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晩餐
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「今まで通り減税とエヴ嬢への優遇で済むと思います」
「君が割りを食う。功績が大きくともぽっと出の彼女と長年の貢献をした君なら君を優先できたのに」
婚姻の口添えが出来ないことを残念がる。
「もとから陛下のお力添えは望んでおりません。圧をかければどうせ頑なになりますから。先程のような気遣いは無用です」
わざと威圧的な態度で私の婚姻を進めようとしたことを口にすると身長さから首を傾けて私を見上げた。
「懐柔の宛はないのにか?」
「それは時間をかけてどうにかしようかと。せめて隣国の件はお願いします」
「分かった。それは国の利益に反するからやりやすい」
「助かります。虫が多くて困ってました」
モンマルトル伯爵の息子を思い浮かべて眉をひそめた。
「求婚者の三人か?」
「あ、いえ。彼らは私と同等です。むしろ、」
しばらく言葉が止まった。
戦友?友人?
当てはめる言葉が見つからず無言になる。
「何にしろ、あの三人は気に入ってます。相手に不足はないと言ったところです」
「よほど気に入ったか。番に集る男ども相手に」
「そうですね。共に戦って気持ちのいい男達です。それに番が三人のことを兄のように慕っていまして。邪険にすれば簡単に嫌われます」
「君がそういうならいずれ会うのが楽しみだ。だけど友人として君の命の方が大事だよ」
食堂に着くとエヴとジェラルド伯は先に座って待っていた。
「待たせて申し訳ない」
「な、泣いて、申し訳ありません」
先程の厳しい陛下の態度を恐れてか物怖じしている。
「いや、クレインの姫。こちらに非があった。先程の態度は謝罪をしよう。怖がらせて申し訳ない」
涙を流したことも気にするなと言えば、ほっとしたように息を吐くエヴの様子に陛下の眉が下がる。
「すまなかったね。ジェラルド、魔導師長に何か謝罪を望むなら私が引き受けよう」
陛下の言葉にジェラルド伯は一瞬で、かっと目を見開いて怒りに顔を歪めた。
「…はっきり申しますと、どれもこれも娘に軽々しく触れて腹に据えかねております」
私への怒りも垣間見える。
あまりのあからさまな怒気に陛下が唖然となり、私は静かに頭を下げた。
「人狼の本能をお許しください」
「…ええ、それはもちろん」
ふう、と軽く息を吐いて気を静めると穏やかな表情に変わる。
「魔導師長は私共に関わることを止めていただければそれで。この件はあまりにも失礼極まりないので、何を要求しようにもありません」
「…矛先を納めてくれて助かる」
本当にすまなかったねと陛下がエヴへと優しく声をかけるとエヴがぱちぱちと目をしばたかせて、ああと納得に短く声をあげた。
「大丈夫です。団長で慣れてます。服を破くし、ひっくり返してなめ、むが、」
隣のジェラルド伯が席から立ってエヴの口を手で塞いだ。
私も席を立って前のめりに手を出していた。
「…グリーブス団長も、本能のまま娘を手荒にされたようで」
「…申し訳ありません」
ジェラルド伯の睨みに謝罪を返した。
奥方がされたことと同じことをしているのでそこまでの罪悪感はない。
「…これは嫌われるはずだな、カリッド」
「嫌われてはいません。怖がられてますが」
「変わらないだろ?」
「多少変わります」
意地を張った私に呆れた様子だったが、陛下が穏やかに接すると安心してニコニコと微笑むエヴを中心に和やかに食事が進んだ。
社交に慣れていないと思っていたエヴだったが、ジェラルド伯と合わせて意外と会話を回す。
陛下のお話に興味を持ち耳を傾けて屈託なく笑い喜んだ。
物怖じさえしなければ本人の明るさが場に花を添えた。
「みあん」
首からぬっと隠れていたヒムドが出てきてエヴの飲んでいたグラスの水を倒す。
「また知らせか」
二度めとなれば見慣れてヒムドの粗相に驚かない。
倒した水がまた、もこもこと動いて文字を形作る。
スタンビードの発生とロバート殿らで決めた対応を知らせるものだった。
「急ぎ戻るか?」
陛下の質問に私はジェラルド伯へと顔を向けた。
小規模ということと砦からの少し距離がある。
城門を閉ざして明日の討伐で問題はなく、エドとベアードの隊列で対応出来る数だ。
これを言い訳に帰還ならそれに倣おうかと考えて判断を委ねる。
「いえ、現場だけでの対応で問題ありません」
ジェラルド伯が手紙の内容の通りで問題はないとヒムドに告げると小さく、み、と鳴いてエヴの首に戻った。
この程度で対応出来ないと判断されたくなかったのだろう。
エヴが手にしていたナフキンを上に被せて水気を拭き取り片付ける。
「お嬢様、こちらを新しくお使いください」
すぐに老執事のデオルトがナフキンをエヴへと渡した。
エヴがありがとうと笑みを浮かべて答えると使用人と距離を取る王都のマナーとは真逆の親しみやすさに老執事も柔らかく笑みを返した。
「私共に礼などよろしいのです」
「え、すいません」
柔らかくともたしなめられたとは分かっているのに控えめな態度は変えようもなくデオルトにもクレインで見せた対応で受け答えをしている。
淑女とは言えない幼い対応。
番だからではなく他人に礼儀を持つ心根は私にはとても好ましい。
エヴを見つめて顔が緩む。
デオルトも不快ではないらしく笑みを堪えきれずに目を細めて暖かい眼差しを向けた。
逆に陛下は幼さに不満があるらしくむうっと考え込む。
隠していても長い付き合いでこういうことは分かりやすい。
「君が割りを食う。功績が大きくともぽっと出の彼女と長年の貢献をした君なら君を優先できたのに」
婚姻の口添えが出来ないことを残念がる。
「もとから陛下のお力添えは望んでおりません。圧をかければどうせ頑なになりますから。先程のような気遣いは無用です」
わざと威圧的な態度で私の婚姻を進めようとしたことを口にすると身長さから首を傾けて私を見上げた。
「懐柔の宛はないのにか?」
「それは時間をかけてどうにかしようかと。せめて隣国の件はお願いします」
「分かった。それは国の利益に反するからやりやすい」
「助かります。虫が多くて困ってました」
モンマルトル伯爵の息子を思い浮かべて眉をひそめた。
「求婚者の三人か?」
「あ、いえ。彼らは私と同等です。むしろ、」
しばらく言葉が止まった。
戦友?友人?
当てはめる言葉が見つからず無言になる。
「何にしろ、あの三人は気に入ってます。相手に不足はないと言ったところです」
「よほど気に入ったか。番に集る男ども相手に」
「そうですね。共に戦って気持ちのいい男達です。それに番が三人のことを兄のように慕っていまして。邪険にすれば簡単に嫌われます」
「君がそういうならいずれ会うのが楽しみだ。だけど友人として君の命の方が大事だよ」
食堂に着くとエヴとジェラルド伯は先に座って待っていた。
「待たせて申し訳ない」
「な、泣いて、申し訳ありません」
先程の厳しい陛下の態度を恐れてか物怖じしている。
「いや、クレインの姫。こちらに非があった。先程の態度は謝罪をしよう。怖がらせて申し訳ない」
涙を流したことも気にするなと言えば、ほっとしたように息を吐くエヴの様子に陛下の眉が下がる。
「すまなかったね。ジェラルド、魔導師長に何か謝罪を望むなら私が引き受けよう」
陛下の言葉にジェラルド伯は一瞬で、かっと目を見開いて怒りに顔を歪めた。
「…はっきり申しますと、どれもこれも娘に軽々しく触れて腹に据えかねております」
私への怒りも垣間見える。
あまりのあからさまな怒気に陛下が唖然となり、私は静かに頭を下げた。
「人狼の本能をお許しください」
「…ええ、それはもちろん」
ふう、と軽く息を吐いて気を静めると穏やかな表情に変わる。
「魔導師長は私共に関わることを止めていただければそれで。この件はあまりにも失礼極まりないので、何を要求しようにもありません」
「…矛先を納めてくれて助かる」
本当にすまなかったねと陛下がエヴへと優しく声をかけるとエヴがぱちぱちと目をしばたかせて、ああと納得に短く声をあげた。
「大丈夫です。団長で慣れてます。服を破くし、ひっくり返してなめ、むが、」
隣のジェラルド伯が席から立ってエヴの口を手で塞いだ。
私も席を立って前のめりに手を出していた。
「…グリーブス団長も、本能のまま娘を手荒にされたようで」
「…申し訳ありません」
ジェラルド伯の睨みに謝罪を返した。
奥方がされたことと同じことをしているのでそこまでの罪悪感はない。
「…これは嫌われるはずだな、カリッド」
「嫌われてはいません。怖がられてますが」
「変わらないだろ?」
「多少変わります」
意地を張った私に呆れた様子だったが、陛下が穏やかに接すると安心してニコニコと微笑むエヴを中心に和やかに食事が進んだ。
社交に慣れていないと思っていたエヴだったが、ジェラルド伯と合わせて意外と会話を回す。
陛下のお話に興味を持ち耳を傾けて屈託なく笑い喜んだ。
物怖じさえしなければ本人の明るさが場に花を添えた。
「みあん」
首からぬっと隠れていたヒムドが出てきてエヴの飲んでいたグラスの水を倒す。
「また知らせか」
二度めとなれば見慣れてヒムドの粗相に驚かない。
倒した水がまた、もこもこと動いて文字を形作る。
スタンビードの発生とロバート殿らで決めた対応を知らせるものだった。
「急ぎ戻るか?」
陛下の質問に私はジェラルド伯へと顔を向けた。
小規模ということと砦からの少し距離がある。
城門を閉ざして明日の討伐で問題はなく、エドとベアードの隊列で対応出来る数だ。
これを言い訳に帰還ならそれに倣おうかと考えて判断を委ねる。
「いえ、現場だけでの対応で問題ありません」
ジェラルド伯が手紙の内容の通りで問題はないとヒムドに告げると小さく、み、と鳴いてエヴの首に戻った。
この程度で対応出来ないと判断されたくなかったのだろう。
エヴが手にしていたナフキンを上に被せて水気を拭き取り片付ける。
「お嬢様、こちらを新しくお使いください」
すぐに老執事のデオルトがナフキンをエヴへと渡した。
エヴがありがとうと笑みを浮かべて答えると使用人と距離を取る王都のマナーとは真逆の親しみやすさに老執事も柔らかく笑みを返した。
「私共に礼などよろしいのです」
「え、すいません」
柔らかくともたしなめられたとは分かっているのに控えめな態度は変えようもなくデオルトにもクレインで見せた対応で受け答えをしている。
淑女とは言えない幼い対応。
番だからではなく他人に礼儀を持つ心根は私にはとても好ましい。
エヴを見つめて顔が緩む。
デオルトも不快ではないらしく笑みを堪えきれずに目を細めて暖かい眼差しを向けた。
逆に陛下は幼さに不満があるらしくむうっと考え込む。
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