263 / 315
肴
しおりを挟む
ジェラルド伯とベアードも騒ぎを聞いて面白いと笑った。
ロバート殿は困り顔だが、これほど大きくなった騒動にどうしようもないと頷く。
エヴ自身を褒美にすることが嫌なだけで力比べに参加することは気にされない。
「夜も遅い。エヴ達とグリーブス団長の対決でちょうどよかろう」
「お嬢様と団長のハンデもちょうどいいかと思います」
「ああ、そうだな」
ベアードの言葉にすんなりとジェラルド伯は首肯してロバートも同じように頷いた。
「そんなことないですもん」
「ある」
拗ねたエヴが抗議するが二人は力量を見誤るなと釘を刺す。
「うう、」
「そういうことだ」
父親と兄に叱られ悔しそうにしている横からエヴの顔を覗いて笑いかけるとべえっと勢いよく舌を出した。
前回と違い今度は二人に見咎められ案の定、行儀が悪いと叱られる。
そうするとますますヘソを曲げて拗ねる姿がおかしくて口を開けて笑った。
イグナスの采配で待つ間、ジェラルド伯らと会話を楽しむことにした。
エヴは私達の輪に入らず、物珍しいとイグナスのあとをついて回って色々と質問をしている。
奥方達のこと、隣国のこと、討伐のこと。
それぞれの馴れ初めを聞くと面白かった。
ジェラルド伯は当初、礼儀正しくしていても生意気で見目の良さから揉め事ばかり起こす奥方に困ったと懐かしそうに話していた。
「一目惚れでしょうに」
横からにやっと笑みを浮かべたベアードが口を挟むと怒ることなく素直に頷いた。
「美しい剣筋をしていた。簡単に出来るものではない」
今はもっと洗練されて美しいと目を細めて答えた。
「普段から思いきりのいい奥様と我慢し続けて爆発する旦那様とは、ある意味相性がよろしいんですよねぇ」
「…それは悪かった」
ブラウンのしんみりした物言いになぜかジェラルド伯が遠い目をしながら謝った。
「お二人とも結局は思いきりが良すぎて後始末は私共なんですよ」
不思議にしていた私にブラウンが補足する。
最初から割り切ってさばけた奥方と頭痛を堪えながら我慢するのに最後はキレるジェラルド伯のことを言いたいのか。
先々代のことは詳しく知らないが、最近まで続いた冷遇の切っ掛けは王家の姫君を人前で袖にしたせいだ。
側にいてそういうことは多くあったのだろう。
ベアードの奥方は本邸の庭師をしているそうだ。
庭師と言っても温室を専門にしているらしい。
新しい花の栽培や品種改良の研究をしていると話していた。
「出会いは?」
「賊の討伐です。人身売買の。誘拐された被害者と犯人を追いかけた先で鳥かごに閉じ込められていたのを助けました。帰るところもないと言うので側で好きにさせてたんです。移り気なフェアリーのことだからそのうちいなくなると思ったのに居着かれました」
気づいたら好ましくなったと樽を煽りながら話す。
「毎日、箒の下敷きになるわ戸棚に閉じ込められて出られなくなるわ。くく、小さい身体で頑張るのにっ、もう面白くて」
突っ伏して笑いだした。
「このまま嫁になればいいと言ったら一度逃げられましたがね」
さも何でもない顔でこぼすので固まった。
「逃げられたのか?」
「ええ、夏だったので開けていた窓から飛んで。すぐに追いかけて捕まえましたよ。そしたら、からかうなと泣かれました。まあ、自分は性欲旺盛なオーガですしねぇ。当初はただの同居人のつもりだったので、馴染みの女もそれなりにいましたし。妻への気持ちが固まったからプロポーズする前に身辺整理していたんですけど、信じてもらうまで大変でした」
今は子宝にも恵まれて幸せですよと微笑む。
「そうか、」
よかったなと続けようとしたら、不遜な顔つきでベアードが前のめりに私を覗きこむ。
「なので、グリーブス団長は我が家の幸せのためにとっとと身を引いてください、妻と息子らが、おっと」
「この馬鹿、いらんことを言うなっ」
「ご家族の甘やかしもいい加減にしてくださいっ」
ジェラルド伯とブラウンにそれぞれの小突かれて前のめりだった身体がよろけて、けらけら笑っていた。
「黙って飲め」
「分かりました」
静かになっても顔を緩めるベアードを呆れながら二人は見つめ、ベアードの態度を怒りたいのにそこまで嫌いではないと思えて私も顔が緩んでいた。
そうしているうちにそろそろ試合を始めますと団員に声をかけられた。
支度が整い、賭けの受付も締め切ったそうだ。
ロバート殿は困り顔だが、これほど大きくなった騒動にどうしようもないと頷く。
