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愛し子

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「何をなさるのか説明をお願いします、団長」
ヤンが詳しく聞くつもりで私のあとを追いかけていた。
「今から王都に戻る。少し前から報告に呼ばれていた。ワイバーンを借りて一度戻るつもりだったからちょうどいい。私から陛下へ直接お伝えする」
中庭の一角に簡易的な天幕の屋根をかけてワイバーンの寝床が用意されている。
騎手に支度を指示すると肩に担がれた魔導師と私の勢いに押されてながら鞍の支度を始めた。
「ジェラルド伯とエドに2日で帰ると伝えてくれ。遅れる時は鳥を送る。陛下へは私がお話しする」
「団長!待って」
エヴがダリウスに背負われて追いかけてきていた。
「ヒムド、ついて行って。連絡はこれでお願いします」
首から現れたヒムドが私の側に寄ってきた。
「いらん。エヴの守りだ」
こちらの連絡が出来てもエヴから受けとることは出来ない。
それも不要の理由だ。
「エヴ様の言う通りにお持ちください。側にいればこちらから鳥を直接返せます。必ず役に立ちますから。何かあったらお知らせを」
「分かった」
ヤンからも後押しがある。
それには監視の意味合いもあると察した。
エヴにそのつもりがなくてもジェラルド伯ならそこまで見越す。
だから渋く顔をしかめるダリウスと違ってヤンは止めない。
騎手に頼んで眠ったままの魔導師長をどうにか乗せろと預けると渋りながらワイバーンに昇った。
ヤンも手伝いに足を持ち上げて地べたに平たく寝そべったワイバーンを登っている。
「私がまた何か失敗したんでしょう?すいません」
ふらつくのにダリウスから降りて頭を下げた。
「耳を貸せ」
頭を上げても背が低い。
腰を屈めて耳元に顔を寄せる。
ふらふら揺れる身体の支えに手を差しのべると素直に握って寄りかかってくる。
ふと両の手首を見ると絡んだ木の枝が目についた。
「リードとラウルを確認しろ。昨日、寝ぼけて治療したらしい。そこから感づかれた」
枝を剥がしながら答えるとエヴが小さく悲鳴のように息を吸って後悔のため息を吐く。
「私、どうなりますか?人に迷惑かけるから種族だから、処分ですか?」
「させん。私もジェラルド伯も許さない」
エヴは人に害を与えていないと答える。
肩と首にも細かい枝がまだ巻き付いている。
それも軽くはたくと、エヴも自分で服に刺さった破片を抜いて地面に落とす。
首に下がったチョーカーが揺れて指を引っかけた。
「わ、」
引くと前にバランスを崩して私の胸に手を置く。
「まだ着けてる」
「は…?はぁ、着けてますけど」
「ずっと着けとけ。気に入った」
「…こっちは不安なのに。そんなのどうでもいいです」
「これがついてるとやる気が出る」
首をかしげて分かっていない。
「好きだと言ったろ?」
「そうですね」
「同じものを着けるのは構わないくらい私のことを好いてるんだ。嬉しくなる」
抱き締めるとダリウスから肩を押されてすかさずエヴを盗られた。
ついでに近いと叱られた。
「エヴは装飾品を着けるのは嫌いだろ?唯一、それだけ」
「わ、ぷ」
ぐりぐりと頭を混ぜる。
眉をしかめたダリウスが黙って私の手を払う。
「本当にあなたは油断も好きもない」
「悪い」
にやっと笑って返すとダリウスが悔しそうに睨んで寄りかかったエヴを持ち上げた。
「戻ったら好きなだけキスも膝枕もしてもらう。服装は寝心地が良さそうなのを王都で買ってくる」
「エヴ様にそ、そんなのさせるわけないでしょうが!」
「団長はこんな時に何言ってるの?」
「褒美があるとやる気になるんだ」
エヴを抱えたまま掴みかかりそうなダリウスからさっさと逃げてワイバーンへ。
「時間がないから話はまた戻ってから聞く」
騎手と魔導師長を挟んでワイバーンの背に乗って落下防止のベルトを太ももに装着する。
魔導師長もベルトを装着して前方に座った騎手が背中に紐でくくりつけて支えていた。
早く飛び立てと急かすのに騎手が頭をかしげた。
「すいません。なぜか嫌がっていて」
ワイバーンに指示を出すのに羽を広げようとしないと言う。
「マルクス、どうしたんだ。言うことを、うわあ、」
のし、のしと歩いてエヴ達へと振り向いてぐるぐると唸る。
「おい、危険はあるのか?」
「いえ、そんな!この子は大人しくて一番いい子なんですよ!マルクス!マルクス!」
「大きいねぇ、格好いい」
ワイバーンの背では私達が慌てているのにエヴがのんびりワイバーンを誉めて喜んでいる。 
「飛ぶ前に撫でていいですか?」
「え?!危ないからダメですよ、マルクス!」
ヤンとダリウスが気色ばんで身構えるとワイバーンは三人の前に頭を地面に下げてずりずりと這って近寄る。
ぐぅぅ、ぐうう、と鳴いて甘えた気配にエヴがダリウスからぱっと降りて目の前に来たワイバーンの長い顔に抱きついた。
「そうなの?ここの草が気に入ったの?そうなんだ。え?何?…そっかぁ、ありがとう。私も大好き。また来てね?」
ワイバーンの唸り声に相槌を返して話している。 
また何か能力かと思ったが分からずに首を捻った。
「ふしゃあああ!」
「おっと、今度はなんだ」
落ちないようにマントに包んでいたヒムドが怒りながら顔を出してエヴへ吠えた。
「ヒムドも焼きもちやき」
「エヴ様、もう邪魔をされてはいけません」
ヤンがエヴを支えて立ち上がらせてワイバーンから離れると名残惜しそうにワイバーンが追いかけて頭を寄せる。
「へぇぇ、こんなになついて珍しい。あの子はもしかして竜の愛し子ですか?」
エヴがクレインの姫と知らない騎手が呑気に呟く。
竜に気に入られやすい人間の総称だ。
「さあな」
本性が神龍なら同族としてなついてるのだろう。
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