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戸板
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待っている間暇だからと側の通路に面した中庭へ出た。
貴人牢のある棟と石造りの城は屋根のついた回廊で繋がっている。
手すりで区切られているが、合間に中庭と繋げた壁も手すりもない動線がある。
そこから出てエヴとロバート殿はダンスの練習と二人で踊った。
「私はいかがしましょうか?」
「観るのも大事なことだ。ロバート殿をよく観察するといい」
ヤンの問いかけにそう答えると頷いて二人を眺める。
「あの水準までいけるか不安です」
「時間があれば大丈夫だが。せめて見劣りしない程度になれ」
「かしこまりました」
二人が一曲の長さを踊ると通路の奥からぞろぞろとジェラルド伯が皆を引き連れて通りかかった。
「まあ、素敵ね。ジェラルド、私も踊りたいわ」
「少しだけだ」
「分かってるわよ?」
ジェラルド伯の腕にエスコートされてエヴ達と並んで四人でタイミングを合わせて踊った。
本当に少しだけ。
一曲分にもならない間でジェラルド伯は夫人を連れて回廊へと戻る。
ついでにエヴ達も足を止めて二人に従った。
四人の壮観さに名残惜しく、他の団員らが寂しそうにため息を吐いた。
「旦那様、もう少し見たかったですよ。残念です」
一人が言うと他の者も頷く。
「大公のお見送りが先だ」
板の上にはうつ伏せに寝かされた大公がいる。
静かなところを見ると失神しているのかもしれない。
しかし、よく見ると姿勢に違和感を感じた。
どこか殴打や裂傷か、それとも他に骨の異常があるのかと気がかりに眉をひそめてじっと見つめると側にいたアグネリアが気づいてこちらに、にぃと笑みを向けた。
「さすがです。お気づきになられたのですね。ご覧になります?」
わくわくと笑みを浮かべて大公を手で指し示す。
ぞわっと怖気が走り、板を先導するブラウンへと視線を向けるとさっと目をそらした。
「ブラウン」
「俺は知りません」
呼び掛けるが顔をそらして答えを拒否した。
「モルガナもとっても上手でして。見聞もあったようで教えるとすんなり覚えてさすがサキュバスと思いました」
側にいるモルガナの肩を叩いて誉めている。
止められそうなジェラルド伯達は家族のしばらくの別れとお互いに声を掛け合ってこちらには気づかない。
好奇心がない訳ではないが罪人の拷問を得意とする鬼人と淫を好むサキュバスの組み合わせが恐ろしい。
「あまり気持ちのいいものじゃなさそうなので、見るのは遠慮する。何をされた?」
「見た方が分かりやすいですよ」
「…聞いてからにする」
「そう仰らずに」
「見せたいのか」
「ええ、久々に会心の出来なので」
そう言うと大公の首筋に指をかけて襟元を強く引っ張った。
服の下に縄が見える。
大公に掛布のように重ねていたロングコートをよけて服の背中を捲ると素肌を縄が網状にめぐっていた。
その縄に指をかけてくっ、くっと引くと気を失っている大公が甘く呻いた。
年寄りの情交は苦手だ。
鳥肌に思わず腕をさすった。
「大公も大変お気に召したようです。お喜びでした」
くく、と笑みを浮かべてまたコートを丁寧にかけ直す。
「過酷な、刑だな」
引きつりながら答えるとアグネリアは気にした様子はない。
「私共、女の身で戦いに投じていますと男とは違う身の危険に晒されます。覚悟の上とは言え喜んで受けるわけではありません。命も誇りもかけて剣を持つ私共を侮る者にはこのくらい当然かと。大公は大変高貴な方なので、傷を残さぬようにと考慮するならこの仕打ちになります」
私は爪を剥ぐ方が得意なのですけどと笑った。
以前、能力の発現した女だけの盗賊団を拿捕したことがあるが、彼女らも男に対して苛烈な刑を課していた。
加虐志向の彼女らは気に入った見目の男を組伏して女にするのを好んでいた。