エヴ自身を褒美にすることが嫌なだけで力比べに参加することは気にされない。
「夜も遅い。エヴ達とグリーブス団長の対決でちょうどよかろう」
「お嬢様と団長のハンデもちょうどいいかと思います」
「ああ、そうだな」
ベアードの言葉にすんなりとジェラルド伯は首肯してロバートも同じように頷いた。
「そんなことないですもん」
「ある」
拗ねたエヴが抗議するが二人は力量を見誤るなと釘を刺す。
「うう、」
「そういうことだ」
父親と兄に叱られ悔しそうにしている横からエヴの顔を覗いて笑いかけるとべえっと勢いよく舌を出した。
前回と違い今度は二人に見咎められ案の定、行儀が悪いと叱られる。
そうするとますますヘソを曲げて拗ねる姿がおかしくて口を開けて笑った。
イグナスの采配で待つ間、ジェラルド伯らと会話を楽しむことにした。
エヴは私達の輪に入らず、物珍しいとイグナスのあとをついて回って色々と質問をしている。
奥方達のこと、隣国のこと、討伐のこと。
それぞれの馴れ初めを聞くと面白かった。
ジェラルド伯は当初、礼儀正しくしていても生意気で見目の良さから揉め事ばかり起こす奥方に困ったと懐かしそうに話していた。
「一目惚れでしょうに」
横からにやっと笑みを浮かべたベアードが口を挟むと怒ることなく素直に頷いた。
「美しい剣筋をしていた。簡単に出来るものではない」
今はもっと洗練されて美しいと目を細めて答えた。
「普段から思いきりのいい奥様と我慢し続けて爆発する旦那様とは、ある意味相性がよろしいんですよねぇ」
「…それは悪かった」
ブラウンのしんみりした物言いになぜかジェラルド伯が遠い目をしながら謝った。
「お二人とも結局は思いきりが良すぎて後始末は私共なんですよ」
不思議にしていた私にブラウンが補足する。
最初から割り切ってさばけた奥方と頭痛を堪えながら我慢するのに最後はキレるジェラルド伯のことを言いたいのか。
先々代のことは詳しく知らないが、最近まで続いた冷遇の切っ掛けは王家の姫君を人前で袖にしたせいだ。
側にいてそういうことは多くあったのだろう。
ベアードの奥方は本邸の庭師をしているそうだ。
庭師と言っても温室を専門にしているらしい。
新しい花の栽培や品種改良の研究をしていると話していた。
「出会いは?」
「賊の討伐です。人身売買の。誘拐された被害者と犯人を追いかけた先で鳥かごに閉じ込められていたのを助けました。帰るところもないと言うので側で好きにさせてたんです。移り気なフェアリーのことだからそのうちいなくなると思ったのに居着かれました」
気づいたら好ましくなったと樽を煽りながら話す。
「毎日、箒の下敷きになるわ戸棚に閉じ込められて出られなくなるわ。くく、小さい身体で頑張るのにっ、もう面白くて」
突っ伏して笑いだした。
「このまま嫁になればいいと言ったら一度逃げられましたがね」
さも何でもない顔でこぼすので固まった。
「逃げられたのか?」
「ええ、夏だったので開けていた窓から飛んで。すぐに追いかけて捕まえましたよ。そしたら、からかうなと泣かれました。まあ、自分は性欲旺盛なオーガですしねぇ。当初はただの同居人のつもりだったので、馴染みの女もそれなりにいましたし。妻への気持ちが固まったからプロポーズする前に身辺整理していたんですけど、信じてもらうまで大変でした」
今は子宝にも恵まれて幸せですよと微笑む。
「そうか、」
よかったなと続けようとしたら、不遜な顔つきでベアードが前のめりに私を覗きこむ。
「なので、グリーブス団長は我が家の幸せのためにとっとと身を引いてください、妻と息子らが、おっと」
「この馬鹿、いらんことを言うなっ」
「ご家族の甘やかしもいい加減にしてくださいっ」
ジェラルド伯とブラウンにそれぞれの小突かれて前のめりだった身体がよろけて、けらけら笑っていた。
「黙って飲め」
「分かりました」
静かになっても顔を緩めるベアードを呆れながら二人は見つめ、ベアードの態度を怒りたいのにそこまで嫌いではないと思えて私も顔が緩んでいた。
そうしているうちにそろそろ試合を始めますと団員に声をかけられた。
支度が整い、賭けの受付も締め切ったそうだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
97
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる