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わぁっと中央とは違う一角が微かに賑やかになったのでそちらに視線を向けるとガードとサライエが見えた。
「リーグ!」
エヴが駆け寄っていく。
サライエの背に担がれたリーグに声をかけた。
エヴが専門の奴らも招いて私達の一角に囲んで座った。
上官のスペースに呼ばれて恐縮する彼らを気にせずブラウンとエヴはリーグのために座椅子とクッションを集めて戻ってくる。
「驚いた。来てよかったのか?」
まだ寝たきりと思っていたのに。
思ったより元気な顔を見られて私も笑みを浮かべながら彼らに問いかけた。
「魔導師長が少しならこちらへ呼んで気晴らしをさせていいと仰ったので迎えに行ってました」
ガードがサライエから杯を受け取って低い座椅子に寄りかかって座るリーグの頭をくしゃっと混ぜた。
「もう動いて大丈夫なんだな」
久々に会うと顔の腫れは引いて少し痩せていた。
「へへ、おかげさまで」
魔導師長、すげえっすと笑った。
「難しいことは分からないっすけど後遺症もなく完治するそうです」
「良かったよ」
私もくしゃっと頭を混ぜると恥ずかしそうに顔をしかめた。
「私もぉ」
「うおお、やーめーてぇ、エヴ嬢はお姫様だから俺なんかにだめってば」 
「はーい」
エヴも私とガードの隙間に割り込んで優しく頭を撫でて、ガードとサライエは二度目の甘やかしにあまり驚きを見せないが、初めて見る専門の奴らは固まっていた。
こそこそとダークホースの噂は本当だと囁く。
賭けの話だと察した。
「リーグ、酒はさすがにだめだよな?お嬢様と同じ果実水でいいか?」
「うっす、酒は止めとけと言われました。ブラウンさん、ありがとうございます」
「早く元気になれよ、他の奴らもお前のこと心配してるからな」
「マジっすかぁ。ありがてぇ」
「はは、あいつらはまた可愛がってやると息巻いていたよ」
「おお、それはこわいっすねぇ」
リーグとブラウンの親しげな様子にも専門の奴らはまた固まる。
愛想のいいブラウンが特別だからと上官用の酒を部下達に勧めて最近の討伐の働きを労う。
ガードともお互いに酌をし合って話し、会話が弾む所を見ると鍛練の付き合いから親しくなったらしい。
エヴが料理の皿を持ってくるのをサライエが一緒に付き添う。
本当は座っていてほしいらしいが、諦めてリーグの好物を二人で相談していた。
「戻ったらすごい盛り上がりですね?この騒ぎは何ですか?」
ガードが中央の歓声に負けないように大声で私達に問いかけた。
説明するとサライエが褒美はほしいとやる気になり、参加しに行った。
「サライエの奴、無理だって言ったのに聞かないなぁ。私も褒美目当てに参加したけどクレインの獣人と当たってすぐに負けたよ」
「自分はホビットが続いたから何とか勝てた。でも一人強化のうまい奴がいて負けちまった」
「俺なんか魔導師長だったぞ。手を組んで呪文の暇なく倒そうとしたら、一言、アーだかダーだか、口にしたら地面に転がされた」
ガードの部下はそれぞれ負けて酒の席に戻っていたらしい。
「そんなに強いんですか?」
エヴが興味津々で彼らの話に潜り込んでいく。
高位の令嬢で、団長位のエヴに緊張していた奴らもエヴの無邪気さに毒気を抜かれてリーグを挟んでよくしゃべる。
その間にサライエがあっさり戻ってきて、エドにやられたとガックリしていた。
「あいつも出てるのか?」
下にそういうのは譲ればいいのにと呆れて声に出すと、クレイン伯と対決するまで粘るそうですとサライエが答えた。
「そろそろ決着つきますよ。数人になってました」
「誰が残ってる?」
「うちからは副団長とスミス部隊長、あと、前衛のラッシュ、デニス、」
7人ほど名が上がった。
もとの腕力が強く強化が得意な奴らだった。
「魔導師長もだろ?」
「ええ、もちろん」
「クレインは?」
エヴと並んでブラウンが問うとサライエが名乗りながら指を折って数えていた手を下げた。
「ベアード団長おひとりです」
「えー?お父様は?お兄様も?なんで?どうしてぇ?」
「いや、見に行った頃にはもう勝負が着いていたみたいで分からないんです」
エヴがぱっと立ち上がって隣のブラウンの腕を引っぱる。
「見に行こうよ。ブラウンも行こう」
「ええ、気になります。いやぁ、お二人なら絶対残ると思ったのに」
決勝ならと私も覗きに行くことにした。
ガードも立ち上がる。
リーグは結果を教えてください、とサライエ達と残った。
背の低いエヴが人だかりの後ろでぴょんぴょん跳ねて覗いていたから脇を抱えて持ち上げた。
「見えるか?」
「んー、何がなんだか分からないです」
私からは表情も全部見えるが、人族の視力じゃ無理だったようだ。
通せと回りに一言言えばすぐに左右に道が出来た。
とっとと抜けて最前列に進むと、イグナスが盛り上げに囃し立てて次の対戦を紹介しているところだった。
「おーっと!グリーブス団長とエヴ様も参加されますか?!」
「いや、見学だ」
エヴを下ろして背後の奴らに気を使ってその場に座る。
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