似たものを感じて薄ら寒さから背中に冷たいものが伝う。
貴人牢のある棟と石造りの城は屋根のついた回廊で繋がっている。
手すりで区切られているが、合間に中庭と繋げた壁も手すりもない動線がある。
そこから出てエヴとロバート殿はダンスの練習と二人で踊った。
「私はいかがしましょうか?」
「観るのも大事なことだ。ロバート殿をよく観察するといい」
ヤンの問いかけにそう答えると頷いて二人を眺める。
「あの水準までいけるか不安です」
「時間があれば大丈夫だが。せめて見劣りしない程度になれ」
「かしこまりました」
二人が一曲の長さを踊ると通路の奥からぞろぞろとジェラルド伯が皆を引き連れて通りかかった。
「まあ、素敵ね。ジェラルド、私も踊りたいわ」
「少しだけだ」
「分かってるわよ?」
ジェラルド伯の腕にエスコートされてエヴ達と並んで四人でタイミングを合わせて踊った。
本当に少しだけ。
一曲分にもならない間でジェラルド伯は夫人を連れて回廊へと戻る。
ついでにエヴ達も足を止めて二人に従った。
四人の壮観さに名残惜しく、他の団員らが寂しそうにため息を吐いた。
「旦那様、もう少し見たかったですよ。残念です」
一人が言うと他の者も頷く。
「大公のお見送りが先だ」
板の上にはうつ伏せに寝かされた大公がいる。
静かなところを見ると失神しているのかもしれない。
しかし、よく見ると姿勢に違和感を感じた。
どこか殴打や裂傷か、それとも他に骨の異常があるのかと気がかりに眉をひそめてじっと見つめると側にいたアグネリアが気づいてこちらに、にぃと笑みを向けた。
「さすがです。お気づきになられたのですね。ご覧になります?」
わくわくと笑みを浮かべて大公を手で指し示す。
ぞわっと怖気が走り、板を先導するブラウンへと視線を向けるとさっと目をそらした。
「ブラウン」
「俺は知りません」
呼び掛けるが顔をそらして答えを拒否した。
「モルガナもとっても上手でして。見聞もあったようで教えるとすんなり覚えてさすがサキュバスと思いました」
側にいるモルガナの肩を叩いて誉めている。
止められそうなジェラルド伯達は家族のしばらくの別れとお互いに声を掛け合ってこちらには気づかない。
好奇心がない訳ではないが罪人の拷問を得意とする鬼人と淫を好むサキュバスの組み合わせが恐ろしい。
「あまり気持ちのいいものじゃなさそうなので、見るのは遠慮する。何をされた?」
「見た方が分かりやすいですよ」
「…聞いてからにする」
「そう仰らずに」
「見せたいのか」
「ええ、久々に会心の出来なので」
そう言うと大公の首筋に指をかけて襟元を強く引っ張った。
服の下に縄が見える。
大公に掛布のように重ねていたロングコートをよけて服の背中を捲ると素肌を縄が網状にめぐっていた。
その縄に指をかけてくっ、くっと引くと気を失っている大公が甘く呻いた。
年寄りの情交は苦手だ。
鳥肌に思わず腕をさすった。
「大公も大変お気に召したようです。お喜びでした」
くく、と笑みを浮かべてまたコートを丁寧にかけ直す。
「過酷な、刑だな」
引きつりながら答えるとアグネリアは気にした様子はない。
「私共、女の身で戦いに投じていますと男とは違う身の危険に晒されます。覚悟の上とは言え喜んで受けるわけではありません。命も誇りもかけて剣を持つ私共を侮る者にはこのくらい当然かと。大公は大変高貴な方なので、傷を残さぬようにと考慮するならこの仕打ちになります」
私は爪を剥ぐ方が得意なのですけどと笑った。
以前、能力の発現した女だけの盗賊団を拿捕したことがあるが、彼女らも男に対して苛烈な刑を課していた。
加虐志向の彼女らは気に入った見目の男を組伏して女にするのを好んでいた。
似たものを感じて薄ら寒さから背中に冷たいものが伝う。
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