三人は居ずまいを正した。
話し合いを重ねて陛下と魔導師、エヴの安否確認は当然として場合によっては三人の救出を決める。
エドが人選を尋ねたが、団員からの選出は止しましょうとジェラルド伯は告げるので意向をお尋ねした。
「グリーブス団長のお立場から、王都兵団を利用しての政治活動ととられるのは避けた方が良いかと思いまして」
お互いに娘を理由に反抗したと思わせたいと答えた。
政治から離れた動機で事を進めたいというのは私も同意だった。
納得して首肯するが、エドは納得せずに口を挟む。
もし政治活動と判断されて咎があれば団に影響があるからと話すと、知らなかったふりをしろと言うのかと怒鳴った。
「エヴ嬢のこともですが、国の大事に私を関わらせない気ですか!?」
「やかましい。残った団はお前にしか頼めん。後先考えねばならない」
暑苦しく詰め寄るエドの肩を押し返した。
関係をないように見せても私の副官だ。
咎に巻き込まれる可能性の方が大きい。
「お前が団に残った方が次の手を考えやすい」
ジェラルド伯も頷く。
「ええ、最悪なのは団長が囚われることですね。その際は副団長の口添えを頼みたい」
そこまで話すとエドは頷いて気を静めた。
「後ろ楯は私が全ていたします。グリーブス団長と当然として派閥の方々も。出来ればそちらの統主にもご協力を求めたいが話し合う暇がありません」
「正当性を証明しなければただの誘拐になりますからね」
「娘と魔導師長に至っては拿捕されて罪人の扱いです。それなら逃亡幇助となります。不測の事態にも備えて打てる手は全て用意せねば。どうしたものか」
こめかみを押さえてじっと正面を見ながら目を細める。
いつもの頭痛を堪える様子はない。
どうしたものかと言いつつも、吹っ切れた顔付きでゆったりと笑っていた。
話し合いの末、ワイバーンに乗るのは私とヤン三人、羽根二人。
ジェラルド伯とロバート殿はまだ家としては書簡のみでまだ行動には見せないようすると判断された。
今すぐ動くなら平民で求婚者の三人と番の私。 
無名の羽根二人はクレインとの関わりを消して個人の扱いで通る。
誘拐紛いの救出を視野に入れているなら、出来るだけクレインと分断してエヴ個人の関わりを優先した。
捕まったとしてこちらは勝手にしたことと言い張れるし、ジェラルド伯は私達の尻馬に乗って公に返還を求める姿勢をとる心構えだ。
「ヤン、ラウル、ダリウス、いいか?相手は殺すな、大怪我を負わすな。逃げ道は必ず確保しろ。失敗してもすぐに次の手を考える。お前達は死ぬな」
ジェラルド伯の話にヤン達は頷いた。
「モルガナとトリスだったかな。お前達も同じだ。心してかかれ」
次に三人の後ろに並んだ羽根の二人にも声をかけて、すぐに支度をしましょうと私へ促した。
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